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第二十一話〈親愛なるお師匠さまへ〉

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〈お師匠さま、お変わりありませんか?

 帝都ではここ数日、暖かな日が続き桜がたくさん咲きはじめています。

 そちらはどうですか?
 里山の春は遅いので、桜はまだ咲かないだろうなぁと思いながら、私はこの手紙を書いてます。

 お花見にはまだ早いけれど、この週末は玲亜さんと城下へ出かける予定なのでとても楽しみです。
 お買い物や流行りのお店で人気の『あんみつ抹茶ぱふぇ』を食べに行ってきます。

 玲亜さんは少し前に七班隊へ戻りました。

 私の指導係りとして来ていた玲亜さんにはとても親切にしてもらって、九班を去ってからしばらくは寂しかったけれど。ときどきお茶を飲みに来てくれたり、ときどき九班隊の朝稽古に加わったり、そして相変わらずな嵯牙隊長をときどき叱りに来てくれたりと、全く会えなくなったわけでもないので、今まで通り仲良くしてもらっています。

 お師匠さま、このまえ嬉しいことがありました。
 嵯牙隊長に、私の料理は心の栄養になると言われて。

 少し前に、城内で妖霊絡みの事件が起きたのですが、そのときひとりの仙者の方に私が調理したスープを召し上がってもらいました。そしたらそれが、どうやらそのひとの役に立てたようで、とても嬉しかったです。〉


 呪術を仕込み人を操る鈴を使ったあの事件はまだ調査中だという。

 帝都で行方不明になっている三人の女性のうち、一人は残念ながら亡くなっていたと聞いている。残りの二人も依然として行方のわからないまま。

 鬼獣も関係しているようなので一日も早い解決を、そしてこれ以上、被害者が出ないことを祈るばかりだ。


 〈───事件の方はまだ全てが解決したというわけではないそうですが、私には武仙のように闘えるほどの闘魄はありません。
 でも私は私ができることを精一杯頑張ろうと決めてます。
 みんなの毎日が明るく元気であるようにと、そんな想いを込めながら、美味しいご飯を作り続けます。〉


 ───相楽さん、元気でやってるかなぁ。

 動かしていた筆を止め、ひよりは福之助を思った。

 護闘士、そして戦闘師団を辞めた彼は、晶連城内でいくつかの職務を経験した後、糧司宮へ配属が決まったと聞いた。

 四司の機関がある統司宮の中の『第四宮 糧司宮』。

 部署は違うが福之助はひよりと同じ司宮の所属になった。

 糧司宮とは、晶蓮城内において仙者の食に携わる職務を担い、食に関する供給等全般を取り仕切る機関である。

 福之助は今『糧給支部・農業部門栽培班』という部署で頑張っているのだ。

 先日届いた手紙には近々『きのこ栽培』の研究を始める予定だと綴られていた。


〈───そういえばお師匠さま、約束を覚えていますか?

 石の上にも三年、いやそれ以上経たないうちは里帰りは認めないという約束でしたが、城入りしてからもう五年が経ちます。
 そろそろ一度は帰省してもいいはずですよね?
 実はもう嵯牙隊長のお許しはもらってあるのです。なので……〉


 これはひよりが望んだ〈ご褒美〉だった。

 以前、屋敷で突然始まった護闘士たちの宴会に、きちんとおもてなしができたひよりに、黎紫が考えておくようにと告げた〈ご褒美〉。

 一度は断ったが、黎紫のしつこさに根負けし、いろいろ考えた挙句『一度、故郷に里帰りしてきたい』という想いを打ち明けた。

 黎紫はひよりがまだ一度も帰省をしていなかったことにとても驚きながら、快く承諾したのだった。

 休みをいつ頃とるかはまだ決めていない。

 春は糧給の行事の中でも大切な『御田植』がある。人手が必要な作業も多く、毎年その時期には臨時に人員の増強があるのだ。

 大勢の仙者が集まり働くので、支部の厨房班からも毎年、交替勤シフト務制を組まれ、お手伝いに行く。

 主に昼食作りやお弁当の用意などだが。

 忙しくなるなぁ。秋は稲刈りでまた同じように増員があるし。

 やっぱり夏休みかなぁ。

 夏には学校も長期休暇があるので、諒と莉玖は毎年実家へ帰省しているのだと玲亜が言っていた。

 食べ盛りの年少組が留守であれば、食事の心配もそれほどない。

 隊長と蘭瑛さんには申し訳ないが、私が留守の間は師団専用の食堂へ通ってもらおう。


〈……なのでお師匠さま、今年は私、里帰りをします!

 夏を予定していますが、日程が決まったらまたお知らせしますね。
 お師匠様と再会できる日が、とてもとてもとても! ひよりは楽しみです。

 それではまた。


 春色の増す四月。

 陽春の風光る頃にて。


 那峰 ひより。〉




『糧給支部 厨房班 賄い娘の奮闘記〈1〉(了)




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