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<現在>再会
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暖房の効きすぎた特急列車から下りた清高は、久々に帰った地元の駅のホームで深く息を吸った。地元はクソ田舎というわけではないが、冷たい空気は東京より幾分爽やかだ。
しかし寒さが心地よいと思ったのは束の間だった。
乾いた風に首元を撫でられた清高は、首をすくめてジャケットの襟を掻き合わせる。成人式を口実に奮発して買った上着は、見た目ばかりであまり温かくはない。
急いで改札口へ続く階段を上ると、駅の構内には自分と同年代の男女がぽつりぽつりと人待ち顔で立っていた。自分と同じように、式典にかこつけて久々に地元のツレと遊ぼうと帰省してきた若者だろう。灰色にくすんだ屋根の下で、女の子達の晴れ着姿が華やかだ。
改札階から地上に下りた清高が辺りを見回していると、ロータリーの端に止まった車から、派手なクラクションと共に懐かしい大声が飛んできた。
「おーい、キヨ! はよ来い! 遅刻するぞ!」
その声に反応して、自販機の前にたむろしてい派手な羽織袴の男数人がチラリと清高に視線を寄越す。
「あれ花商のキヨタカ? こっち戻ってんの?」
「ウソ。あいつケーサツに捕まってムショ入れられたんじゃなかったっけ?」
「マジ? ヤベーな。何やったん?」
「知らね。コロシ? クスリ? じゃなかったけ?」
小声で話しつつジロジロ見てくるそいつらに、清高は足を止めてガンを飛ばした。高校の時なら即ケンカになっているパターンだ。
身構える連中に一歩踏み出そうとすると、
「キヨ! ほっとけ!」
と声を掛けられて、清高は鋭く舌打ちした。噂話をしていた男達は、ニヤニヤしつつこっちを見ている。
ムカムカしながら、あちこちぶつけた跡のある黒のミニバンに近づくと、助手席側のドアが勢いよく開いた。
「はよ乗れ。駐車場が混むんや」
運転席から身を乗り出しているのは、清高のほぼ唯一の友人だった宮脇大志だ。似合わないスーツ姿は新鮮だが、日に焼けた四角い顔は高校時代と変わらない。
「へーへー」
適当に頷いて隣に乗り込むと、シートベルトを締めるのを待たずに車が発進した。
「お迎えサンキュ。助かるわ。てかこの車、もしかして仕事用?」
後ろのスペースに積まれた工具や資材を振り返って清高が聞くと、宮脇は黙って頷く。ハンドルを握る様子はすっかり板についていた。
「マジか~……宮脇、ちゃんと仕事してんのね。すげーな。建築系?」
「内装屋。下っ端やけどな」
高校生時代は同じようにはみ出し者だった仲間が、まっとうに社会人している事実を突きつけられて、清高は自分の中途半端さに軽くヘコむ。
清高は高校卒業後に地元を出て、都心の専門学校に通い始めたのだが、課題の多さと学費の高さに嫌気が差して半年で退学してしまった。今はアルバイトで食いつなぎつつ、ズルズルと都会の底辺をさまよっている。その格好悪い現実を知られるのが嫌で、これまで地元に帰ってこられなかった。
当然、成人式にも出席するつもりはなかったが、宮脇にしつこく誘われて、顔だけ出すことにしたのだ。やはり止めておけば良かった、と清高は軽い後悔に襲われた。
「みんな元気でやってんの?」
「おう。ボチボチ。そっちは?」
「こっちもボチボチってとこ」
久しぶりの会話は上滑りして、すぐに途切れてしまう。車は空いた国道を快調に走っていく。目的地の県立体育館までは10分もかからないが、その10分が妙に長く感じられた。
「なあ、キヨ」
赤信号で止まったと同時に低い声で呼びかけられ、ぼんやりしていた清高はびくりと肩を揺らした。
「なに?」
「オマエ、もっと帰って来いよ」
