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3.モブと愉快な仲間たち、東へ

3-5.思いがけない情報

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「アキオー! 来てー! いっぱいあったー!」
 木立の向こうからマイアリーノの呼ぶ声がして、急いでそっちへ向かうと、昨日の触手の根元から、いくつもの滅石が掘り出されいていた。
「マイアリーノすげー!」
 オレとマイアリーノが手を取り合って喜ぶ傍ら、ルチアーノは険しい顔で呟く。

「どういう事だ……?」

「何が? ボーナス石貰えてラッキーじゃないの?」
「魔物の根元に滅石があるだと……?」
「うん? さっきマイアリーノが掘り出した石にも、おんなじような粘液を出す根っこが絡んでたよ。いつも魔物退治の後には石を回収してるんじゃないの?」
「いいや。私たちは目に見える魔物を根元から倒すだけだ。土の中までは検めない。魔物退治の後は、聖堂の堂主が清めの秘技を行うんだが……そうか……石をあれは回収するのが目的だったのか……」
 ルチアーノは形の良い眉の間の皺を深くして、低い声で唸るように言う。石を回収することに何か問題があるんだろうか?

「石は大事だから回収して当然なんじゃない? というか、石がそこにあるせいで普通の植物が魔物になるのかな? それか、元々魔物になる種類の植物があって、そいつが石を取り込んでる? どっちなんだろう?」
 オレは地面に落ちていた石を拾って朝日にかざした。一つ一つ模様は違うけど、ただの石にしか見えない。ちょっと不気味だけど、綺麗な石だ。

「わからない……私は大聖堂の騎士団長として、国の中枢に近いところにいた。それにも関わらず、滅石については厳重に管理されるべき宝物であるとしか聞かされていなかった。魔物との関係など、一切知らされていないんだ。何故騎士団に隠す必要がある? 聖都に集められた滅石はどこに消えているんだ?」
 ルチアーノは石に見入ったまま、独り言のように呟く。
「滅石とは、一体なんなんだ……?」

「それはオレも知りたい」
 いつの間にか戻ってきていたカレルが、オレの手から石を取って首を傾げた。
「エラストにはこんな石も魔物も存在しなかった。この石が魔物を生むなら、もったいぶって集めたりせず、見つけ次第破壊するべきだろう」
 カレルはそう言って地面に散らばった石をいくつか拾い上げ、まとめて拳の中に握り込んだ。二の腕に力こぶが盛り上がり、前腕に血管が浮く。手の中で石同士が擦れ合ってギリギリと微かな音を立てた。

 石が割れてしまうんじゃないかと思っていると、マイアリーノが必死の形相でカレルの腕に飛びついた。

「カレル、やめて! それは大事なもの。壊したら二度と戻らない!」
「大事? 魔物の元になる石が?」

「ちがう! 石はいのち。みんな持ってる。私たちも持ってる。大事にするものだよ!」

 涙目になってカレルの腕をポコポコ叩くマイアリーノの言葉に、オレたち三人は驚いて目を丸くした。

「いのち……?」
 カレルは握っていた拳を開き、そこにあるちっぽけな赤い石をまじまじと見つめる。

「君、それをいつ、どこで、誰から聞いた?」
 勢い込んだルチアーノが少女の肩を両手で掴んで問いただすと、マイアリーノはあからさまにうろたえた様子で大きな目をキョロキョロさせ、
「……ひみつ」
 と自分の手で口をふさいだ。

 カレルはそんな彼女を鋭い目で見下ろし、
「お前は以前も、石について誰から情報を得たかを隠したな。あの時は危険がないから見逃したが、魔物が絡んでいるなら話は別だ。知っていることを全て教えろ」
 と一歩前に踏み出した。
 マイアリーノは自分を取り囲む男たちの顔を何度も見て、不安そうに唇を震わせる。

「睨むのやめてやれよ。お前ら怖いよ!」
 オレは二人を押しのけてマイアリーノの前に膝をつき、垂れ耳のついた頭を撫でてからなるべく優しい声で説得を試みた。

「もう都からは随分離れちゃったから、その人が誰か分かっても、オレたちはどうもできないよ。君が怒られることもない。だから、誰に教えてもらったのかだけでも教えてくれない? 秘密にするって約束したんなら、オレたちも秘密にする。四人だけの秘密だよ」
「ホントに……? 四人だけ……?」
 まだ不安そうなマイアリーノに力強く頷いてみせると、彼女は俯いてしばらく迷う様子を見せた後、

