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白薔薇は狼を迎える2
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持ってきてくれた包みは、甘く煮た洋ナシだった。
「俺が作ったんで、うまいかはわからないんですけど」
そう言いながらローはがさがさと紙の包みを開けて、びんに入った果物を見せた。クリーム色の皮をむいた洋梨が、少し黄色い液体に浸かっている。ローは生真面目な表情で慎重に瓶を開いた。
中の洋梨を皿に取ると、フォークで細かく切っている。その一つを刺すとわたしの口に向けてそっと差し出した。
自分で食べれるんだけど、でも、ローが食べさせてくれるって言うんだからお断りする理由なんかないよね?
溶けた銀の瞳が、わたしを不安気に見ている。おずおずと口を開けるとそっと口にかけらが押し込まれた。柔らかく煮てあるそれは、とても風味が良く、噛むとあっという間に蕩けて消えてしまった。
「うわ、すごくおいしいよ!」
ぱっとローの顔が明るくなる。耳が嬉しそうにひょこっと立った。わたしはにっこり微笑んで、餌を求める雛鳥のように口を開けた。ローが慎重に次のかけらを口に入れてくれた。もぐもぐと噛みながら頷くと、ローが笑み崩れる。
「ローは果物食べないって言ってなかったっけ?」
飲み込んで、はあと溜息をついてそう尋ねる。
「食べませんね。肉食ですから。パンくらいは食べますけどね」
洋梨を切りながらローが答える。
「わざわざ、エルフの食べ物を調べてくれたの?」
びっくりしてそう言うと、ローの視線が恥ずかしそうに泳いで、耳が後ろを向く。
「果物屋の主人にエルフはどんなものを求めて行くかを聞いたんです。
雑貨屋の主人は蜂蜜が好きだと言って。蜂蜜は栄養があるからそれで煮たらいいんじゃないかって……」
「とても美味しいよ」
正直にそう言うと、ローが嬉しそうに微笑んだ。その銀色の瞳の輝きにうっとりしてしまう。
「では、もっと食べてください」
洋ナシがぶら下がる。汁が垂れそうだ。わたしは舌を出してそれを舐めてから口に含む。その様子をローはじっと見ている。
さっきキスしたばっかりなのに、またしたくなるってなんだろう?エルフって発情期とかないよね。ドキドキしっぱなしなんだけど。
もぐもぐと洋梨を噛んで飲み込むと、ローの方へ身体を乗り出しかけてはっとする。ああ、何しようとしてるんだろう、わたしったら。無理矢理身体を起こして、えへんと咳をすると言った。
「今日は退院してもいいみたいなんだけど」
「あなたも特待生ですよね?住まいは?」
「わたしは寮なんだ。個室だけど」
「一軒家の方が気楽じゃないですか?」
「一人暮らしするとか言ったら、恐ろしいことになるからね。
父上がメイドとか、執事とか、護衛とか、わんさかと送り込んで来るに決まってるんだ。こっちはお気楽に暮らしたいのに、迷惑なんだよね」
ふーって溜息をつくわたしを見て、ローがもの思わしげな様子で首を傾げる。
「……寮だとなかなか俺は行けないですよね」
寮には寮生しか入れない。面会室はあるけど手続きが面倒だし、時間や場所も指定されるんだよね。
「あ、そうか。……そうだよね。う~ん。ローが寮に入る?
今の状況だと、寮の方が警備厳しいからいいかもしれないよね。わたしの部屋、一人で使ってるけど元は二人部屋だから……ベッドは空いてるけど」
期待に目を輝かせていると、ローが苦笑いしてわたしを見る。
「それはどうでしょうね?
