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狼は瞳をひらく2
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誘惑するように唇を舌がなぞった。あの唇とキスをすることをずっと夢見ていた。あの身体に触れて抱きしめる事も。その身体が俺を欲し、俺の望みをかなえてくれると言う。
揺れるのではないかと恐れていた。
もしかしたら、俺はアーシュを忘れることは出来ないのではないかと。そうではないと否定しながらも、どこかで恐れていた。
俺の唇がゆっくりと夢を見るように弧を描く。
それを見たアーシュの瞳が甘さを湛えて微笑んだ。
「僕とおいで?ロー」
触れそうな距離だ。ふわりと甘い匂いが漂う。それは多分魅惑的な香りなのだろう。
だが、それはメリーの匂いではない。オレの愛する匂いではない。
吐き気がする。
ぐっと握った拳に気を集めてアーシュに向かって突き出す。
自動で立ち上がった防御が、ばちばちと音をたててそれを防いだ。
苦痛と怒りの声が辺りに響く。防御はされても伝わった衝撃に、アーシュの軽い体が吹き飛んだ。
「酷いことをするんだね」
よろりとよろめきながら、それでも倒れずに堪えたアーシュが苦痛の声をあげながらわき腹を押さえた。上げられた顔が醜く歪んで俺を睨みつけた。
「メリドウェン先輩がどうなってもいいのかな」
「俺がアーシュのものになったら、メリーはきっと泣く」
「いいじゃないか。助かるんだから。狂ったまんまなんて……可哀想だとは思わないの?」
狂った……その言葉に息が詰まりそうになる。
「ローのせいでしょ?」
「……違う」
「だってローを助ける為に器が壊れてしまったんでしょ?」
そうだ。
それでも。
「メリーは俺をお前に渡したりはしない。お前に従うことはメリーを裏切ることだ。例え狂ったままだとしても……俺はメリーを愛している。どんなメリーも俺のものだ」
アーシュの顔が邪悪に歪む。
「随分……気持ちの悪い事を言う」
「メリーは俺の伴侶だ。オオカミは選んだ伴侶を裏切ったりしない」
「伴侶だって?笑わせるな!僕がいなくならなければ、ローはあいつに見向きもしなかっただろう?僕が気づいてなかったと思うの?あのエルフはずっとローを見てた」
「黙れ」
「いつも惨めったらしくローの後をついて回ってさ。物欲しげな目でずっと見ていたんだ。ローは僕をだけを見てたのにね。可笑しいったらないよ」
怒りにうなじの毛が逆立っていく。
メリーはどんなに惨めだっただろう。振り向かぬ俺を愛するのはどんなに辛かっただろう。俺が現実を見ることを拒んでいたせいだ。自分を哀れみ、自分を憎んで、自分を軽んじていたせいで。
与えられたものを飲み、与えられたものを食べていた。
何の疑問も持たずに、本当の自分の心を見ようともしないで。アーシュはオオカミとしては異常だった。オオカミは番を作る。だからこそ、複数の人間と寝たりはしない。アーシュはその身体を他の者に与え続けていた。オオカミである俺は本能で唯一の存在を求め……ただ側にいる同族だったから、それだけの理由で俺はアーシュにこだわり続けていた。
俺のものではないのは明白だったのに。
そのせいでメリーは惨めな日々を過ごした。
俺はそれを償い続けるだろう。愛することで、裏切らぬことで。
メリーの声が聞きたい。
俺の名を呼ぶ声を。
だが、もしそれが叶わなかったとしても……決してこの心は揺るぎはしない。
「アーシュ……兵を引け。お前のいるべき場所へ帰り、そこへ留まれ。王国にも妖精国にも、そして、オオカミの巣にも手出しをすることは許さない」
心の中に潜む獣に声をかけた。
『手を貸せ』
