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しおりを挟む「“ゴミ強化”……? なんだ、そのスキルは……?」
父が神官に怪訝な表情を浮かべながら尋ねた。
「それが……私にもさっぱりわからず。このようなスキルを発現した者は今までおりません」
ユニークスキルと言っても、全く新しい力を発現することは滅多にない。
なので、まったく聞いたことがない新しいスキルの発現に、神官も驚いていた。
「文字通り、ゴミを強化するスキル……ということでしょうか」
それを聞いた父は下級の神官を呼びつけて「何か、ゴミをもってこい」と伝える。
俺の力を試すためだろう。
やがて、下級の神官が、錆びてボロボロになった今にも折れそうな剣を持って来た。
「レイ、これに“ゴミ強化”を使ってみろ」
「はい、父上……」
俺は神官から剣を受け取って、スキルを発動してみる。
「――“ゴミ強化”」
その言葉を呟くと、古びた剣が光り輝く。
光は数秒ほどで消え、残ったのはやはり古びた剣だった。
「――神官、何か剣に変化はあるか」
鑑定スキルを持つ神官に、父が尋ねる。
すると、神官は恐る恐るという感じで答える。
「……剣の諸々のステータスが10倍になっています」
その言葉を聞いて、父は「おおっ!」と声を上げる。
10倍。その数値は、強化スキルとしては破格のものだった。
強化系のスキルは、対象のステータスが1.5倍になれば大魔導士レベルで、2倍なんてことはまずない。
それを考えると、剣のステータスが10倍になった、というのは、まさにユニークスキルという言葉にふさわしい結果だった。
――だが。
「では、このナイフはどうだ?」
と、父は懐から一本のナイフを取り出した。
――いうまでもなく、これはゴミではなく、通常のナイフである。
「――“ゴミ強化”」
俺は再びスキルを発動する。しかしナイフは光らなかった。
「神官、ナイフのステータスはどうなっている?」
聞くと、神官は渋い顔で答える。
「……何も変わっておりません」
――これでハッキリした。
この“ゴミ強化”のスキルは、対象のステータスを10倍にする破格の力を持っている。
だが、対象にできるのは、ゴミだけなのだ。
もともと使い道がない、ほとんどステータスも持たないものだけしか強化できない。
ゴミはステータスが10倍になってもゴミだ。
極論、0に何をかけても、0なのだから。
すなわち――
「外れスキル、じゃないか」
マルコムがそう呟いた。
†
神殿から、自宅に戻ったあと、父は俺の前にあらゆるものを持って来た。
ゴミ、ゴミではないもの。
武器、衣服、食べ物、動物、挙げ句の果てには奴隷。
それらに、俺の“ゴミ強化”をかけさせた。
結果、わかったことがある。
やはり、俺のスキルはその名の通り“ゴミ”しか強化しないということ。
そして、何を強化してもやはり、ゴミはゴミだということ。
元のステータスが低いからゴミなのだ。
それを10倍そこら強化しても、ゴミはゴミだ。
あれこれ一時間ほど試した結果――
「……ええい、この無能め!!」
父は怒りに打ち震えながら、俺をそう罵倒した。
「申し訳ありません……」
俺は、ただそう謝るしかなかった。
ユニークスキルの印を持つ者として、公爵家の跡取りとして、これまでずっと期待に応えるため、剣を磨いて来た。
しかし、ようやく得たスキルが、役に立たないものを、役に立たない程度に強化するという<外れスキル>だった。
自分でも落胆したが、父のそれは想像以上だった。
「お前を育ててきた十八年間を返せ!」
これまでの期待に反比例するように、父は強い口調でそう言う。
そして、
「レノックス家には“神聖剣”をもつマルコムがいる。お前はもういらん」
――出て来たのは、そんな言葉だった。
「ち、父上?」
実の父親から出て来た言葉を、俺は飲み込めないでいた。
だが、俺の父――レノックス公爵はハッキリと言う。
「お前のようなゴミ(・・)は我がレノックス家にはいらん。いますぐに家を出て行け!」
――こうして、俺、レイ・レノックスは公爵家の跡取りから一転、実家を追放されることになったのだった。
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