宮脇は前を睨んだまま渋い顔で言う。
「帰ってくる理由がねえ」
「学校いそがしいんか」
「あ~……専門はさ、辞めたんだよ。中退」
そう答えると、宮脇はちょっと驚いた顔をした。清高は取り繕うように続ける。
「学費払うの大変でさ。バイトだと家賃払うので精一杯。帰ってくるのも金かかるから」
「そうなんか。じゃあ今日は無理に誘って悪かったな」
「気にすんなよ。誘われなきゃ帰ろうって気にもならねえし、覚えててくれてありがてえよ」
清高が笑って宮脇の肩を軽く叩くと、宮脇は清高を一瞬見つめ、
「覚えてて、ってよ……忘れる訳ないやろが」
と唸るように言って、再び車を走らせ始めた。
清高は、何かを押し込めたような宮脇の横顔を見やり、コイツはこんな複雑な顔をする男だったかと内心首を傾げる。
記憶に残っている宮脇はいつも単純明快で、喜怒哀楽のはっきりした人間だった。二年ほど会わない内に何かあったのだろうか。昔は一番ノリが合っていた友達が、なんだか遠くへ行ってしまったような気がして、何となく寂しくなった。
だだっ広い県立の体育館で行われた成人祝いの式典は、拍子抜けするくらいアッサリ終わった。
集められた同年代達は適当に挨拶を交わし終えると、仲の良いグループに分かれて解散していく。清高は宮脇とそのツレから飲みに誘われた。手回しの良い一人が、安い居酒屋の二階の座敷を貸し切っているらしい。
断る理由もないので参加することにしたが、飲み会はいつ終わるともなく長引いた。最初は同じ学校の出身者同士で固まっていたが、店を変える度にOBや関係ない連中まで加わり、三軒目の今はもう何の集まりか分からなくなっている。
いい加減酒の回った同級生たちが何度目かわからない乾杯の声を上げているのを横目で眺めた清高は、幹事は会計をどうするつもりなんだろうとボンヤリ心配する。
そっとスマホの時計を見ると、日付がかわるまであと30分だ。もう最終の特急は行ってしまった。
勘当された実家には今更戻れないから、朝までここで粘るしかないが、皆が盛り上がっている地元の噂話には全く乗れず、やっぱり一軒目で帰れば良かったかなと清高は後悔する。
大人しく座敷の隅でグラスに残った薄いハイボールを啜っていると、
「飲んどるか~!?」
と、真っ赤な顔をした宮脇が、ビール瓶を抱えてドスンと隣に腰を下ろした。
「飲んでるよ。てかオマエは飲み過ぎじゃないの?」
中身の残ったグラスに乱暴にビールを注がれ、清高は口をへの字にして眉を寄せる。
「まだまだじゃあ~! 朝まで飲む!」
ビール瓶をラッパ飲みした宮脇は、酒臭い息を吐いて
「東京は面白いか!?」
と大声で聞いてきた。清高は苦笑して、友人の前に水のグラスを置いてやる。
「面白いって訳でもないけど、こっちよりは刺激的だよ」
「こっちがつまらんから帰ってこんのか」
「そういうわけじゃねえけど……」
「ほんなら何でじゃあ~。もっとしょっちゅう帰って来いやあ~」
宮脇は据わった目をして言い、清高の肩に腕を回してきた。ワイシャツ越しでも飲み過ぎて体温が上がっているのが分かる。
「金がないんだってば」
「電車賃くらいワシが出す! なんぼや!?」
「いやいや、マジかよ! なんでそんな帰ってきて欲しがるの?」
「だって寂しいやないか~。他の東京行った連中はしょっちゅう帰ってくるけど、オメエは全然顔見せへん! ワシは寂しい」
大男に馬鹿力で抱きしめられて、清高はぐえ、と呻く。宮脇はそのままズルズルと倒れ込み、清高の膝に頭を乗せて床に転がった。
「おい、そこで寝るなよ」
清高は重い頭をどけようと立ち上がりかけてたが、
「キヨよう、本気で帰ってくる気、ないんか」
という寂し気な呟きに動きを止めた。
「……正直、今んとこはねえな」
膝の上の頭を持て余しつつ清高が答えると、
「さみしいな」
