21 / 24
21.
しおりを挟む俺は奴隷商人の身柄を、別の商人に引き渡した。
その仕事を終え、街に帰ってくる頃には、すでに夜になっていた。
「すっかり遅くなっちゃったな。とりあえず宿を探さないと」
もちろん俺が借りている宿はあったが、部屋は一人用だ。ティオの分を用意しなければ。
そう思って、今泊まっている宿に戻り、空いている部屋がないか聞く。
だが、あいにく満室と言われてしまった。
俺は仕方がなく宿に一軒一軒聞いて回る。だが、他の店は、入り口の時点で断られてしまう。
曰く――キメラを泊める宿はないと。
亜人に対する差別の大きさに今更ながら驚く。
その後も宿を回ったが、結局、泊まれる宿は見つからなかった。
「すまんが俺の部屋に泊まってくれ」
俺はティオにそう謝った。
「そんな、ご主人様と同じ部屋に泊めていただくなんて恐れ多い! やっぱり私は外で寝ます!」
ティオはわちゃわちゃとそう言うが、もちろんそんなこと俺が納得するはずがなかった。
「いや、流石に。かと言って俺も外はいやだから……俺は床で寝るから、それで許してくれ」
「そんな! ご主人様が床で、私がベッドなんて!」
と言うその押し問答をしばらく続けたが、最後は命令で、ベッドに寝てもらうことにした。
もともと床でも野原でも寝れるクチだ。
俺はなんとかティオをベッドに寝かせて、自分も眠りについた。
「……ご主人様、ありがとうございます」
意識が遠のく前、そんな声が聞こえてきた気がした。
†
――――翌朝。
俺は額に当たったひんやりとした感触と、両手に抱えた何かの柔らかさを感じて、目が覚めた。
「……ん?」
目を開けると、目の前に茶色。
何かと思ったら――ツノ?
そして気がつく。
俺は昨日寝た時と変わらず、床にいた。
しかし、ティオはそうではなかった。
彼女はベッドから落ちてきて、俺の腰に手を回して寝ていたのだ。
ちょうど彼女の顔が俺の胸に当たり、ツノが俺の顔に当たっていた。
彼女の小さな腕が、俺の腰に巻きついて身動きが取れない。
「ごしゅじんさまぁ……」
なんか呼ばれた。
「おう、どうした」
なんか返事してみた。
…………。
……。
「……ふぁ?」
俺が驚いていると、ティオもつられて目を開けた。
そして、俺と近距離で目があって、そして状況に気がついたらしい。
「はッ!?」
ティオはさっと手を引っ込め、そして起き上がる。
「も、申し訳ありません、ご主人様!」
顔を真っ赤にして謝るティオ。
「わ、私気がつかないうちに……」
「いや、まぁ全然いいんだけど……」
しかし、とりあず彼女の寝相が悪いのはわかった。
†
俺たちは朝ごはんを食べてから、またギルドへと向かった。
「レイ様、おはようございます」
今日も受付のお姉さんが笑顔で出迎えてくれる。
「おはようございます」
「新しいパーティーメンバーですか?」
俺の後ろにいたティオを見てお姉さんは言った。
「ええ。なので、今日はできればいつもより難しいダンジョンに挑戦したいのですが」
俺が言うと、お姉さんは渋い顔を浮かべた。
「実は、このあたりには、Bランク以上のダンジョンは現れないんです」
こないだ俺が一人で軽々攻略してしまったダンジョンがBランクだった。
つまり、俺がもっとレベルアップできるようなダンジョンはここにはないと。
「それは残念です」
「……なので、レイ様は、王都に行かれた方がいいと思います」
と、お姉さんはそう提案してきた。
「王都に?」
「ええ。王都に行けば、もっと難しいダンジョンの受注も受けられます。レイ様の実力なら、あっという間にトップ冒険者になれると思いますよ」
なるほど、王都か。
「ティオ、王都に行って力を試して見たいんだが、それでもいいか?」
俺が聞くと、ティオは頷いた。
「もちろんです! 私は何処へでもついていきます」
「よし、じゃぁ決まりだ。王都に行こう」
1
お気に入りに追加
1,395
あなたにおすすめの小説

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!
秋田ノ介
ファンタジー
主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。
『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。
ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!!
小説家になろうにも掲載しています。

無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました
ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。
そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった……
失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。
その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。
※小説家になろうにも投稿しています。

家族に無能と追放された冒険者、実は街に出たら【万能チート】すぎた、理由は家族がチート集団だったから
ハーーナ殿下
ファンタジー
冒険者を夢見る少年ハリトは、幼い時から『無能』と言われながら厳しい家族に鍛えられてきた。無能な自分は、このままではダメになってしまう。一人前の冒険者なるために、思い切って家出。辺境の都市国家に向かう。
だが少年は自覚していなかった。家族は【天才魔道具士】の父、【聖女】の母、【剣聖】の姉、【大魔導士】の兄、【元勇者】の祖父、【元魔王】の祖母で、自分が彼らの万能の才能を受け継いでいたことを。
これは自分が無能だと勘違いしていた少年が、滅亡寸前の小国を冒険者として助け、今までの努力が実り、市民や冒険者仲間、騎士、大商人や貴族、王女たちに認められ、大活躍していく逆転劇である。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

義妹ばかりを溺愛して何もかも奪ったので縁を切らせていただきます。今さら寄生なんて許しません!
ユウ
恋愛
10歳の頃から伯爵家の嫁になるべく厳しい花嫁修業を受け。
貴族院を卒業して伯爵夫人になるべく努力をしていたアリアだったが事あるごと実娘と比べられて来た。
実の娘に勝る者はないと、嫌味を言われ。
嫁でありながら使用人のような扱いに苦しみながらも嫁として口答えをすることなく耐えて来たが限界を感じていた最中、義妹が出戻って来た。
そして告げられたのは。
「娘が帰って来るからでていってくれないかしら」
理不尽な言葉を告げられ精神的なショックを受けながらも泣く泣く家を出ることになった。
…はずだったが。
「やった!自由だ!」
夫や舅は申し訳ない顔をしていたけど、正直我儘放題の姑に我儘で自分を見下してくる義妹と縁を切りたかったので同居解消を喜んでいた。
これで解放されると心の中で両手を上げて喜んだのだが…
これまで尽くして来た嫁を放り出した姑を世間は良しとせず。
生活費の負担をしていたのは息子夫婦で使用人を雇う事もできず生活が困窮するのだった。
縁を切ったはずが…
「生活費を負担してちょうだい」
「可愛い妹の為でしょ?」
手のひらを返すのだった。

ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる