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モブは見た⑶
しおりを挟む兎にも角にも平騎士にとって絶望的な状況。
パンッ
「はい、そこまで。」
手を叩く音が聞こえたかと思うと、聞き心地のいい声が聞こえる。
ゆっくりと緩慢な動作で言い争っていた二人に近づく魔法士団長。
周囲を包んでいた炎の熱気が一瞬にして消え去る。
絶望的な状況…だったはず。
何が起こった?皮膚が焼けそうな熱気はどこに?あの平騎士に向かっていた炎は?
「ハッ」
絶体絶命の状況にあった騎士は、目の前の炎が消えたことでやっと息を吸えたみたいだ。
「こら、アーシア。魔法は人に向けて撃つものじゃないだろう?」
先程までの修羅場に似合わない、緩い怒り方。多分魔法士団長は指導しているんだろう。でも、すごく緩い。こらって。
「団長!…でもこいつが団長を侮辱して。」
「でもじゃない。私たちは対人相手の仕事をしているわけではないんだから。ほら、ちゃんと謝って。」
「……………」
子供に言い聞かすように怒る魔法士団長。この人があの魔法を一瞬で消したんだ。
ゾクッ
誰もが切羽詰まった状況でなんの焦りも見せない余裕のある仕草。底の見えない強さに畏怖すら感じ、全身の毛穴が逆立つのを感じる。
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