俺は鼻がいいから、一緒の部屋ではいろいろ不都合が出そうな気がします」
「不都合?」
にっこりと笑ってローが洋ナシの皿をテーブルに乗せる。
ゆさっとベッドが揺れる。ベッドに乗ってきたローがわたしの顔を引き寄せた。唇が触れて、ため息が漏れる。
慣れた楽器を奏でるように、ローの手が背筋を撫でる。気が入っているらしい。ざらりとした感触に身体が跳ねて、嬌声が漏れた。
ぞくぞくとする刺激に、薔薇の香りが濃く漂う。
ぱっとローがベッドを離れる。薔薇の香りを払うように強く頭を振っている。
わたしは真っ赤になって口を塞いだ。
「無理ですね。……俺達が一緒の部屋だと、すぐに学校をやめなきゃなくなる。
あなたは────俺を煽るから」
はあと息を吐くと、どこか焦点のあわないとろりとした銀の瞳が微笑む。
「俺は個室じゃなくてもいいですよ。ただし、あなたと同室はダメです」
ローが他の誰かと一緒?眉間に縦皺が出来る。ローの寝顔を見たり、着替えを見たり、朝起こしてあげたり……そんなの他の誰かがとか、絶対に許せない。
「どうして、同室者が必要なの?」
「あなたが来るから」
「どうして行ったらダメなの?」
「今のキスでわかりませんか?薔薇の香りがするんです。あなたの発情香ですよね。俺は鼻がいいから、煽られてしまう」
「つ、つ、辛いのか?」
「ですね。まあ、アーシュには散々待てをされていましたから、大丈夫です。襲ったりはしない」
アーシュと聞いてカチンと来る。
「わ、わたしは待てなんて言わない!ローはわたしの愛する人なのだし」
「お互いの気持ちがはっきりしないのに、肉体の関係を結ぶのはよくないことだとは思いませんか?」
ローが首を傾げて、わたしを見る。
「わたしの気持ちははっきりしている」
「俺の気持ちははっきりしていない。でも、煽られれば……欲しくなる」
ローが手を差し出して、ぎゅっと握る。
その手が微かに震えていて、ローは我慢をしているのだと理解した。
でも、わたしはローの側にわたし以外の誰かがいるのは嫌だ。
「絶対行かないから、個室でいいじゃないか!」
激しい口調で言うわたしをローはじっと見ている。
無表情な顔の中で銀の瞳だけが輝く。
情熱を湛えた眼差しに、じわじわと頬が赤くなるのを感じた。ローの瞳の情熱に応えるように押さえようもなく薔薇の匂いが漂う。
「……問題は……」
ローがするりと近づいて、わたしの頬を両手で挟む。
蕩ける銀の瞳が獲物を捕まえた獣の喜悦の微笑みを浮かべた。その野生的は微笑みに心臓が激しく動く。その脈の音も聞こえているのだろうか、ローの指がゆっくりと頬を伝って激しく動く首の脈の場所を探った。
誘うように微かに唇が開いてしまう。
ローが掠れた声で囁く。
「あなたが、俺に対して力を持ってるってことです。
巣に連れ帰り、めちゃくちゃにしてしまいたいと……そう思わせるだけの力をあなたは持っている」
息もつけないような激しいキスが降ってくる。
「そうして欲しい」
唇が離れると短い息を吐きながら懇願する。
「寮ではまずいでしょう?」
くらくらする頭で考えようとするけど、何も思いつかない。
「も……どこでもいいよ」
ローが腰に結んでいた布をといて上着大きく開いた。素肌に指を走らせるとぎゅっとその引き締まった腰に手を回して、溜息をつく。
わたしの肌から薔薇の香りが立ち上る。どうしようもないそれを、もう隠そうとは思わなかった。ローが頭を振って欲望の霧を払おうとしている。
そうはさせない。
引き寄せて舌を絡めると、完全に欲望に曇った銀の瞳がわたしを見返す。
ローの舌が唇を離れて、薔薇の匂いの一番強く出る首筋を舐める。
「ん……っ……」
ローが乱暴にガウンのボタンを探って、引きちぎるように外していく。ローの指が直接素肌に触れると、どうしようもなく身体が震えた。肌をローの指がなぞると比類のない快楽に肌が粟立つ。
その指が胸の突起を見つけて、優しく触る。身悶えする身体を押さえるようにローの身体が重なる。
ゆっくりとローの手が宙で揺れて、何をしようとしているかに気づいた。
「そ、それっ。だめ……っ」
逃げようとする身体をぎゅっと押さえられる。ローがゆっくり……ゆっくりと微笑む。欲望に乗っ取られた曇った瞳にゆらゆらと銀色の光が揺れた。
気を纏った指が胸に触れる。ざらりとした気で出来た舌が胸の突起を舐めあげた。
「──っ──ああっ!」
快楽の悲鳴が湧き上がる。容赦無く気が流れ込み、その場所を撫でて狂うような快楽を生み出す。びくびくと震える身体見て嬉しそうにローが笑った。
「……ロー……」
震える声で呼ぶと唇が戻って来て、開いた口に舌がねじこまれた。
ローの甘い唾液で口の中がいっぱいになる。全部飲み込もうとして、あふれ出て、切ない吐息が漏れる。
ローがわたしの膝を割って間に入り込んだ。立ち膝になった身体から、震え続けるわたしの身体を蹂躙するように見下ろす。
だらしなく開いた上衣をするりと脱いで床に落とした。見えたローの体の美しさに息を飲む。広めの肩幅から引き締まった腰に無駄な贅肉は一切ない。隆々とした硬い筋肉に包まれた剣士の身体ではなく、柔らかくしなやかなその肢体は正しく完璧な美しさを持っていた。
「俺が作ったんで、うまいかはわからないんですけど」
そう言いながらローはがさがさと紙の包みを開けて、びんに入った果物を見せた。クリーム色の皮をむいた洋梨が、少し黄色い液体に浸かっている。ローは生真面目な表情で慎重に瓶を開いた。
中の洋梨を皿に取ると、フォークで細かく切っている。その一つを刺すとわたしの口に向けてそっと差し出した。
自分で食べれるんだけど、でも、ローが食べさせてくれるって言うんだからお断りする理由なんかないよね?