と宮脇が強く目をつむる。よく見ると目尻に涙が浮いている。意外と泣き上戸なのだろうか。
「泣くほどかよ」
と笑うと、
「ワシの知らんオマエが増えていくのが嫌なんじゃあ」
と宮脇は掌底で乱暴に目元を拭った。
「なんだよそれ? そりゃみんなそうじゃん。オレだって最近の地元ネタについていけなくて寂しい気持ちはあるよ」
「ほな帰ってこいや」
「ヤだよ」
「何でじゃ!?」
酔っ払いとの会話は堂々巡りになる。
「なんでって……お前こそ何でそんなオレに帰ってきて欲しがるんだよ? ミヤはちゃんと仕事してて、仲良い先輩も後輩もいるじゃん。今日だって、ずっとみんなに囲まれてさ。彼女もいんだろ?」
「おらん。彼女はおらん」
宮脇は急にきっぱりと言い切る。
「あ、そう……じゃあ作ればいいじゃん。彼女いりゃ寂しくなくなるだろ」
と返すと、
「いらん」
と即答された。
「それよりワシはお前に帰ってきて欲しい」
縋るような声音で呟くので、清高は呆れて肩をすくめる。
「マジかよ~オマエ、そんなオレのこと好きだったわけ~?」
くすぐったさと馬鹿馬鹿しさで笑いが止まらず、わざとらしくおどけて言うと、
「知らんかったんか。ワシ、オマエのこと好きや……」
と腹に抱きつかれ、思わず笑いが引っ込んだ。
「は?」
「好きなんや。会えんようになってから、オマエのこと思い出すたびに苦しい……」
ぎゅうと腹に巻き付いた太い腕に力がこもる。声はひどく真剣で、ふざけているようには聞こえない。
清高はひどく困惑して友人を見下ろした。
「好きって、お前……」
毎日のように顔を合わせていた頃は、そんな事一言も言わなかったくせに。
どうして今頃そんな事を言い出すのだ。
地元を離れる決心をしたあの時、傷ついて、慰めを欲していた清高に対して、「友達だから」とキッチリ線を引いたのは宮脇の方だったじゃないか。
なのに今更、どうして「好きだ」などと言い出すのだ。
どうせなら、あの時そう言えば良かっただろうが、とフツフツ怒りが湧いてくる。
清高は、膝の上で寝かかっている宮脇の顔をじっと見下ろし、過去を思い返し始めた───
しかし寒さが心地よいと思ったのは束の間だった。
乾いた風に首元を撫でられた清高は、首をすくめてジャケットの襟を掻き合わせる。成人式を口実に奮発して買った上着は、見た目ばかりであまり温かくはない。
急いで改札口へ続く階段を上ると、駅の構内には自分と同年代の男女がぽつりぽつりと人待ち顔で立っていた。自分と同じように、式典にかこつけて久々に地元のツレと遊ぼうと帰省してきた若者だろう。灰色にくすんだ屋根の下で、女の子達の晴れ着姿が華やかだ。
改札階から地上に下りた清高が辺りを見回していると、ロータリーの端に止まった車から、派手なクラクションと共に懐かしい大声が飛んできた。
「おーい、キヨ! はよ来い! 遅刻するぞ!」
その声に反応して、自販機の前にたむろしてい派手な羽織袴の男数人がチラリと清高に視線を寄越す。
「あれ花商のキヨタカ? こっち戻ってんの?」
「ウソ。あいつケーサツに捕まってムショ入れられたんじゃなかったっけ?」
「マジ? ヤベーな。何やったん?」
「知らね。コロシ? クスリ? じゃなかったけ?」
小声で話しつつジロジロ見てくるそいつらに、清高は足を止めてガンを飛ばした。高校の時なら即ケンカになっているパターンだ。
身構える連中に一歩踏み出そうとすると、
「キヨ! ほっとけ!」
と声を掛けられて、清高は鋭く舌打ちした。噂話をしていた男達は、ニヤニヤしつつこっちを見ている。
ムカムカしながら、あちこちぶつけた跡のある黒のミニバンに近づくと、助手席側のドアが勢いよく開いた。
「はよ乗れ。駐車場が混むんや」
運転席から身を乗り出しているのは、清高のほぼ唯一の友人だった宮脇大志だ。似合わないスーツ姿は新鮮だが、日に焼けた四角い顔は高校時代と変わらない。
