【完結】俺は遠慮します。

俺にジューンブライドは荷が重い⑵

寮まで会長の家の車がお迎えに来てくれて送ってもらえた撮影スタジオ。
こんな所初めてきたし、モデル自体初めてするから緊張がヤバい。

「栄人、本当にすまない。今度甘い物でも驕るから。今日はよろしく頼む。」

「会長が困っていて、俺に出来ることなら手伝いますよ。あ、期待はしないでくださいね。」

予防線を張っておくことは忘れずに、ね。

「君が栄人君ね。待っていたわ。あら～やっぱり写真で見た通り、とってもキレイな顔をしているわね。イメージ通りで嬉しいわ！今日は来てくれて本当にありがとう！」

会長と話していると、後ろからあらわれた超ド級の美人さん。息継ぎなしで話しきった目の前の美人さんは、話の内容からして会長のお母様なのだろう。

「よ、よろしくお願いします。」

会長と俺だけだと思ってたら、生徒会と輝樹先輩、旬祢さんなどなど見覚えのあるメンバーが揃っている。
こんな美形に挟まれて俺がイメージモデルとか、これなんの公開処刑？

「栄人君早速だけど、着替えて貰おうかな。ヘアメイクとかもするからちょっと時間かかるかもしれないけど、全部スタッフに任せればいいからね。」

「はい。」

そして通された衣装室に入った俺は絶句。

「(なんっじゃこりゃ――――――!!!!)」

人って本当にびっくりした時って全然声が出ないってこと、初めて知った。

そんな呆然と立ちすくむ俺に構わず、俺の身ぐるみを剥がして服を着替えさせ、髪も顔もメイクして仕上げていくプロフェッショナルなスタッフさん達。

いや、もうちょっと俺に、誰か、なんか、教えて？
完全に置いてきぼりだよ？

そんな俺の思いも届かず、出来上がってしまったらしいメイク達。

「ふぅ～素材が良いから出来栄えもピカイチね！」

「女の私でもドキドキするわ！」

「尊い…」

スタッフさんたちの声を聞きつつ、今の自分の姿を鏡で確認する。

「え、」

そこには純白のレースがあしらわれたAラインのドレスに身を包んだ儚げな美女がこちらを見つめていた。

「俺？」

自分の口の動きに合わせて美女も動く。女装した俺だから当たり前なんだけど。

レースで彩られた長袖のお陰で男っぽい骨格が隠されてるし、サイドから編み込まれた髪をハーフアップにして残りは巻かれて顔周りから広がっているから喉ぼとけも主張されてない。

俺、女の子になったらこんなに可愛いんだ…

何ておかしなことを考えてしまうくらい可愛い。

「では、スタジオに戻りましょうか。」

スタッフさんに促されてみんなの待つスタジオに入る。

何て言われるだろう。変に思われないかな、なんて色々考えてドキドキしながら足を踏み入れる。

「っ！」

誰かの息を呑む音がしたのに、誰も何も言わない。そんな沈黙の中でみんなの視線だけが俺に注目している。
「(な、なんだよぅ。誰でもいいからなんか言ってくれ！恥ずか死ぬ！)」

これぞ公開処刑と言わんばかりに、長い長い沈黙が続く。

「…っ綺麗だ。」

会長の口から溢れる様に出たその言葉は今の俺に対する最上級の褒め言葉だ。
男としては複雑ではあるけどね。