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7.
しおりを挟む翌日。
俺とリリィはその足でクエスト紹介所へと向かった。
いつもの受付のお姉さんに挨拶する。
「レイさん、もしかして早速ダンジョンに?」
「ああ、この子と一緒に。だからこの子の冒険者登録を頼む」
「承知しました!」
お姉さんが手際よく、リリィの登録を済ませてくれる。
「それで、早速ダンジョンに行こうと思うのだが、Cランクのダンジョンの探索許可証をもらえるか?」
ダンジョンは異世界の迷宮で、色々なところにその入口が湧き出てくる。
街の近くに湧き出てくるものは、クエスト紹介所が管理しているものが多く、冒険者たちは紹介所に許可をもらってそのダンジョンの魔物を討伐することになる。
「いきなりたった二人で、Cランクのダンジョンに行くなんて、さすがですね……。もちろん、レイさんなら危険なことはないでしょうけど」
「ああ、無理はしないつもりだ」
お姉さんにダンジョンを紹介してもらい、許可書をもらう。
なんでも一昨日発見されたばかりでまだ手付かずらしい。
まだ入口付近の弱めモンスターも多いだろうから、初心者には良いだろう。
「では、いってらっしゃい」
俺とリリィは、探索許可証をもらってダンジョンの入口へと向かう。
今回探索するダンジョンは、街から少し離れたところに入口があった。
草原の中に、次元の歪みが発生している。
その裂け目の中はぐるぐると渦を巻いて、紫色光っていた。
「あのダンジョンだな」
俺が言うと、リリィは腰につけた剣の柄を強く握りしめた。
明らかに緊張しているようだ。
無理もない。
ダンジョンに入るのも、魔物と戦うのも初めてなのだ。
「あんまり緊張しなくていいぞ。絶対に危険はないから」
俺はリリィの頭を撫でながらそう言った。
「は、はい!」
リリィは、少し声を裏返しながらそう返事した。
そこで俺はスキルを発動する。
「“身体力強化”、“加護の結界”」
その二つの強化魔法をリリィにかける。見た目にはなんの変化もないが、ステータスは大きく向上している。
本当は無言でも発動できるのだが、リリィを安心させるために、あえてスキル名を口にして発動した。
だからかわからないが、リリィはすぐに強化に反応する。
「す、すごいです! なんか、力が湧いてきます!」
「よし。じゃぁ行こう」
――裂け目をくぐり抜けると、中には石畳の廊下が広がっている。
ダンジョンは、ポピュラーな地下迷宮系だった。
握っていた手を離し、怖がるリリィに声をかける。
「索敵スキルでモンスターがきたらわかるから、安心してくれ」
「は、はい!」
「よし、じゃぁ行こう」
俺が先頭を切って進んで行く。
それから少し歩いていくと、魔物が近づいてくるのを感じた。
「――ゴブリンだな」
俺が言うと、リリィは自分から剣を抜いて構えた。その格好はあまり様になっていないが、まぁ問題はなかろう。
そして廊下の先から、ゴブリンが現れる。
ゴブリンは一体。
手練れの冒険者なら瞬殺できる相手だが、初心者にはなかなかの強敵だ。
デビュー戦にはちょうどいい。
「――“グラビティ・バインド”!」
俺はゴブリンに対して妨害の重力魔法をかける。
これで相手の動きは鈍くなる。
「リリィ、相手は動けない。遠慮なく斬ってくれ!」
「は、はい!」
俺が言うとリリィは意を決したように、ゴブリンに向かっていく。
相手はもちろんそれを迎撃しようとするが、俺の妨害でまともに動けない。
リリィは、剣を振り上げて、上段からまっすぐ斬り下ろす。
ゴブリンはちょうど棍棒を振り上げようとしていたところで真っ二つに切り裂かれ、次の瞬間霧散する。
「よし、よくやった!」
「……や、やったぁ!」
初めての戦闘がうまくいって、リリィは安堵の表情を浮かべる。
――経験値10を獲得しました。
脳裏に女神の声が響く。同じパーティのリリィがモンスターを倒したことで俺にも経験値が入ったのだ。
そして、立て続けに次の声。
――経験値+(S)のスキルによるボーナス経験値が100入りました。
「ぼ、ボーナス経験値!?」
同じように経験値を手に入れたリリィは、女神の言葉に驚く。
「ああ、俺の“経験値+”の効果だな」
「じゅ、10倍ももらえるんですか!?」
「人によって違うが、10倍ということもあるな。もちろんレベルアップするにつれて、経験値が入りにくくなるからいつまでも続くわけじゃないけどな。でもしばらくはそのくらいの経験値プラス効果があるぞ」
「あ、ありがとうございます! ご主人様のおかげで早くレベルアップできます」
「そうだな、どんどんレベルを上げていこう」
「はい!」
俺とリリィは、そのまま道を進んでいく。
そして、次のモンスターはさっきよりもさらに強力なモンスターだった。
「……オークか」
ゴブリンよりも巨体で、威圧感がある。
実際、ステータス的には3倍以上の力がある。
だが、リリィはゴブリンを倒したことで自信をつけたのか、臆することなく斬り掛かっていく。
「――えいッ!」
そんな可愛らしい掛け声とともに繰り出される斬撃も、強化スキルの恩恵で必殺の一撃になる。
オークは棍棒を振り上げたところで、それを振り下ろす前に真っ二つに切断された。
――経験値20を獲得しました。
――経験値+(S)のスキルによるボーナス経験値が200入りました。
――レベルアップ(1→2)しました。
「や、やったぁ!』
早速レベルアップしたようだ。
「よしよし、この調子だ」
「はい! 頑張ります!」
「でも、あんまり無理はするなよ。今はあくまで俺の強化スキルで強くなっているだけだからな。一人で危険な場所に行ったりはしないでくれ」
「もちろんです! 一生おそばを離れません」
いや、一生は困るが……。
しかし、今はそれくらいの方がいいか。
なにせ時々勘違いするやつらがいるからな。
強化スキルで強化されているだけなのに、自分の力と勘違いするのだ。
そう思ってから頭に真っ先に浮かんだのは、レッドジェネラルの元パーティメンバーたちだった。
……そういえば、あいつらには、いつも強化魔法をかけていた事実をちゃんと説明したことがなかったな。
別に言わなくても、自分の力でないことくらいはわかるだろうと思っていたが……
まさか、自分の実力を勘違いしたりしない……よな?
まぁ、さすがに大丈夫だろう。
あいつらもバカじゃないんだから、自分の正しい実力くらいはわかる……はずだ。
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