獣がぐるぐると唸りながら近づいてくる。
『力を貸せ』
凶暴な目と目を合わせた。お前も俺ならば。
大きく裂けた口が弧を描く。
ぐっと近づいた獣が俺の心臓に手をかける。
『めリーを?』
『そうだ、助けよう』
頷くと、獣が笑い声をたてる。心臓に爪が入り獣が中に入り込んだ。
体中がふさふさとした毛で覆われる。力がより早く循環するのを感じた。
満ちていく気の力に叫び声が漏れる。
アーシュが息を呑む気配がした。
そうだ、怯えるがいい。
ひたりとアーシュを見据える。
迷いも戸惑いもなく、満ちる力を歓迎した。
俺は強い。強くていい。
俺は武器だ。武器は正しい方向を知らない。
振られる方向を知らぬ武器はただの凶器だ。
俺は凶器になることをずっと恐れて来た。
だが、武器が自らの意思を持ち、常に正しい方向に振るわれるならば、それは大事なものを守る盾になる。
「引かぬならば、この、ロー・クロ・モリオウが討ち倒す」
「どうしても僕のものになるつもりはないってこと?」
「ない」
「あんな壊れた人形のどこがいいの?器が壊れた……」
「それでもいい。何も変わらない」
俺のものだ。白い薔薇は、俺だけの為に咲く花だ。
身体の中の獣が咆哮をあげる。溢れ出る気が身体を包んだ。アーシュの目が驚きに見開かれる。
「引け」
じりっとアーシュが後ずさる。
驚きが消え去った顔が歪んで皮肉な笑みを浮かべる。
「ローは本当に素晴らしいね……望んで闇に堕ちて欲しかった」
構えたアーシュにとび蹴りを食らわせる。自動の防御が立ち上がってそれを弾くが構わずに攻撃を仕掛けた。絞り込んだ攻撃を1点に集中して繰り出す。乱打ちに防御にヒビが入る。砕け落ちる防御の壁を突破して、アーシュに直接攻撃をしようと飛びかかった。
アーシュの薄い茶色の目が微笑む。
「ごめんね」
指が軽く弾かれて、乾いた音を立てる。
瞬間右のわき腹に激痛が走った。毒の袋がそこで割れて、一気に毒が身体に回るような衝撃。後ろに飛び退くと、無様に地面に這いつくばり、わき腹を押さえて息を吐いた。
「これを使うと、ローの意思は無くなってしまうんだ。僕の命令に従う人形になってしまうんだよ」
アーシュの足が俺の頭を踏みつける。じゃりっと音がして、土に鼻がめりこんだ。
「人形はつまらないって言ったでしょ?本当は使いたくなかったのに、ローが悪い子だから仕方が無い」
「何を……」
「覚えてるかなあ。ローが怪我をした時、僕が治療してあげたじゃない?」
覚えていた。超回復の能力を持つ俺は軽い怪我ならば次の日には治るのに、アーシュに治療してもらうと何故か1週間もかかった。でも、俺はアーシュに治療をして貰うのが嬉しくて、かえって治るのに時間のかかるその治療を喜んで受けていた。
「ローの中に蟲を仕込んでおいたんだ。見つからないように幾重にも目くらましをかけてね。
あの能天気なエルフには見つける事が出来なかったんだろう?医療系とかちゃんちゃらおかしいよね」
身体の中を這い回る激痛に声をあげた。
「前はそれを使ってローに呪いをかけてを弱らせてさ、闇落ちさせようとしてたんだけど……もう時間が無いから、直接頭に入れて傀儡にしちゃうね?」
身体の中を這い回る痛みは一箇所ではなかった。
複数いるということだろう。
集中しろ。
メリーの手にした治療を思い出せ。
細い糸にした気を体中に巡らせる。
いる……三匹だ。
頭を目指して進む、黒く蠢くものにゆっくりと気の糸を絡めた。はあはあと息を吐きながら集中を保とうとするが、痛みに意識が途切れそうになる。
一匹でも頭に入ればおしまいだ。
気力を振り絞って立ち上がった。
アーシュがけたたましく笑う。
「早く僕のものになっちゃいなよ」
集中しろ。
うぞうぞと動くそれが集まっていく。頭へと続く細い道。
