上 下
10 / 20

10.戻ってきて欲しい?

しおりを挟む



 ――フェイが村の主人となってから数日後。

 村の食料事情は順調に改善していた。

 フェイの作ったゴーレムに魚を取りに行かせ当面の食料を確保しつつ、川から肥えた土を運び田畑を作っていく。
 そのうち、穀物や野菜も収穫できるようになるだろう。


 ――さぁ、次は何を改善しようか。

 フェイは想像を膨らませていく。

 だが、

「ご主人様!」

 村人の一人が突然、フェイの前に駆け寄ってきた。

「どうしました?」

「大変です! 王都からの使いが!」

 ――それは村人からすれば突然のことだったのだろう。

 だが、「やはり来たか」と言うのがフェイの感想だった。

「……仕方がないですね。今行きます」


 フェイは村の入り口へと向かって歩いていく。

 村に来た使者は、近衛騎士の一人だった。


「フェイ・ソシュール! 女王様の命令である。直ちに、王都へ出頭せよ」

「い、一体なぜ!?」

 村人が騎士に尋ねる。

「この者が宮廷に使えていた時の仕事があまりに粗末だったのだ。その埋め合わせをせよ」

 村人たちは村の救世主が突然王都に連れて行かれようとしていることに困惑した。
 だが、フェイは落ち着き払っていた。

 どのみち、どこかでは王都に行かなければと思っていたのだ。


「みなさん、大丈夫です。すぐに戻って来ますから」

 フェイは村人たちにそう言って聞かせる。

「――ご主人様! 私も行きます!」

 と、イリスがそう申し出る。

「ああ、そうだな。悪いが、イリス、ちょっと王都まで乗っけていってくれるか?」

 フェイがそう言うと、イリスは笑顔で頷く。

「はい! 人に乗られるのは初めてですが……ご主人様が初めてのお相手なら!」

「いや、その言い方は誤解を産むから!?」

 ――と、イリスは光を纏い、次の瞬間、2倍ほどの大きさの龍へと変身した。

「悪いですが、僕たちは先に行かせてもらいます」

 フェイは騎士にそう告げると、イリスにまたがった。

「お、お前たち!」

 イリスはその翼を大きく羽ばたかせる。
 フェイは騎士を置いてけぼりにして、王都へと旅立つ。

 †


 ――――実に一週間ぶりの王都だが、懐かしいと言う印象は皆無だなとフェイは思った。

 今思えば、王都ではがむしゃらに働いたが、楽しかったという記憶はあまりなかった。

「イリス、あそこに止めてくれ」

 空中から、王座の間がある建物の目の間にに降り立つ。

 ――前までは空中にフェイが張った結界があったが、今はガラ空きだ。
 もし今他国のドラゴン部隊がやってきたら、王都は壊滅するだろう。

 突然現れたフェイたちを見て、騎士たちが剣を引き抜いて慌てて駆け寄ってくる。

「き、貴様! 何者だ!」

「何ものって、呼びつけといてひどいな」

 だが、フェイの顔を見て騎士たちは現れたのが待っていた相手だと気がつく。

「……フェイ・ソシュール!」

「さて、女王様が呼んでいるんですよね? 手早く済ませたいので会わせてもらえますか?」

 フェイは騎士に付き従って、王座の間まで歩いていく。


「フェイ・ソシュール!」


 フェイが現れるなり、女王は王座から立ち上がり、駆け寄ってくる。


「今まで高い金を払って来たと言うのに、あなたのした仕事は欠陥だらけでしたよ! おかげで王宮は大混乱だ! どう責任を取ってくれるんですか!?」

 いきなりまくし立てる女王。

「……それは、失礼しました」

 フェイは一応謝ってみる。
 反論したところで、いいことはないという判断だった。

「今すぐに、王宮の機械を直しなさい! それに、ドラゴンたちと喋れるようもしなさい!」

 女王は唾を飛ばしながら、さらに怒鳴りつける。

 だが、フェイは頭を掻きながらぼやくように答える。

「あの、一応、僕がいなくなったときのことを考えて、マニュアルを用意していましたよね? 女王様にはちゃんとお話ししたはずですが」

 フェイは、王宮の様々な事象が自分でしか対応できないことは把握していた。
 自分がいなくなっても、最低限のことは回るように、引き継ぎのマニュアルを作っておいたのだ。


