上 下
16 / 91

白薔薇は妖精王に会う1

しおりを挟む
グリフォンの群れが降り立つと、見知った顔がわらわらと降りて来て広場にたむろする。みんなすっごい怖い顔してるんですけど。


 白銀の鎧、弓に剣、あれ、本気装備だよね。


「なんで兄様が3人もいるの?しかも武装してるよ。わたしのこと、連れ戻しに来ただけじゃないの?」


「アルウィン王は大変お怒りだそうだ。傷ついた白薔薇を取り戻す為には戦も辞さないとさ」


 パトリックが皮肉っぽく言う。


「何とち狂ってるの?てかさ、それ脅しで、単純にメリーがいなくて寂しい!返さないなら戦しちゃうぞ?じゃないよね?」


「そうなのか?」


 パトリックが呆れたように聞く。否定したい所なんだけど出来ないのが辛い。うちの家族のわたしへの溺愛っぷりって、箱入りとか越えちゃって宝石箱入りって感じなんだよね。


「そうな気がするんだけど。

 この間の長期休み、帰らなかったじゃない?

 毎日、皆から文来て、兄様が迎えに来るとか書いてあったんだけど、ルーカス陛下に王宮にお招きいただいてるので帰れません!って返事したんだ。

 そしたら、なんか行間から呪いの言葉が滲み出そうな文が届いたんだよね」


「ルーカス陛下に王宮に呼ばれていたのか?」


パトリックが硬い表情で聞く。


「呼ばれていたよ。今回はやることがあったから行かなかったけど。

 でも、王宮行くと、やれ歌えや、楽器弾けや、植物の手入れしろや、なんか道化か庭師かみたいな雰囲気になるんだよね。 

夜這いとかマジすごいし」


「夜這い……ですか」


 ローにそう言われて、うんと頷いてけらけらと笑った。


「まあ、一度犯られそうになってからは部屋に魔法で鍵……」


「誰ですか?」


 ぐいって腕を引っ張られてびっくりした。ローの目が怒りに煌いている。ぴんと立って前に伏せられた耳とむき出しの歯が怒りを伝えて来た。


「口を慎めメリドウェン、死人が出るぞ」


 真剣な顔でパトリックが言う。

 怒っているローに胸がきゅんとしてぎゅっと抱きついて、背中をぽんぽんと叩いた。


「自分でボコボコにしたから大丈夫」


 なんかムチ持ってて、魔法で捕まえたんだけど。ムチで叩くつもりだったのかこの変態って、ムチを奪って返り討ちにしたら「ご褒美です」とか言われたのは黙っていた方がいいかな。


 ローがわたしの背中に手を回して来て、そっと抱きしめて身体を揺らす。

 うわ、これ気持ちいいんだけど。うっとりしてると、パトリックの声が聞こえる。


「ところでお前ら、その格好でアルウィン王を迎えるつもりなのか?」


 はっとして離れてお互いの姿を確認した。ローはまだ半裸で、腰からズボンが落ちそうになってるし、わたしのガウンくしゃくしゃになってるし、ボタンぶらぶらしてが取れかかっている。


「うわ。着替えないと」


 パニックを起こしながら、ベッドに走り寄って棚の中から服を出す。

 頭からガウンを脱ごうとして、裾を持ち上げてくねくねしていると、ローが抱きついて来る。


「ロー?」


「ぱ、パトリック先輩がいますから」


 パトリック?パトリックがどうしたっていうんだ?ああ、見せたくないってこと?