「フィオレラさま」

 と、一言漏らした。

「フィオレラだと!? 彼女と話したことがあるのか!? いつ、どこで!?」
 ルチアーノは驚いた様子でマイアリーノに詰め寄る。
「やめろって、怖いから!」
 オレはルチアーノを止めたけど、秘密を話すと決めたらしいマイアリーノは硬い表情で一気に話し始めた。

「わたしたち、豚の混ざり者、普通のお祈りに参加できない。だから月に一度、混ざり者だけのお祈りをするよ。フィオレラさま、いつも見ててくれる。時々お話しできる。とても優しい。だから私、石を見つけたこと言った。フィオレラさま、それはいのちだって言った。だから大事。
 神様の子どもはみんな、死んだら石になる。一生懸命お祈りしたら、石はまたいのちになってお腹に戻って来る。なくしたらもう二度と生まれられない」

 思いもよらない重大情報に、オレたちはあんぐり口を開けたまま固まった。

「ファタリタの人は死んだら石になる? その石は人の命そのもので、植物に取り込まれたら命が宿って動き出して魔物になっちゃうってこと? ……ということは、石が豚さんに取り込まれたら、マイアリーノたちみたいな混ざり者が生まれるのか? ルチアーノは、だから混ざり者を嫌がってた?」

 頭を整理するために疑問を次々声に出してみると、ルチアーノが鋭く否定した。

「違う! 我々は、混ざり者はエラスト人と動物との混血だと聞かされていた。エラスト人が禁忌の果てにできた子どもを棄てているから、それをファタリタが保護しているのだと……!」

「ハッ! それはこの上ない侮辱だな。エラストの混ざり者がそんな風に生まれるわけがない。それに、たとえ万が一禁忌の果てに望まぬ子が産まれたとしても、我々は子を絶対に棄てたりはしない」
 ルチアーノの説明を聞いたカレルは、嫌悪に顔を歪めて吐き捨てる。

 オレにはなにが真実かは分からないけど、仮にファタリタではルチアーノの言ったことが常識なのだとすると、彼が混ざり者を下に見つつも気にかけているような態度を取っていた理由が分かるし、この国でエラスト人や混ざり者が嫌われる理由もなんとなく見えてくる。

 問題は、誰が豚さん達のような混ざり者を生み出したのかと言うことだ。

「じゃあマイアリーノたちは一体どういう経緯で生まれたんだろう? ねえ、マイアリーノ、お母さんやお父さんはどこにいるの?」

 マイアリーノはオレたちの困惑を分かっているのかいないのか、きょとんとした顔で
「お母さまはフィオレラさま、お父さまは神様」
 と答える。

「フィオレラが……?」
 ルチアーノが言葉を受け止めかねたように一歩よろりと後ろに下がった。

「いや、彼女が産んだわけじゃないと思うよ!? マイアリーノとフィオレラはそんなに年が変わらないでしょ。しかも豚さん達はめっちゃ一杯いたんだから、一人で産めるわけない。そういう風に教えられてきてるって事だよ」
 オレはショックを受けているルチアーノを叱咤する。

「そ、そうだな。しかし……フィオレラは私に何も言わなかった……石のことも、混ざり者のことも、何も……」
 ルチアーノは片手で額を押さえ、すぐ後ろにあった木の幹に呆然ともたれ掛かった。恋人に隠し事をされていたことが余程こたえているようだ。
「彼女は私に全てを話してくれていると思っていたのに……私は彼女の信頼に値しなかったのか……?」

「ちがう! フィオレラさま、ルチアーノさまのこと信じてるよ! 上手くやって欲しいと言ってた。だから私に石集めてってお願いしたよ。ルチアーノさま、頑張らないとダメ。フィオレラさま、待ってる」
 マイアリーノが打ちひしがれているルチアーノの腕を引いて訴える。

 ルチアーノは体が縮んでしまうんじゃないかと思うくらい大きい溜息をつき、
「……そうだな。私はもう旅を始めてしまった。できることをやるしかない」
 と顔を上げた。

「遅くなってしまったが、石を拾ってすぐに出発しよう」
 気分を切り替えるように言ったルチアーノは、いつも通りの颯爽とした表情を取り戻し、マントを翻して小屋の方へと歩き出した。マイアリーノが嬉しそうにその後を小走りについていく。

 オレは地面に落ちた滅石を全て拾いあげ、
「死んだ人の命を集めて願いを叶えるって、ちょっと……かなり怪しい話になってきたね」
 とカレルを振り返る。

 カレルは難しい顔をしたままオレの手にある石を睨み、
「怪しいのは最初からだ」
 と、雲の増え始めた空を見上げた。


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十二月とお正月は私生活多忙のため、ここで一旦更新停止致します。
一月後半に戻って来られるよう頑張りたいと思います。
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