首に達した蟲を順に気の糸で縛る。
すべての蟲が集まると、迷わずに首に手刀を突きたてた。
辺りに鮮血が飛び散る。
「ロー!」
アーシュの叫び声が聞こえる。構わずに滑り込ませた指で中をむしり取って地面に投げた。べしょっと音を立てて黒いものが地面に落ちる。
柔らかく醜いそれらが地面の上でのたうち回った。
片手で首を押さえて、えぐられた場所を気で縫い付ける。
黒と銀の毛で覆われたそこはあっと言う間に肉が盛り上がり傷が塞がった。
足に気を纏いうごめく蟲を踏みつけた。ぐしゃりと嫌な音がする。実体をなくした蟲は足の下で黒い煙となって揺らめいて消えた。
うつむいて、大きく息を吐いた。
これでもう、アーシュは俺を操る事は出来ない。ふわっと触れるものに反射的に高く飛び上がった。ターゲットを外されたアーシュの顔に驚愕の色が浮かぶ。
くるくると舞い降りながら、気弾を撃ち、拳を叩きつける。
自動で立ち上がった防御がまたしても直撃を阻んだ。地面に降り立った俺に周りからグールが襲いかかる。
「そいつらは毒を持っている!絶対に噛まれるな!」
パトリック先輩が叫んでいる。
振り払おうとしたが次々とグールがのしかかる。ぐいっと立てた膝の上から醜い顔がカチカチと音を立てて近づいてきた。
気を手に貯めて、その顔に打ち込もうとした瞬間、何かが触れて魔法陣が浮かぶ。身体が温かくなって体力が回復したのを感じた。
と、同時に上に乗っていたグールがぐずぐずと溶けて灰になった。
ターゲットの来た方向を向くと、黒衣の老人が医療師のボールス師に支えられて立っていた。
「不死の者は切られても打たれても死ぬことはありませんが、回復の魔法に極端に弱い。最弱の回復の魔法でも浴びれば今の通り灰になります。回復薬や聖水にも弱い。学園都市の生徒の初歩の魔法でもグールには効きます。火系の魔法にも弱い」
よろりとよろめいた身体をボールス師に支えられて、王をターゲットして矢継ぎ早に音の高低から魔法を繰り出す。
ずるりと崩れ落ちる老人に王が駆け寄った。
揺れるのではないかと恐れていた。
もしかしたら、俺はアーシュを忘れることは出来ないのではないかと。そうではないと否定しながらも、どこかで恐れていた。
俺の唇がゆっくりと夢を見るように弧を描く。
それを見たアーシュの瞳が甘さを湛えて微笑んだ。
「僕とおいで?ロー」
触れそうな距離だ。ふわりと甘い匂いが漂う。それは多分魅惑的な香りなのだろう。
だが、それはメリーの匂いではない。オレの愛する匂いではない。
吐き気がする。
ぐっと握った拳に気を集めてアーシュに向かって突き出す。
自動で立ち上がった防御が、ばちばちと音をたててそれを防いだ。
苦痛と怒りの声が辺りに響く。防御はされても伝わった衝撃に、アーシュの軽い体が吹き飛んだ。
「酷いことをするんだね」
よろりとよろめきながら、それでも倒れずに堪えたアーシュが苦痛の声をあげながらわき腹を押さえた。上げられた顔が醜く歪んで俺を睨みつけた。
「メリドウェン先輩がどうなってもいいのかな」
「俺がアーシュのものになったら、メリーはきっと泣く」
「いいじゃないか。助かるんだから。狂ったまんまなんて……可哀想だとは思わないの?」
狂った……その言葉に息が詰まりそうになる。
「ローのせいでしょ?」
「……違う」
「だってローを助ける為に器が壊れてしまったんでしょ?」
そうだ。
それでも。
「メリーは俺をお前に渡したりはしない。お前に従うことはメリーを裏切ることだ。例え狂ったままだとしても……俺はメリーを愛している。どんなメリーも俺のものだ」
アーシュの顔が邪悪に歪む。
「随分……気持ちの悪い事を言う」
「メリーは俺の伴侶だ。オオカミは選んだ伴侶を裏切ったりしない」