「へーへー」
適当に頷いて隣に乗り込むと、シートベルトを締めるのを待たずに車が発進した。
「お迎えサンキュ。助かるわ。てかこの車、もしかして仕事用?」
後ろのスペースに積まれた工具や資材を振り返って清高が聞くと、宮脇は黙って頷く。ハンドルを握る様子はすっかり板についていた。
「マジか~……宮脇、ちゃんと仕事してんのね。すげーな。建築系?」
「内装屋。下っ端やけどな」
高校生時代は同じようにはみ出し者だった仲間が、まっとうに社会人している事実を突きつけられて、清高は自分の中途半端さに軽くヘコむ。
清高は高校卒業後に地元を出て、都心の専門学校に通い始めたのだが、課題の多さと学費の高さに嫌気が差して半年で退学してしまった。今はアルバイトで食いつなぎつつ、ズルズルと都会の底辺をさまよっている。その格好悪い現実を知られるのが嫌で、これまで地元に帰ってこられなかった。
当然、成人式にも出席するつもりはなかったが、宮脇にしつこく誘われて、顔だけ出すことにしたのだ。やはり止めておけば良かった、と清高は軽い後悔に襲われた。
「みんな元気でやってんの?」
「おう。ボチボチ。そっちは?」
「こっちもボチボチってとこ」
久しぶりの会話は上滑りして、すぐに途切れてしまう。車は空いた国道を快調に走っていく。目的地の県立体育館までは10分もかからないが、その10分が妙に長く感じられた。
「なあ、キヨ」
赤信号で止まったと同時に低い声で呼びかけられ、ぼんやりしていた清高はびくりと肩を揺らした。
「なに?」
「オマエ、もっと帰って来いよ」
宮脇は前を睨んだまま渋い顔で言う。
「帰ってくる理由がねえ」
「学校いそがしいんか」
「あ~……専門はさ、辞めたんだよ。中退」
そう答えると、宮脇はちょっと驚いた顔をした。清高は取り繕うように続ける。
「学費払うの大変でさ。バイトだと家賃払うので精一杯。帰ってくるのも金かかるから」
「そうなんか。じゃあ今日は無理に誘って悪かったな」
「気にすんなよ。誘われなきゃ帰ろうって気にもならねえし、覚えててくれてありがてえよ」
清高が笑って宮脇の肩を軽く叩くと、宮脇は清高を一瞬見つめ、
「覚えてて、ってよ……忘れる訳ないやろが」
と唸るように言って、再び車を走らせ始めた。
清高は、何かを押し込めたような宮脇の横顔を見やり、コイツはこんな複雑な顔をする男だったかと内心首を傾げる。
記憶に残っている宮脇はいつも単純明快で、喜怒哀楽のはっきりした人間だった。二年ほど会わない内に何かあったのだろうか。昔は一番ノリが合っていた友達が、なんだか遠くへ行ってしまったような気がして、何となく寂しくなった。
だだっ広い県立の体育館で行われた成人祝いの式典は、拍子抜けするくらいアッサリ終わった。
集められた同年代達は適当に挨拶を交わし終えると、仲の良いグループに分かれて解散していく。清高は宮脇とそのツレから飲みに誘われた。手回しの良い一人が、安い居酒屋の二階の座敷を貸し切っているらしい。
断る理由もないので参加することにしたが、飲み会はいつ終わるともなく長引いた。最初は同じ学校の出身者同士で固まっていたが、店を変える度にOBや関係ない連中まで加わり、三軒目の今はもう何の集まりか分からなくなっている。
いい加減酒の回った同級生たちが何度目かわからない乾杯の声を上げているのを横目で眺めた清高は、幹事は会計をどうするつもりなんだろうとボンヤリ心配する。
そっとスマホの時計を見ると、日付がかわるまであと30分だ。もう最終の特急は行ってしまった。
勘当された実家には今更戻れないから、朝までここで粘るしかないが、皆が盛り上がっている地元の噂話には全く乗れず、やっぱり一軒目で帰れば良かったかなと清高は後悔する。