溶けた銀の瞳が、わたしを不安気に見ている。おずおずと口を開けるとそっと口にかけらが押し込まれた。柔らかく煮てあるそれは、とても風味が良く、噛むとあっという間に蕩けて消えてしまった。
「うわ、すごくおいしいよ!」
ぱっとローの顔が明るくなる。耳が嬉しそうにひょこっと立った。わたしはにっこり微笑んで、餌を求める雛鳥のように口を開けた。ローが慎重に次のかけらを口に入れてくれた。もぐもぐと噛みながら頷くと、ローが笑み崩れる。
「ローは果物食べないって言ってなかったっけ?」
飲み込んで、はあと溜息をついてそう尋ねる。
「食べませんね。肉食ですから。パンくらいは食べますけどね」
洋梨を切りながらローが答える。
「わざわざ、エルフの食べ物を調べてくれたの?」
びっくりしてそう言うと、ローの視線が恥ずかしそうに泳いで、耳が後ろを向く。
「果物屋の主人にエルフはどんなものを求めて行くかを聞いたんです。
雑貨屋の主人は蜂蜜が好きだと言って。蜂蜜は栄養があるからそれで煮たらいいんじゃないかって……」
「とても美味しいよ」
正直にそう言うと、ローが嬉しそうに微笑んだ。その銀色の瞳の輝きにうっとりしてしまう。
「では、もっと食べてください」
洋ナシがぶら下がる。汁が垂れそうだ。わたしは舌を出してそれを舐めてから口に含む。その様子をローはじっと見ている。
さっきキスしたばっかりなのに、またしたくなるってなんだろう?エルフって発情期とかないよね。ドキドキしっぱなしなんだけど。
もぐもぐと洋梨を噛んで飲み込むと、ローの方へ身体を乗り出しかけてはっとする。ああ、何しようとしてるんだろう、わたしったら。無理矢理身体を起こして、えへんと咳をすると言った。
「今日は退院してもいいみたいなんだけど」
「あなたも特待生ですよね?住まいは?」
「わたしは寮なんだ。個室だけど」
「一軒家の方が気楽じゃないですか?」
「一人暮らしするとか言ったら、恐ろしいことになるからね。
父上がメイドとか、執事とか、護衛とか、わんさかと送り込んで来るに決まってるんだ。こっちはお気楽に暮らしたいのに、迷惑なんだよね」
ふーって溜息をつくわたしを見て、ローがもの思わしげな様子で首を傾げる。
「……寮だとなかなか俺は行けないですよね」
寮には寮生しか入れない。面会室はあるけど手続きが面倒だし、時間や場所も指定されるんだよね。
「あ、そうか。……そうだよね。う~ん。ローが寮に入る?
今の状況だと、寮の方が警備厳しいからいいかもしれないよね。わたしの部屋、一人で使ってるけど元は二人部屋だから……ベッドは空いてるけど」
期待に目を輝かせていると、ローが苦笑いしてわたしを見る。
「それはどうでしょうね?