「伴侶だって?笑わせるな!僕がいなくならなければ、ローはあいつに見向きもしなかっただろう?僕が気づいてなかったと思うの?あのエルフはずっとローを見てた」
「黙れ」
「いつも惨めったらしくローの後をついて回ってさ。物欲しげな目でずっと見ていたんだ。ローは僕をだけを見てたのにね。可笑しいったらないよ」
怒りにうなじの毛が逆立っていく。
メリーはどんなに惨めだっただろう。振り向かぬ俺を愛するのはどんなに辛かっただろう。俺が現実を見ることを拒んでいたせいだ。自分を哀れみ、自分を憎んで、自分を軽んじていたせいで。
与えられたものを飲み、与えられたものを食べていた。
何の疑問も持たずに、本当の自分の心を見ようともしないで。アーシュはオオカミとしては異常だった。オオカミは番を作る。だからこそ、複数の人間と寝たりはしない。アーシュはその身体を他の者に与え続けていた。オオカミである俺は本能で唯一の存在を求め……ただ側にいる同族だったから、それだけの理由で俺はアーシュにこだわり続けていた。
俺のものではないのは明白だったのに。
そのせいでメリーは惨めな日々を過ごした。
俺はそれを償い続けるだろう。愛することで、裏切らぬことで。
メリーの声が聞きたい。
俺の名を呼ぶ声を。
だが、もしそれが叶わなかったとしても……決してこの心は揺るぎはしない。
「アーシュ……兵を引け。お前のいるべき場所へ帰り、そこへ留まれ。王国にも妖精国にも、そして、オオカミの巣にも手出しをすることは許さない」
心の中に潜む獣に声をかけた。
『手を貸せ』
獣がぐるぐると唸りながら近づいてくる。
『力を貸せ』
凶暴な目と目を合わせた。お前も俺ならば。
大きく裂けた口が弧を描く。
ぐっと近づいた獣が俺の心臓に手をかける。
『めリーを?』
『そうだ、助けよう』
頷くと、獣が笑い声をたてる。心臓に爪が入り獣が中に入り込んだ。
体中がふさふさとした毛で覆われる。力がより早く循環するのを感じた。
満ちていく気の力に叫び声が漏れる。
アーシュが息を呑む気配がした。
そうだ、怯えるがいい。
ひたりとアーシュを見据える。
迷いも戸惑いもなく、満ちる力を歓迎した。
俺は強い。強くていい。
俺は武器だ。武器は正しい方向を知らない。
振られる方向を知らぬ武器はただの凶器だ。
俺は凶器になることをずっと恐れて来た。
だが、武器が自らの意思を持ち、常に正しい方向に振るわれるならば、それは大事なものを守る盾になる。
「引かぬならば、この、ロー・クロ・モリオウが討ち倒す」
「どうしても僕のものになるつもりはないってこと?」
「ない」
「あんな壊れた人形のどこがいいの?器が壊れた……」
「それでもいい。何も変わらない」
俺のものだ。白い薔薇は、俺だけの為に咲く花だ。
身体の中の獣が咆哮をあげる。溢れ出る気が身体を包んだ。アーシュの目が驚きに見開かれる。
「引け」
じりっとアーシュが後ずさる。
驚きが消え去った顔が歪んで皮肉な笑みを浮かべる。
「ローは本当に素晴らしいね……望んで闇に堕ちて欲しかった」
構えたアーシュにとび蹴りを食らわせる。自動の防御が立ち上がってそれを弾くが構わずに攻撃を仕掛けた。絞り込んだ攻撃を1点に集中して繰り出す。乱打ちに防御にヒビが入る。砕け落ちる防御の壁を突破して、アーシュに直接攻撃をしようと飛びかかった。
アーシュの薄い茶色の目が微笑む。
「ごめんね」
指が軽く弾かれて、乾いた音を立てる。
瞬間右のわき腹に激痛が走った。毒の袋がそこで割れて、一気に毒が身体に回るような衝撃。後ろに飛び退くと、無様に地面に這いつくばり、わき腹を押さえて息を吐いた。
「これを使うと、ローの意思は無くなってしまうんだ。僕の命令に従う人形になってしまうんだよ」
