螺旋おくり 夏のあさに姫おりて

たかき

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8月9日(月)【17】ゆきこのリアクション

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「あきくんおはよう」
「おはよう。ゆきこ、両手でお皿つくって」
「えっ! なになに?」
「はいこれ。プレゼント」

 ラジオ体操が終わった小学校のグラウンド。昨日買ったキャラクターの上アゴをつまみ、ゆきこの両手に着地させる。

「うわあ。これあきくんが買ってくれたの?」
「そう、買った。盗んだことは一度も無いぞ」

「とってもうれしい。これあたし好きなの。何でわかったの?」

 この前ゆきこにそのキャラクターをもらったからだと言いかけたが、朝陽まで吸収しているゆきこの目を見て「ひみつ」に変更した。
 スタンプ列に並んでいるあいだ中ずっと、彼女の500円ぶんのリアクションを眺めていた。

「今日はエリカさんいないんだね」
「そうそう。寝てるんじゃないかな。昨日夜まで出かけてたし」
「どこに出かけてたの?」
「そんなの知らないけど。休みだったからお出かけしてたみたい」

 なんとなく今だけはゆきこを楽しい気分でいさせてあげたくて、嘘をついた。

「ふーん」
 ゆきこの右手は、下アゴと胴体をまるごと握りしめている。

「じゃあまた」
「うん。あきくんありがとう。大切にするね」
「おう」

 〇

「いいなあ。俺もASJ行きたいよ」
「いいじゃん。田舎でさんざんうまいもん食べたんだろ」

 ケイタのゲーム部屋も久々だ。互いに日焼けを重ねた肌で、名作RPGをプレイしていた。ケイタも田舎に帰ったり、格闘ゲームを買ったりで、RPGはそのままだったという。

「っていうか俺も、一度エリカさんを見たい」
「でも、もう遊ぶ予定ないからな。ラジオ体操にきたら会えると思うけど」

「俺人生で3回しかラジオ体操行ったことないし。そもそもあきふみたちと同じ場所じゃないし」

 ぼくからケイタの家まで自転車で10分。ケイタのエリアのラジオ体操会場は、ここから歩いて5分の大きな公園だった。

「お姉さんのお店行ってみたいな」
「金ないだろう」
「行くだけ」
「迷惑」
「みたらすぐ帰る。なんなら店の外観だけでも」

 そうか。ケイタはエリカさん本人というより、大人のお姉さんというものを見てみたいんだ、と思った。

「名刺あるけど」
「まじか!」

 エリカさんのお店への冒険が決まった。
 久しぶりのマウンテンバイク旅。

 地図帳の拡大ページを開くと、ここから西へ向かって約10キロメートル。お店の最寄り駅までは、ほぼ国道1本でいけるらしい。

 ドーナツ化現象。都会へのアクセスがこんなにもよかったんだなと身をもって学ぶ。

 互いにここ最近は田舎の景色ばかりみていたこともあってか、声が高揚している。真夏のビル街をマウンテンバイクですり抜ける。ミスマッチなイメージが、男子小学生の背筋をなであげた。

「明日の13時。決まりだな」

 開いたケイタのまぶたから、黒目がのぞいていた。
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