上 下
13 / 25

8月7日(土)【13】計算された傾斜角

しおりを挟む
 ラジオ体操を終え、無事帰宅。

 ゆきこが昨日学校でぼくに渡すといっていた旅行土産を、もってきていた。昨日もていねいに断ったが、受け取らなければ捨てると言い出したので、捨てるのはもったいないと思い受け取ってしまった。



「昨日さ、小山内さんからチョコいただいたんだけど欲しい?」

 そういうと母は、そうめんの入ったステンレスボールを机に置く。

「小山内のおばちゃんから?」
「そう。お供え物でいただいたものなんだけど私は食べないから、もしよかったらあきくんにって」

「へー。食べる」
 もらったものは感謝して食べるのが、ポリシーだ。

「あっ。思い出した。ゆきこからも、お見上げもらったから」
「えっ、何もらったの?」

「なんかご当地バージョンのキャラクターキーホルダー」
「お礼いったの?」
「うん」

 いった記憶はない。心が微動だにしなかったので、嘘偽りなく記憶していない。が、反射的にいっただろうと自分を信じる。

「高いの?」
「500円くらいじゃないの」
 この夏7回目のそうめんをすくいながら答えた。

「そしたら、ゆきこちゃんにも何かお返ししないと。半分出してあげるから500円くらいでお返ししなさいよ。あとで払うからレシートはもらってきて」
「わかった」

 こうなることもわかっていて断ったのだが、貰ったものはしょうがない。ケイタの家で遊んだ帰りに駅の近くのスーパー2階おもちゃコーナーに寄って、女の子遊びに使えそうなやつを適当に選ぼうと思った。

「あと、小山内さんにこれ持って行ってくれる? お菓子ありがとうございますって」

 そういうと母は、淡くてぼやんとした丸模様の紙に包まれた、平たい菓子折りを持ってきた。

「さて! 箱の中身は何でしょーう......か?」
「ゼリー」
「ピンポンピンポン――」

 過去問も含めて、ゼリー以外の解答を出されたことが無い。

 母のパート先スーパーのお土産コーナーで売られている、下から2番目に安いゼリー。
 大げさに見えるようカットされたフルーツが、おわん型の色付き透明ゼリーの中に保管されている。適度に生臭く、果物の生っぽさを凝縮したのち水で戻したような味がする。
 そのゼリーが6つ、人様にあげても恥ずかしくない箱に、オン・ザ・テーブルでフタを開けると、顔にゼリーの正面が向くよう計算された傾斜角をつけて、入っている。
 その箱をさらに一階サービスカウンターに持っていくと、パートさんの慣れた手さばきで、いやらしく見えないように包装してもらえる。
 母は二階の日用品コーナー担当なので、この技は習得していない。

 同じ金額で標本されていない生の果物が買える。でも、お礼は箱に入れて返すものらしい。

「お礼をいうからには食べておかないと」

 薄くなったダシ醤油を飲みほして箸を置き、お供え物の箱を開けた。ミルク成分の少なそうな1粒を手に取り口の中へほうり込む。

「かあーらっ」

 お土産用のチョコにはすべて、お酒が入っているものなんだろうか。だが、この種のチョコの食べ方は攻略済みだったので、歯を高速で上下させ口の中で混ぜ合わせた。

 2粒目は中身の液体を取り出して――3粒食べた。残りは大切に食べようと思い、冷蔵庫の一番上の棚に保管した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました

加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

兄貴がイケメンすぎる件

みららぐ
恋愛
義理の兄貴とワケあって二人暮らしをしている主人公の世奈。 しかしその兄貴がイケメンすぎるせいで、何人彼氏が出来ても兄貴に会わせた直後にその都度彼氏にフラれてしまうという事態を繰り返していた。 しかしそんな時、クラス替えの際に世奈は一人の男子生徒、翔太に一目惚れをされてしまう。 「僕と付き合って!」 そしてこれを皮切りに、ずっと冷たかった幼なじみの健からも告白を受ける。 「俺とアイツ、どっちが好きなの?」 兄貴に会わせばまた離れるかもしれない、だけど人より堂々とした性格を持つ翔太か。 それとも、兄貴のことを唯一知っているけど、なかなか素直になれない健か。 世奈が恋人として選ぶのは……どっち?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...