大人しく座敷の隅でグラスに残った薄いハイボールを啜っていると、
「飲んどるか~!?」
と、真っ赤な顔をした宮脇が、ビール瓶を抱えてドスンと隣に腰を下ろした。
「飲んでるよ。てかオマエは飲み過ぎじゃないの?」
中身の残ったグラスに乱暴にビールを注がれ、清高は口をへの字にして眉を寄せる。
「まだまだじゃあ~! 朝まで飲む!」
ビール瓶をラッパ飲みした宮脇は、酒臭い息を吐いて
「東京は面白いか!?」
と大声で聞いてきた。清高は苦笑して、友人の前に水のグラスを置いてやる。
「面白いって訳でもないけど、こっちよりは刺激的だよ」
「こっちがつまらんから帰ってこんのか」
「そういうわけじゃねえけど……」
「ほんなら何でじゃあ~。もっとしょっちゅう帰って来いやあ~」
宮脇は据わった目をして言い、清高の肩に腕を回してきた。ワイシャツ越しでも飲み過ぎて体温が上がっているのが分かる。
「金がないんだってば」
「電車賃くらいワシが出す! なんぼや!?」
「いやいや、マジかよ! なんでそんな帰ってきて欲しがるの?」
「だって寂しいやないか~。他の東京行った連中はしょっちゅう帰ってくるけど、オメエは全然顔見せへん! ワシは寂しい」
大男に馬鹿力で抱きしめられて、清高はぐえ、と呻く。宮脇はそのままズルズルと倒れ込み、清高の膝に頭を乗せて床に転がった。
「おい、そこで寝るなよ」
清高は重い頭をどけようと立ち上がりかけてたが、
「キヨよう、本気で帰ってくる気、ないんか」
という寂し気な呟きに動きを止めた。
「……正直、今んとこはねえな」
膝の上の頭を持て余しつつ清高が答えると、
「さみしいな」
と宮脇が強く目をつむる。よく見ると目尻に涙が浮いている。意外と泣き上戸なのだろうか。
「泣くほどかよ」
と笑うと、
「ワシの知らんオマエが増えていくのが嫌なんじゃあ」
と宮脇は掌底で乱暴に目元を拭った。
「なんだよそれ? そりゃみんなそうじゃん。オレだって最近の地元ネタについていけなくて寂しい気持ちはあるよ」
「ほな帰ってこいや」
「ヤだよ」
「何でじゃ!?」
酔っ払いとの会話は堂々巡りになる。
「なんでって……お前こそ何でそんなオレに帰ってきて欲しがるんだよ? ミヤはちゃんと仕事してて、仲良い先輩も後輩もいるじゃん。今日だって、ずっとみんなに囲まれてさ。彼女もいんだろ?」
「おらん。彼女はおらん」
宮脇は急にきっぱりと言い切る。
「あ、そう……じゃあ作ればいいじゃん。彼女いりゃ寂しくなくなるだろ」
と返すと、
「いらん」
と即答された。
「それよりワシはお前に帰ってきて欲しい」
縋るような声音で呟くので、清高は呆れて肩をすくめる。
「マジかよ~オマエ、そんなオレのこと好きだったわけ~?」
くすぐったさと馬鹿馬鹿しさで笑いが止まらず、わざとらしくおどけて言うと、
「知らんかったんか。ワシ、オマエのこと好きや……」
と腹に抱きつかれ、思わず笑いが引っ込んだ。
「は?」
「好きなんや。会えんようになってから、オマエのこと思い出すたびに苦しい……」
ぎゅうと腹に巻き付いた太い腕に力がこもる。声はひどく真剣で、ふざけているようには聞こえない。
清高はひどく困惑して友人を見下ろした。
「好きって、お前……」
毎日のように顔を合わせていた頃は、そんな事一言も言わなかったくせに。
どうして今頃そんな事を言い出すのだ。
地元を離れる決心をしたあの時、傷ついて、慰めを欲していた清高に対して、「友達だから」とキッチリ線を引いたのは宮脇の方だったじゃないか。
なのに今更、どうして「好きだ」などと言い出すのだ。
どうせなら、あの時そう言えば良かっただろうが、とフツフツ怒りが湧いてくる。
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