「パトリックはルーカス陛下の裸にしか興味がないから大丈夫だよ」


 ガウンの襟首から顔を覗かせて微笑んだ。

 ローの目が丸くなる。


「お前……」


 目線で人が死ぬなら、わたし死んでるよねってくらいの勢いでパトリックに睨まれた。愉快だ。


「あ、内緒だった」


 爽やかに笑ってさっきの仕返しをする。


 手は離してくれたけど、パトリックからの目隠しみたいに立つローの影で服を着る。


「もしさ、もし、どうしても国に帰らなきゃならなくなったらなんだけど。

その時はわたしと来てくれる?」


 腰帯をバックルで止めながら、何気ない風を装ってローに尋ねる。


「勿論です」


 ローが頷いて微笑む。


「オオカミの国……<狼の巣>に帰れなくなるかもしれないって事なんだよ?」


 わたしはそれがどんなに重いことかわかっていた。

 ローは真王になるべき人間だ。真王をエルフの王子が盗んで国に連れ去る。そんなことが許される訳がない。でも……どうしてもローと離れたくない。


「真王になれなくなるかも」


 恐れで震えるわたしの声を聞いて、ローは安心させるように頬に触れた。


「俺はあなたと居たい」


 ためらわずに言ってくれるローにぎゅっと抱きつく。


「愛してる、ロー。」


 ローは首を傾げて微笑んだ。

 キスしようと顔を寄せると、パトリックが咳をする。


「ローの服はどうした?」


 半裸のままのローがずり下がったズボンの紐を締めなおして、慌てて上衣を拾いに行く。パトリックの視線がそれを追っている。


「ちょっと!いやらしい目で見ないでよ!」


 パトリックが物凄い嫌そうな顔でわたしを見る。


「ローの半裸に欲情するのはお前くらいのものだ。

それに……体術の稽古の時には毎回見ているぞ」


「ずるいよ!何それ!わたしも見たい!」


「……」


 真っ赤な顔でローがこっちを向く。


「変態エルフが!」


 吐き捨てるように言うパトリックにかちんと来た。


「陛下の絵姿、にやつきながら撫でてる奴に言われたくないよ!」


 あ、言っちゃった。

 ものすごい形相でパトリックがこっちに来る。


「何故知ってる?」


 がしっと頭をつかまれる。


「いたいたいたいたた!」


 ギリギリギリと指に力がこもる。


「何故知っているのかと聞いている」


 わお。殺人者の目をしてるよパトリック。青い目が真っ青で触ったら切れそうだよ。


「バカだのアホだのムカつくから、弱味握ってやろうかな~って、姿見にちょっとまじないを……」


「覗きはよくないですよ」


 眉を顰めて呆れたローが言う。わたしは慌てて叫んだ。


「いや!でもさ!陛下の絵姿見てるパトリック、すっごいキモいんだよ!なんか、ちょっと頬染めちゃってさ。呪われそう……」


「メリーさん?」


 ちょっと、どれだけ力があるの?もしかしてリンゴ粉砕とか出来るんじゃないの?ってか、わたしの頭リンゴと勘違いしてない?


「いたい!いたい!さっきパトリックが刺さったところに指が!わたし痛み耐性ないエルフなんだよ!死んじゃう!死んじゃうよ!たすけて!ロー!」


「パトリック先輩、お怒りはごもっともですが、それくらいで」


 ローが冷静に宥めるように言う。

 パトリックはこれ以上ないって冷たい目でわたしを見てる。


「冷静に諭さないでよ!」


「いくら悪口を言われても覗きはやりすぎです。ごめんなさいは?」


 ローが困り果てたような表情でいう。うるうる目でローを見るけど、ローは首を振った。


「わかったよ!ごめんなさい~ごーめーんなさーいー」


 あ、ストレスの余りふざけてしまった。あるよね?緊張しちゃって、こうふざけちゃうって。でもさ、謝ったんだから、いいよね?


 あれ?ぶちってなんか聞こえたんだけど。気のせい?


 ぐぐぐってなんか……ますます指に力が入ったような。おかしい。


 あれ?わたし、若干浮いてない?

 足ちょっとぷらぷらしてない?