「マニュアルですって!? そんなものどこにあると言うのです!」

 だが、女王はそんなこと全く覚えていなかった。

 やれやれ、やっぱりか。

 フェイは頭をかく。

「だろうなと思いました。もうめんどくさいので、もう一度渡します」

 と、フェイはポケットから石を取り出す。
 変哲も無い石だがフェイの言語術によって、膨大な対応マニュアルが記録されていた。
 
 それをフェイは従者のものに渡す。

「これ通りにやれば、僕がいなくても最低限のことは回ると思います」

「ほんとでしょうね? 確認しなさい」

 女王はそう部下に。

 技官の男は必死にマニュアルを読んでいく。


「女王様! 確かにこれがあればなんとかなりそうなのですが……」

「どうした?」

「……おそらく、今までの100倍の魔法石が必要になります」

「なんだと!? 100倍だと!?」

 それはフェイからすると仕方がないことだった。

 自身で直接動かせば、効率よくできるが、ズブの素人たちがフェイの代わりを務めようとすれば、どうしてもそれくらいはかかる。
 それでもかなり標準化して、努力した結果だった。

 だが、女王は怒り狂う。

「そんなの許せるわけないでしょう! フェイ、今まで通りにしなさい! これは王命です!」

 と、女王は権力をかざして、フェイに迫る。

 ――だが。

「すみません、これで義理は果たしました。マニュアルの存在は女王様には教えていたのですが、きっとお忘れになっているだろうなと思って、それだけが気がかりでここに来たんです。あとはあなたがただけでどうぞご自由にやって下さい」

 そう言って、フェイは踵を返す。


 ――そうなると、焦るのは女王だった。

 100倍の魔法石だと!?
 このままでは国が滅んでしまう!
 
「ま、待ちなさい!」

 と女王はあらん限りの声でフェイを呼び止める。

「何か他に?」

 ――女王の焦りは最高潮に達していた。

 どうやら脅しにはこの男は屈しないらしい。

「し、子爵の座に戻らせてあげます! 特別に今までの罪を全て許します! だから今まで通り宮廷に仕えなさい!


 堰を切ったように、女王がまくし立てる。
 額に汗を流しながら、すがりつくような口調だった。

 だが――


「すみません、王宮に戻るつもりはありません。未開の地を開拓していくことこそ、自分のやりたいことだと気が付いたので」

 とフェイは毅然と言い放つ。

「し、子爵では足らぬか!? 仕方がない、では公爵にしてやろう! どうだ!」

「子爵でも公爵でも関係ありません。もうとにかく、私はこの国の人間ではありませんので」

 と、フェイはそのまま宮殿を後にする。


「お、おい! 待て、そのものを止めよ!」

 と、女王が騎士たちに命令を下す。

 一斉に騎士が剣を引き抜き、フェイを止めようと駆け寄ってくる。

 ――だが、次の瞬間、騎士たちは身動き一つ取れなくなる。

 フェイの精霊術によって縛り上げられたのだ。

「それでは、さようなら」

 フェイはそのまま宮殿を後にするのだった――


 女王はそれを呆然と見つめるしかなかった。


 †
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

元聖女だった少女は我が道を往く

春の小径
ファンタジー
突然入ってきた王子や取り巻きたちに聖室を荒らされた。 彼らは先代聖女様の棺を蹴り倒し、聖石まで蹴り倒した。 「聖女は必要がない」と言われた新たな聖女になるはずだったわたし。 その言葉は取り返しのつかない事態を招く。 でも、もうわたしには関係ない。 だって神に見捨てられたこの世界に聖女は二度と現れない。 わたしが聖女となることもない。 ─── それは誓約だったから ☆これは聖女物ではありません ☆他社でも公開はじめました

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

聖女業に飽きて喫茶店開いたんだけど、追放を言い渡されたので辺境に移り住みます!【完結】

青緑
ファンタジー
 聖女が喫茶店を開くけど、追放されて辺境に移り住んだ物語と、聖女のいない王都。 ——————————————— 物語内のノーラとデイジーは同一人物です。 王都の小話は追記予定。 修正を入れることがあるかもしれませんが、作品・物語自体は完結です。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

処理中です...