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しおりを挟む大手ギルド、<レッド・ジェネラル>のギルドマスター室。
俺、レイは突然、所属しているパーティの隊長で<勇者>のダミアンに呼び出された。
部屋に行くと、そこにはダミアンの他に、他のパーティメンバー三人もいた。
盗賊クラスの妖艶な女性、オリビア。<勇者>ダミアンと付き合っていて、今もダミアンと腕を絡ませ、その巨乳を押し当てている。
槍使いクラスのゴイル。屈強な見た目とは裏腹に、典型的な「長いものに巻かれる」タイプの人間で、ダミアンの使いっ走り的な存在だ。
そしてもう一人の女性、魔法使いクラスのデイジー。女性らしいオリビアとは対照的に、短髪で目つきの鋭い冒険者で、その見た目の通り強力な魔法を持つが、それに見合ってプライドも高い。
<勇者>ダミアン
<盗賊>オリビア
<槍使い>ゴイル
<魔法使い>デイジー
そして<雑用係(バック)>の俺、レイ。
この五人のパーティが、<レッド・ジェネラル>の主力パーティだった。
だが、
「レイ、契約は今日で打ち切りだ。今すぐギルドから出て行け」
リーダーであるダミアンは突然そう宣言する。
「契約打ち切り……だと?」
俺は低い声でそう聞き返す。
「ああそうだ。ギルドから今すぐ出て行け」
レイの頭に浮かんだのは――「ハケン切り」という言葉だった。
ダンジョンを攻略したり、クエストを請け負う冒険者ギルドのパーティ。
そこには、色々なクラスの人間がいる。
目の前のダミアンは花形の<剣士>クラスだ。
他にも<盗賊><槍使い><魔法使い>などが主要なクラスだ。
だが、パーティの仕事は、魔物と戦うだけではない。
アイテムを持ち運んだり、マッピングをしたり、ちょっとした補助魔法で戦闘を補助したり、あるいはギルドに帰って戦果を帳簿に記録したりといった雑用がある。
そういった雑用を行うのが、いわゆる雑用係(バック)と呼ばれる人間である。
このバックは、一般的には単純作業をこなすだけなので、特別な能力もいらない。
そこで、多くのギルドでは<ハケン>の人間が割り当てられる。
<ハケンは>ギルドの正規メンバーではなく、<人材ハケンギルド>から紹介されてきた非正規メンバーだ。
一般的(・・・)にはハケンの給与は安く、コスト削減になる。
また、いつでもギルド側の都合で首を切れるのもメリットだ。
そして、たった今「追放」を宣言された俺も、まさに「ハケン冒険者」であった。
だが、俺の場合は、なぜ「ハケン切り」にあったのかがさっぱりわからなかった。
「どういうことだ。給料以上の仕事はしてきたつもりだが」
俺が抗議すると、ダミアンは鼻で笑った。
「お前が? 大した能力もねぇポンコツ雑用係が何言ってんだ。あれで人並みの仕事をしたつもりか? お前のすることといえば、俺らに偉そうに指図するばかりじゃねぇか」
ダミアンはそう言って唾を飛ばしながら俺を罵倒する。
疎まれていたのは、まぁ気が付いていたが、しかしこんなに真正面から罵倒されるとは思ってもみなかったというのが正直んところだ。
「それで、ハケン切りすると?」
「ああ。いい加減うんざりだったからな」
「しかし、俺はギルドマスターから指示されてパーティで働いていたが」
俺は、この<レッド・ジェネラル>のギルドマスターであるレッドから請われて働いている。
だから、いくらパーティの隊長とはいえ、指図されるいわれはないと思った。
しかし、その考えをダミアンは明確に否定する。
「今日から、ボクがギルドマスターだ。ボクの命令はギルドの命令なんだよ」
その言葉に、俺は追放を宣言されたときよりも驚いた。
「お前がギルドマスター? レッドはどうしたんだ」
「レッドのおっさんは先も短い。もうギルドマスターとしての務めを果たせないと理解したんだろう。もう意識がないが、まだ意識がなくなる前に、<勇者>であるボクにギルドマスターの座を託したんだよ」
<レッド・ジュネラル>のギルドマスターレッドは、国で並ぶものがいないほどの勇者だったが、今は謎の病気に侵されていた。
前に俺が会いに行った時は、笑みを浮かべて大丈夫だと言っていたが、あれは俺を安心させるための嘘だったのだろう。
そう言ってダミアンは、ポケットからギルドマスターの証であるエンブレムを取り出した。
――確かに、それはレッドが持っていたものだった。
「うちのギルドは好調だが、だからこそ無能は今のうちに排除して収益性をあげるんだ。お前みたいな無能は邪魔なんだよ」
――その言葉を聞いて俺は、
「ああ、わかったよ」
そう、あっさりと引き下がった。
その反応が意外だったのか、レッドは眉をひそめる。
「なに? わかっただと?」
「ああ。追放だろ。わかった」
俺は淡々とそう答える。
「え? おま、え?」
と、ダミアンは逆にタジタジになる。
きっと、俺がもっと慌てふためくと思ったのだろう。
――だとしたら、大きな勘違いだ。
俺がこの十年間<ハケン>としてギルドを転々としながら<雑用係(バック)>の仕事をやってきたのには明確な理由があった。
それは――様々なギルドを俯瞰して見渡して、あらゆることを広く学ぶためだった。
戦闘系の職種は確かに花形だが、そこにいるとどうしても視野が狭くなる。それなら雑用係として、ギルドを見渡し、皆をサポートする経験を積んだ方が、将来ギルドマスターになるには得だと考えたのだ。
そして、その経験は十分に積んだ。
もう、このギルドで学ぶことはない。
だから、このギルドに未練はなかった。
もともとレッドとの約束も、ダミアンが<勇者>になるまでという約束だった。
もうその務めは果たしていたので、その意味でもこのギルドにいる理由がない。
「じゃ、今までありがとう」
そう言って俺はギルドマスター室を出ていく。
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