 このまま捻られたら、わたし死ぬよね。


 ガチャ


 ものすごい形相のパトリックに頭をつかまれて若干浮いているわたしに半裸のロー。


 真っ青な顔のマーカラム師


 眉間に縦皺を寄せたすっごい怖い顔の父上。

 呆然とした顔の次男のセルウィン兄様に、そっくり双子の三男のナルウィン兄様。あ、五男のフロドウェン兄様が怒りに震え始めたね。


 あ、セルウィン兄様、こんなところで剣抜かないで。

 なんで弓持って来てるのナルウィン兄様。

 やめて、フロドウェン兄様、それ風系攻撃魔法の詠唱じゃない。


 ってかさ。


 なんでみんなドア開ける前にはノックしないの?ノックでカムインがマナーじゃないの?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

【完結】薄幸文官志望は嘘をつく

七咲陸
BL
サシャ=ジルヴァールは伯爵家の長男として産まれるが、紫の瞳のせいで両親に疎まれ、弟からも蔑まれる日々を送っていた。 忌々しい紫眼と言う両親に幼い頃からサシャに魔道具の眼鏡を強要する。認識阻害がかかったメガネをかけている間は、サシャの顔や瞳、髪色までまるで別人だった。 学園に入学しても、サシャはあらぬ噂をされてどこにも居場所がない毎日。そんな中でもサシャのことを好きだと言ってくれたクラークと言う茶色の瞳を持つ騎士学生に惹かれ、お付き合いをする事に。 しかし、クラークにキスをせがまれ恥ずかしくて逃げ出したサシャは、アーヴィン=イブリックという翠眼を持つ騎士学生にぶつかってしまい、メガネが外れてしまったーーー… 認識阻害魔道具メガネのせいで2人の騎士の間で別人を演じることになった文官学生の恋の話。 全17話 2/28 番外編を更新しました

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

君の運命はおれじゃない

秋山龍央
BL
男女の他にアルファ、オメガ、ベータの三つの性差がある世界。 そんな世界にベータとして転生した男、ユージは、報われないと思いつつも親友であるアルファのアシュレイ・オッドブルに恋をしていた。 しかし、とうとうアシュレイは『運命の番』であるオメガの少年・キリと出会ってしまい…… ・ベータ主人公(転生者)×アルファ ・アルファ×オメガのえっちシーンはありません

この恋は運命

大波小波
BL
 飛鳥 響也(あすか きょうや)は、大富豪の御曹司だ。  申し分のない家柄と財力に加え、頭脳明晰、華やかなルックスと、非の打ち所がない。  第二性はアルファということも手伝って、彼は30歳になるまで恋人に不自由したことがなかった。  しかし、あまたの令嬢と関係を持っても、世継ぎには恵まれない。  合理的な響也は、一年たっても相手が懐妊しなければ、婚約は破棄するのだ。  そんな非情な彼は、社交界で『青髭公』とささやかれていた。  海外の昔話にある、娶る妻を次々に殺害する『青髭公』になぞらえているのだ。  ある日、新しいパートナーを探そうと、響也はマッチング・パーティーを開く。  そこへ天使が舞い降りるように現れたのは、早乙女 麻衣(さおとめ まい)と名乗る18歳の少年だ。  麻衣は父に連れられて、経営難の早乙女家を救うべく、資産家とお近づきになろうとパーティーに参加していた。  響也は麻衣に、一目で惹かれてしまう。  明るく素直な性格も気に入り、プライベートルームに彼を誘ってみた。  第二性がオメガならば、男性でも出産が可能だ。  しかし麻衣は、恋愛経験のないウブな少年だった。  そして、その初めてを捧げる代わりに、響也と正式に婚約したいと望む。  彼は、早乙女家のもとで働く人々を救いたい一心なのだ。  そんな麻衣の熱意に打たれ、響也は自分の屋敷へ彼を婚約者として迎えることに決めた。  喜び勇んで響也の屋敷へと入った麻衣だったが、厳しい現実が待っていた。  一つ屋根の下に住んでいながら、響也に会うことすらままならないのだ。  ワーカホリックの響也は、これまで婚約した令嬢たちとは、妊娠しやすいタイミングでしか会わないような男だった。  子どもを授からなかったら、別れる運命にある響也と麻衣に、波乱万丈な一年間の幕が上がる。  二人の間に果たして、赤ちゃんはやって来るのか……。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

処理中です...