エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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2.モブ、旅立ちを決意する

2-1.モブ、ようやく牢の外の異世界を知る

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 オレたちと手を組むと決めたら、騎士の行動は早かった。

「協力すると決まれば、まずお前達の身なりをどうにかしなければな。そのまま大聖堂へ顔を出したら、賊と間違われるだろう。着いてこい」
 オレはカレルと目を見合わせてから、来たのとは別の洞窟への道を歩き出す騎士の後を追う。道は一人分の横幅しかなく、オレですら少しかがまないと天井に頭をぶつけてしまうくらい狭かった。背の高い騎士は腰を屈めているし、それより大柄なカレルはほとんどしゃがんだまま歩いている。
 道は暗く曲がりくねっていた。オレの石はさっきまでとは違ってうっすら光っているだけで、道を照らすほどの光量はなくなっている。先を行く騎士の掲げる松明だけが頼りだ。
 狭いトンネルのような道はすぐに上り坂になり、短い階段を上るとがっしりとした木の扉があった。騎士が扉を開けるのに続いてオレたちも外に出る。

 扉の外は、森の中に突然できた小さな空き地のようだった。地下をさまよっている間に日が落ちてしまったようで、背の高い木立の向こうに少しだけ欠けた月が浮かんでいるのが見えた。月明かりで辺りは思ったよりも明るい。

「こっちだ」
 騎士に導かれるまま着いていくと、二階建ての宿屋のような建物があった。藁葺き屋根の素朴な建物で、開けっぱなしの窓からは温かそうなオレンジ色の光と、食べ物の匂いが漏れ出している。その匂いを嗅いだ途端、オレの腹が盛大に鳴った。よく考えたら、牢に入れられてから二日近く何にも食べてない。急に目眩がして倒れ込みそうになるけど、傍に居たカレルに支えられて何とか倒れずに済んだ。

 騎士はノックもせずにドアを開け、オレたちにも入るように促した。
 中は食堂のようだった。大小のテーブルと端材で作ったような不揃いの椅子が並び、テーブルの上には湯気を立てる鍋と深皿が載っている。
 中にいた十人程度は、突然の訪問者に驚いた様子で一斉に立ち上がり、怯えたようにオレたちを見た。
 そこにいるのは、全員が『混ざり者』だった。
 神殿で掃除をしていた時と同じく、全員揃いのフード付きマントを着ているが、今は食事のためかフードが外されていて、豚の特徴がはっきりと分かる顔が晒されていた。
 どのくらいの割合で豚と人が混じるかは個体差があるようで、完全に豚の顔に人間の身体の者、鼻や耳だけ豚の者など、いろいろな特徴がある。それが皆、凍り付いたようにオレたちをじっと見ていた。

「マイアリーノ!」
 騎士が呼びかけると、耳と鼻だけに豚の特徴のある少女が跳ねるように戸口までやって来た。騎士はその子に小さな麻袋を渡し、
「この二人に飯と寝床を頼む。替えの衣服と、身を清める湯も用意してやってくれ。できるか?」
 と聞いた。洞窟では、混じり者に対して嫌悪感を露わにしていたわりに、騎士の声は穏やかで、優しくすら聞こえる。マイアリーノと呼ばれた少女は、丁重に頷いてオレたちを奥へと導いた。
「アンタは?」
 オレが騎士を振り返ると、騎士は
「アンタと呼ばれるのは不快だ。私の名はルチアーノ・デ・ディウリオだ。ルチアーノと呼べ」
 と不機嫌そうに唸った。
「あ、そっか。自己紹介もしてなかったな。オレはユシマ・アキオ。こっちはカレル・フリジェリオ。これからよろしくな」
 オレが差し出した手は無視された。イケメン騎士は仲間になっても感じが悪い。
「私は一旦騎士団本部へ戻る。明朝、迎えを寄越すから、身なりを整えて大聖堂へ来るが良い」
「それで掴まってジ・エンドとかにならないよね?」
「私の名にかけて、それはさせない」
 ルチアーノは毅然と言い切り、踵を返して出て行った。

 騎士の姿が見えなくなった途端、その場にいた混ざり者達は安堵したような声を上げ、和やかに食事に戻った。オレたちがマイアリーノに案内されて奥のテーブルに座ると、すぐにスープとパンが運ばれてきた。

「やっと食べられる~! もうお腹ペコペコだよお! 頂きまーっす!」
 オレは両手を合わせてから、大きな木のスプーンでスープを掬って口に入れた。熱々でクリーミーなスープは、今まで生きていた中で一番ってくらいに旨かった。塩気は薄いけどキノコや野菜の旨味がたっぷりで、いくらでも食べられる。平べったくて中身のみっしり詰まった重いパンをつけて食べると、更に美味しい。

「美味しかった! ごちそうさま!」
 あっという間に食べ終えて、マイアリーノに向かってお礼を言うと、彼女は鼻をうごめかせて目だけで微笑んだ。鼻が子豚ちゃんな事を除けばマイアリーノは結構可愛い。

 食べ終えた後はまたマイアリーノに案内されて、二階に上がる。二階の天井はオレですら頭をぶつけそうなくらい低かった。マイアリーノ達の種族は背が低いみたいだから、この建物は彼ら用に作られたものなんだろうか。背の高いカレルは常に中腰で大変そうだ。

 オレたちは階段横の部屋に案内された。短い廊下にはあと二つドアが並んでいる。ドアは閉まっていたので、中の様子は分からなかった。
 通された部屋は狭かった。家具は何も無い。窓のある壁際に藁が積んであるだけだ。
「ごめんなさい。ここにはベッドがないの。寝藁はまだ新しいから、上に布を敷いてください」
 マイアリーノはそう言ってオレに畳んだ布を渡してきた。
「後でお湯を運ばせます。これは身体を拭く布と、新しい服」
 次々に渡され、オレの両手の上に布の山ができていく。
「他に何か要る物があれば、なんでも言ってください。なるべく探してみますから」
 マイアリーノはピンク色の顔をちょっと傾けてニコリと笑った。鼻は豚だけど、よく見たらすごく可愛いな。オレはにわかにドギマギして口ごもってしまう。
「ありがとう。用があればこちらから声を掛ける」
 オレがモゴモゴしている内に、カレルが言ってマイアリーノを下がらせた。
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