エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし

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1.異世界のモブ、牢から逃げる

1-10.選ばれしモブ

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 その時、オレたちは狭い洞窟から急に広い空間に出た。深呼吸すると、清々しい水の香りがする。
 とうとう地底湖に辿り着いたのだ。
 オレの持つ石はますます輝きを増し、湖面を照らし出した。水は透明で、石の光をきらきらと跳ね返している。覗き込んでも底は闇に沈んで見えない。
 昨日から飲まず食わずで動き続けてきたオレは、水を目にした途端喉の渇きが抑えきれなくなる。光る石をズボンのポケットに突っ込み、水際に駆け寄って両手を伸ばした。


「神聖な水に触れるな!」

 もう少しで水面に指が触れると言う時、急に鋭い声で制止され、オレは驚いて声の方を見た。
 ほんの数メートル先に、一人の若い騎士が松明を掲げて仁王立ちになっていた。桟橋でオレたちのボートに剣を投げてきた主人公のアイツだ。
 自分が来たのとは別の道もあるとは予想していなくて、驚いて固まるオレの横で、カレルが無言で剣を構える。

「よせ。ここで戦う気は無い」

 騎士は戦意が無いことを示すように、両手を宙に上げてこちらに近づいてきた。湖で剣をオレたちに投げてしまったせいか、腰に下がっているのは鞘だけで、他に武器を持っている様子もない。

「では何のためにオレたちを追ってきた?」

 カレルが剣を構えたまま聞くと、騎士は近くにあった岩に腰掛け、

「お前に用があるからだ」

 とオレに目を向けた。

「お、オレ??」
「そうだ。お前が奪ったあのボートは神聖なものだ。資格のないものが乗っても動くことはない。しかしお前はここに辿り着いた。つまり、お前が願いの巡礼者だということだ」
「資格って……そんなもん取った覚えはないけど。それに、カレルも一緒だったし」

 騎士は片眉を上げて馬鹿にしたような表情を見せて言う。

「混ざり者が神に選ばれることは無い。お前、命願石を持っているだろう」

 オレはハッとしてポケットの上から石を押さえた。

「やはり、隠し持っているな。お前はそれをどこで手に入れた?」

 騎士はやにわに立ち上がり、オレに掴みかかってくる。すぐに間にカレルが割って入り、

「アキオは何も盗んでいない。アキオの持つ石は、命願教が作り出した石ではない!」

 と叫んで騎士を拘束しようと手を伸ばしてくれたけど、騎士は持っていた松明をカレルの顔に向けて振りかざした。カレルは寸前でそれを避けたけど、長く伸びた髪に火が燃え移り、それを消すために後ろへ下がる。カレルが離れた途端、騎士はオレに飛びかかり、ポケットに手をのばしてきた。

「それこそが、私の求める石だ!!」

 必死で石を握りしめて離すまいと頑張っていたけど、騎士はオレの手首をつぶす勢いで力を入れてくる。たまらず指の力を緩めてしまい、ポロリと石が水際の地面に落ちた。

「うおおおおっ!」

 騎士はオレを突き飛ばし、物凄い形相で石に手を伸ばす。指先がわずかに触れた瞬間、石は虹色の火花をあげた。


 バチッ!!


 弾かれたような音がして吹っ飛ばされた騎士が岩壁に叩き付けられ、広くもない岩窟内が虹色の光で一杯になる。石は騎士を吹き飛ばした後も、パチパチと小さな火花を上げ続けていた。

 火花が治まるのを待ってオレは恐る恐る石に近寄り、そーっと指先でそれをつつく。特に異変は起こらない。両手で包んで持ち上げでも、石はただ穏やかに光っているだけだ。変わった様子は一つもない。

「まさか、持ち主を選ぶのか……」

 カレルが焦げた髪を引きちぎりながらオレの傍に寄ってきて言った。

「くそっ……何故お前のような者が天に選ばれる……」

 仰向けに吹っ飛ばされた騎士は、衝撃から立ち直れない様子で苦しげに呻いている。

「天に選ばれるって、何だよ? この石は本当に命願石なのか? どうしてアンタはこれが欲しいんだよ? アンタは普通に立候補すれば大聖堂から石を貰って巡礼になれるだろ?」

 騎士はしばらく立ち上がろうともがいていたが、石の電撃ショックが余っ程こたえたみたいで、諦めたように力を抜いて横たわり、ボソボソと話し始めた。

「もちろん、私は明日の発願祭が終われば、正式に巡礼者として旅に出る。しかし、私の願いは通常の手続きでは叶えられないかもしれないんだ……」
「なんで?」
「知られてはいないが、大聖堂が発行する命願石には叶えられる願いに制限がある。いくら滅石を集めても、命願教の教えに沿った願いしか叶えられない。巡礼は敬虔な命願教徒から選ばれるので、そもそも教義に反する願いは抱かない。だから願いは『必ず叶う』んだ。叶えられない願いがある事なんか、ファタリタの民は考えつきもしない」

「とんだ欺瞞だな」

 カレルが吐き捨てるように言った。騎士はカレルの言葉を無視して、オレに真っ直ぐに視線を向けてきた。

「だが、お前の持つ石が本当の命願石ならば、叶えられる願いに制限はない。ファタリタを滅ぼすことも、新しい世界を作ることすらできるはずだ」
「ええぇ……?」

 オレは手の中で虹色に輝くちっぽけな石をまじまじと見つめた。

───もしかして、コレ……天に選ばれし勇者の証ってコト?

 そう思うと、顔が勝手にニヤけてきた。


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