【完結】俺は遠慮します。

関わらぬが仏

お昼ご飯の後の休憩時間。

トイレに行きたくて、二人に先に教室へ戻ってもらう。平和だなぁと和みながら廊下を歩いていると、前方から見知った人影が見えて来た。俺は思わず回れ右をして歩いて来た道を歩き始める。

いや、これは関わらぬが仏だ。俺は何も見てないし、何も知らない。



今日は平穏に過ぎるんだ。



「なーんで逃げるんだ？栄人。久しぶりの再会だぞ？」

「ひっ！？」

心を無にして歩いていると、耳元で艶のある声が俺の鼓膜を震わせる。

バッと振り返ると、白衣を着こなしたどこか読めない雰囲気の旬祢さんがいた。

「に、逃げてないです。ちょっと用事を思い出して戻っていただけです。」

「へぇ？用事って？」

「な、何でもいいじゃないですか。旬祢さんこそどうしたんですか？何もないなら俺は行きますね。」

「フッ、何もない訳ないだろう？折角栄人に会えたんだし、な。」

そう言いながら鷹揚な動作で俺の手に指を絡ませる。
その動きすら艶っぽくて目が離せなくなる。

旬祢さんって、特殊能力なのかってぐらい視線が、思考が、旬祢さんから離れなくなるよな。それぐらい魅力的ってことなんだろうけど、俺じゃない感じがしてソワソワするんだよなぁ。

「それは用事があるとは言いません。俺は急ぐので失礼しますね。」

先を急ごうとすると、指が絡まっていた手をギュッと握られて、旬祢さんの方へ引き寄せられる。

「そう焦らなくても大丈夫。それにこれだって立派な用事だ。」

スッと目を細めてつないだ手に視線を送る。

冷静に考えたら「んなわけないじゃん」って思うんだけど、旬祢さんに言われると何故かそうかもって思っちゃうんだよな…

「ね、二人のときぐらい俺の目を見て。」

旬祢さんの目を見たら終わる気がする。色々と。

「ま、いっか…栄人最近悩み事あるだろう。」

それは問いかけじゃなくて、確信をもって言っているんだろう。

「悩み事、は、いつもありますよ。今も絶賛悩んでます。」

「ふふ、それは困った。解決しそうもない。でも、最近悩んでいることは、俺相談に乗ってあげたいって思てるんだが…」

ほんと、この人にはどれだけのことが見えてるんだろう。

というか、手を繋いだままする相談でもないと思うけど…

「悩みってほどでもないですよ。ただ、人を好きになることとか、その時の気持ちとか…今まで知り合った人達とは違う考え方をする人達ばかりで戸惑っていただけです。」

「うん。」

「好きって気持ちを同じ好きって気持ちで返さないと怒って、恨んで、妬んで…好きだったはずの相手を傷つける…そういうマイナスな感情になるのが恋愛だと思ってたから、ここではそう考える人がいないんだって思って…」

「うん。」

「そしたら、俺が悩んでたのは何だったんだ！ってなって…悩みが無くなったと思ったらその悩みが無くなったが故の悩みが出来て…」