俺は鼻がいいから、一緒の部屋ではいろいろ不都合が出そうな気がします」
「不都合?」
にっこりと笑ってローが洋ナシの皿をテーブルに乗せる。
ゆさっとベッドが揺れる。ベッドに乗ってきたローがわたしの顔を引き寄せた。唇が触れて、ため息が漏れる。
慣れた楽器を奏でるように、ローの手が背筋を撫でる。気が入っているらしい。ざらりとした感触に身体が跳ねて、嬌声が漏れた。
ぞくぞくとする刺激に、薔薇の香りが濃く漂う。
ぱっとローがベッドを離れる。薔薇の香りを払うように強く頭を振っている。
わたしは真っ赤になって口を塞いだ。
「無理ですね。……俺達が一緒の部屋だと、すぐに学校をやめなきゃなくなる。
あなたは────俺を煽るから」
はあと息を吐くと、どこか焦点のあわないとろりとした銀の瞳が微笑む。
「俺は個室じゃなくてもいいですよ。ただし、あなたと同室はダメです」
ローが他の誰かと一緒?眉間に縦皺が出来る。ローの寝顔を見たり、着替えを見たり、朝起こしてあげたり……そんなの他の誰かがとか、絶対に許せない。
「どうして、同室者が必要なの?」
「あなたが来るから」
「どうして行ったらダメなの?」
「今のキスでわかりませんか?薔薇の香りがするんです。あなたの発情香ですよね。俺は鼻がいいから、煽られてしまう」
「つ、つ、辛いのか?」
「ですね。まあ、アーシュには散々待てをされていましたから、大丈夫です。襲ったりはしない」
アーシュと聞いてカチンと来る。
「わ、わたしは待てなんて言わない!ローはわたしの愛する人なのだし」
「お互いの気持ちがはっきりしないのに、肉体の関係を結ぶのはよくないことだとは思いませんか?」
ローが首を傾げて、わたしを見る。
「わたしの気持ちははっきりしている」
「俺の気持ちははっきりしていない。でも、煽られれば……欲しくなる」
ローが手を差し出して、ぎゅっと握る。
その手が微かに震えていて、ローは我慢をしているのだと理解した。
でも、わたしはローの側にわたし以外の誰かがいるのは嫌だ。
「絶対行かないから、個室でいいじゃないか!」
激しい口調で言うわたしをローはじっと見ている。
無表情な顔の中で銀の瞳だけが輝く。
情熱を湛えた眼差しに、じわじわと頬が赤くなるのを感じた。ローの瞳の情熱に応えるように押さえようもなく薔薇の匂いが漂う。
「……問題は……」
ローがするりと近づいて、わたしの頬を両手で挟む。
蕩ける銀の瞳が獲物を捕まえた獣の喜悦の微笑みを浮かべた。その野生的は微笑みに心臓が激しく動く。その脈の音も聞こえているのだろうか、ローの指がゆっくりと頬を伝って激しく動く首の脈の場所を探った。
誘うように微かに唇が開いてしまう。
ローが掠れた声で囁く。
「あなたが、俺に対して力を持ってるってことです。
巣に連れ帰り、めちゃくちゃにしてしまいたいと……そう思わせるだけの力をあなたは持っている」
息もつけないような激しいキスが降ってくる。
「そうして欲しい」
唇が離れると短い息を吐きながら懇願する。
「寮ではまずいでしょう?」
くらくらする頭で考えようとするけど、何も思いつかない。
「も……どこでもいいよ」
ローが腰に結んでいた布をといて上着大きく開いた。素肌に指を走らせるとぎゅっとその引き締まった腰に手を回して、溜息をつく。
わたしの肌から薔薇の香りが立ち上る。どうしようもないそれを、もう隠そうとは思わなかった。ローが頭を振って欲望の霧を払おうとしている。
そうはさせない。
引き寄せて舌を絡めると、完全に欲望に曇った銀の瞳がわたしを見返す。
ローの舌が唇を離れて、薔薇の匂いの一番強く出る首筋を舐める。
「ん……っ……」
ローが乱暴にガウンのボタンを探って、引きちぎるように外していく。ローの指が直接素肌に触れると、どうしようもなく身体が震えた。肌をローの指がなぞると比類のない快楽に肌が粟立つ。
その指が胸の突起を見つけて、優しく触る。身悶えする身体を押さえるようにローの身体が重なる。
ゆっくりとローの手が宙で揺れて、何をしようとしているかに気づいた。
「そ、それっ。だめ……っ」
逃げようとする身体をぎゅっと押さえられる。ローがゆっくり……ゆっくりと微笑む。欲望に乗っ取られた曇った瞳にゆらゆらと銀色の光が揺れた。
気を纏った指が胸に触れる。ざらりとした気で出来た舌が胸の突起を舐めあげた。
「──っ──ああっ!」
快楽の悲鳴が湧き上がる。容赦無く気が流れ込み、その場所を撫でて狂うような快楽を生み出す。びくびくと震える身体見て嬉しそうにローが笑った。
「……ロー……」
震える声で呼ぶと唇が戻って来て、開いた口に舌がねじこまれた。
ローの甘い唾液で口の中がいっぱいになる。全部飲み込もうとして、あふれ出て、切ない吐息が漏れる。
ローがわたしの膝を割って間に入り込んだ。立ち膝になった身体から、震え続けるわたしの身体を蹂躙するように見下ろす。
だらしなく開いた上衣をするりと脱いで床に落とした。見えたローの体の美しさに息を飲む。広めの肩幅から引き締まった腰に無駄な贅肉は一切ない。隆々とした硬い筋肉に包まれた剣士の身体ではなく、柔らかくしなやかなその肢体は正しく完璧な美しさを持っていた。
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