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処刑人ナオ
しおりを挟む合図とともに駆けたナンクルナイサ―と反対にジッと相手の動きを観察しているナオ。
その0コンマ数秒の間に何を考えたのかナオの表情が変わる。まるで表情が抜け落ちたかの如く無表情になり、その瞳の奥は怒りに燃えていた。
先手を切ったのはナンクルナイサ―。ナオの顔面めがけて繰り出された拳はナオに触れることなく空を切る。
難なく避けたナオはその後も攻撃を避け続ける。
「な、なんなんだっ!避けてばかりで攻撃一つして来ない!」
「……」
自分の攻撃がたったの一度も当たらないこの状況に焦りが出始めたナンクルナイサーは、その焦りのまま言葉を口に出す。まるで恐れていることから逃れたくて必死に命乞いでもしているような。
反対に一言も話さず、ただただ攻撃を避けているナオ。
その二人の組手は異様な雰囲気を醸し出しており、周囲で見ているクラスメイトは謎の緊張感に駆られて誰も口を開けないでいる。
対する騎士団の面々は普段温厚なナオがいきなりキレていることに驚きつつも、自分たちの天使の新しい一面が見れて嬉しさを噛みしめているところだった。
「何故だ!何故当たらない!!何故攻撃してこない!俺を馬鹿にしているのか!!」
「……………バカに?」
ビクッ
今まで沈黙を貫いていたナオが口を開く。
「お前なんかバカにする価値もない。そんなに攻撃してほしければ、お望み通り……」
今まで後方に避けながら攻撃をかわしていたナオが足を踏ん張り、前に出る。その勢いのまま、ナンクルナイサーのスピードなど比べ物にならない速さで一撃…
「ぐはっ」
顔面にクリーンヒット。よろけるナンクルナイサーに構わず、攻撃を繰り返す。
一度体勢が崩れたナンクルナイサーにナオの攻撃をかわすことなど出来ず、やられるがまま。まぁ、体勢が崩れていなくても避けることなど出来なかっただろうが…
バキッボコッドスッ
学生の組手にこんな一方的なことなどあるのだろうか。組手ではなく一方的な暴力の間違いじゃないのか。クラスメイトは目を疑う光景に、ゴクリと誰かが生唾を飲み込む。
「ふぅー、それで?自分、学園に入る前から訓練を続けていたので勝てる自信があります!…だったっけ?」
一先ず攻撃を止めたナオがナンクル=ナイサーに問い掛ける。
「お前こそ、僕を指導してくれた、育ててくれた騎士団を…クレマさんをバカにしてんのか?」
「ひっ!」
殺気に満ちた視線を向けられ、ナンクル=ナイサーは無様にも悲鳴を上げる。
「お前は僕の地雷を踏んだんだ。それ相応の覚悟は出来てのことだろう?」
ゾッ
更に追い込むように問い掛けるナオ。いつもはアメジストのように輝くその紫暗の瞳は憎悪に満ちている。
本当に俺は殺されてしまうのでは……
一瞬でもそう考えてしまったナンクル=ナイサーはあまりの恐怖に意識が遠のくのを感じる。
「そこまで!」
クレマさんの声にパッと振り向いたナオの表情にはもういつもの表情が戻っていた。何事もなかったかのような純粋な表情はクラスメイト達の恐怖心が余計に増長する。
「さっすがマイエンジェル!!!あぁ、凛々しい姿も素敵…」
「ナオちゃんはそうでなくっちゃっ♪」
「ナオ、お疲れ様。誰か、そこの保健室に連れてってやれ。」
クレマさんの指示に来ていた騎士団の面々がジャンケンをし始める。そして……
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!負けたぁぁぁ…」
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