24 / 24
24.
しおりを挟む「それでは、いつでもどうぞ」
試験官のクロノは、自然体で立ったままマルコムにそう告げた。
一見して戦う気がないかのように見えるかもしれないが、大きな間違いだ。
隙を探ろうとすればわかるが、いつ相手が飛びかかって来ても対応できるように構えている。
油断して雑に斬りかかって行けば、あっという間に返り討ちにあうだろう。
――それに対してマルコムは、
「うりゃぁぁ!!!」
剣を引き抜いて、勢いよく飛びかかっていく。
おお振りの一撃。剣を構えてすらいない相手には、それで十分だと思ったのか。
だが、それは大きな間違いだった。
クロノは剣を抜くことさえせず、わずかなステップだけで、マルコムの攻撃をかわす。
「なに!?」
そして、クロノはそのまま右手をマルコムの剣を持っている手に添える。
次の瞬間、マルコムの剣を握る手が力を失う。
――派手なスキルは何一つ使われていない。
ただ身体運動だけでマルコムを無力化して見せたのだ。
「なるほど、わかりました」
クロノはそう得心したと深くうなづいた。
「……クソ!」
だが、負けを認められないマルコムはそのまま逆の手でパンチを繰り出す。
それをクロノは、再び手を添えるだけでいなして見せる。
体の重心を奪われて、踏ん張りがきかなくなったマルコムはそのまま顔から地面に倒れ込んだ。
「ぐッ!!!」
完全に勝負ありだった。
――これが王都のAランク冒険者の実力。
超レアユニークスキル“神聖剣”のステータス強化を得ている男に、なんのスキルも使わずに勝ってしまう。
とんでもない強さだ。
と、クロノは倒れたマルコムに手を差し伸べる。
マルコムはクロノの手を取らずに自分で立ち上がった。
いかにも負けを認められないと言う感じだった。
「そうですね、悪くはないと思います。王立ギルドでもやっていくだけの実力はあるかと」
全く歯が立たなかったわりには、マルコムに対する評価は決して低くなかった。
この試験自体、元から勝つことを想定してはいないのだろう。
「それでは、評価はいかがなされますか?」
ギルド職員がクロノに聞く。
「そうですね、Cランクでいいでしょう」
「ぼ、ボクがCランクだと!?」
マルコムはその評価に対して噛み付く。
「Cランクでもまぁ王立ギルドで仕事ができると言うのは名誉なことですよ」
と職員がなだめる。
「――ッ!」
マルコムは自分の評価がそんなに低いわけがないとばかりに歯ぎしりする。
「それでは、次はどなたが?」
「――お願いします」
俺は早くこの男と戦いたいと思って志願した。
Aランク冒険者の実力の高さはよくわかった。
きっと俺歯が立たないだろう。
だが、だからこそ、この男の力がどれほどのものなのか自ら体験して見たかった。
「それではいざ――」
クロノと俺は少し距離をとって相対する――――
1
お気に入りに追加
1,395
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(12件)
あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ギルドとダンジョンの位置(感想さん宛て)
歩いて行ける一番近いダンジョン&ギルド、だったんじゃね?(弟は馬車で)
(追い出されたとはいえ国外追放だの何だのではないし)
(恥ずかしいから実家近くのダンジョンやギルドには入れないぜ!ではないのでしょう)
ゴミ強化の面白さで笑ったw
それこそ折れる直前まで刃こぼれした程度の剣でも、耐久が持つまでの使い捨て武器にしたり、筋力があるなら投擲武器として使えるからなぁ。
完全に折れたり壊れたりだと同じゴミでも使いどころが難しくなるけど、武器として使える程度に原型を留めていれば、数さえ揃えれば良いって事になるからねw
発想が良いので今後の展開に期待してます
【ゴミ強化】というスキルの着想は面白いし、凄いと感じた。【ゴミ強化(10倍)】を更に強化して【ゴミ強化(100倍)】になる部分も!
しかし、ツッコミ所が多い…先ず地理的に主人公は公爵家の都市から近くの村を経て隣街まで移動している筈なのに、主人公と弟が同じダンジョンに入ったり、同じ街の同じギルドで登録しているみたいに書かれている。変な感じ、間違っている感じがしました。