アーシュの足が俺の頭を踏みつける。じゃりっと音がして、土に鼻がめりこんだ。
「人形はつまらないって言ったでしょ?本当は使いたくなかったのに、ローが悪い子だから仕方が無い」
「何を……」
「覚えてるかなあ。ローが怪我をした時、僕が治療してあげたじゃない?」
覚えていた。超回復の能力を持つ俺は軽い怪我ならば次の日には治るのに、アーシュに治療してもらうと何故か1週間もかかった。でも、俺はアーシュに治療をして貰うのが嬉しくて、かえって治るのに時間のかかるその治療を喜んで受けていた。
「ローの中に蟲を仕込んでおいたんだ。見つからないように幾重にも目くらましをかけてね。
あの能天気なエルフには見つける事が出来なかったんだろう?医療系とかちゃんちゃらおかしいよね」
身体の中を這い回る激痛に声をあげた。
「前はそれを使ってローに呪いをかけてを弱らせてさ、闇落ちさせようとしてたんだけど……もう時間が無いから、直接頭に入れて傀儡にしちゃうね?」
身体の中を這い回る痛みは一箇所ではなかった。
複数いるということだろう。
集中しろ。
メリーの手にした治療を思い出せ。
細い糸にした気を体中に巡らせる。
いる……三匹だ。
頭を目指して進む、黒く蠢くものにゆっくりと気の糸を絡めた。はあはあと息を吐きながら集中を保とうとするが、痛みに意識が途切れそうになる。
一匹でも頭に入ればおしまいだ。
気力を振り絞って立ち上がった。
アーシュがけたたましく笑う。
「早く僕のものになっちゃいなよ」
集中しろ。
うぞうぞと動くそれが集まっていく。頭へと続く細い道。
首に達した蟲を順に気の糸で縛る。
すべての蟲が集まると、迷わずに首に手刀を突きたてた。
辺りに鮮血が飛び散る。
「ロー!」
アーシュの叫び声が聞こえる。構わずに滑り込ませた指で中をむしり取って地面に投げた。べしょっと音を立てて黒いものが地面に落ちる。
柔らかく醜いそれらが地面の上でのたうち回った。
片手で首を押さえて、えぐられた場所を気で縫い付ける。
黒と銀の毛で覆われたそこはあっと言う間に肉が盛り上がり傷が塞がった。
足に気を纏いうごめく蟲を踏みつけた。ぐしゃりと嫌な音がする。実体をなくした蟲は足の下で黒い煙となって揺らめいて消えた。
うつむいて、大きく息を吐いた。
これでもう、アーシュは俺を操る事は出来ない。ふわっと触れるものに反射的に高く飛び上がった。ターゲットを外されたアーシュの顔に驚愕の色が浮かぶ。
くるくると舞い降りながら、気弾を撃ち、拳を叩きつける。
自動で立ち上がった防御がまたしても直撃を阻んだ。地面に降り立った俺に周りからグールが襲いかかる。
「そいつらは毒を持っている!絶対に噛まれるな!」
パトリック先輩が叫んでいる。
振り払おうとしたが次々とグールがのしかかる。ぐいっと立てた膝の上から醜い顔がカチカチと音を立てて近づいてきた。
気を手に貯めて、その顔に打ち込もうとした瞬間、何かが触れて魔法陣が浮かぶ。身体が温かくなって体力が回復したのを感じた。
と、同時に上に乗っていたグールがぐずぐずと溶けて灰になった。
ターゲットの来た方向を向くと、黒衣の老人が医療師のボールス師に支えられて立っていた。
「不死の者は切られても打たれても死ぬことはありませんが、回復の魔法に極端に弱い。最弱の回復の魔法でも浴びれば今の通り灰になります。回復薬や聖水にも弱い。学園都市の生徒の初歩の魔法でもグールには効きます。火系の魔法にも弱い」
よろりとよろめいた身体をボールス師に支えられて、王をターゲットして矢継ぎ早に音の高低から魔法を繰り出す。
ずるりと崩れ落ちる老人に王が駆け寄った。
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