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第三話 亡国の兵士たち

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 数日後、キバたちはリード森林へと向かった。

 パーティは、キバとエリス、それにアルバートと、他荷物持ちが7名。合計10名だ。
 四千の軍団が支配する場所に行くことを考えれば、ほぼ丸腰と言っていいだろう。


「キバさん、本当に大丈夫ですかね」

 アルバートが心配げに言う。
 アルバートの心配は、もちろんエリス王女のことだ。
 その心配はもっともだろう。なにせキバたちは、アルザスの指導者であるエリス王女を兵力ゼロで山賊たちの根城に連れて行こうとしているのだから。

「すみません、不安にさせてしまって」

 キバはエリスにそう謝る。

「いえ、私は大丈夫です。キバさんを信じていますから」

 そう、わざと丸腰に近い状態で敵の本拠地に乗り込んでいるのは、キバの作戦だった。
 千人の兵士を引き連れて行くよりも、勝算があると踏んだから、こうして最低限の人数でここに来たのだ。
 ……だが、それはあくまでキバの考えが当たっていたらの話。もしそうでなければ、王女たちはたちまち斬り殺されることになる。


 ――森といっても、キバたちが進んで行く道は高い木に囲まれているため、木と木の間にある程度の幅があり、馬も通ることができる。
 一行は順調に道を進んだ。

 そして森に入って半日ほど経ち、だんだんあたりが暗くなって来た。

 今日は森を抜けることはできないので、森の中で野宿する予定だった。

 ちょうど右手に川が現れたので、今日はここで休むことにした。

「よし、今日はここで……」

 と、キバたちが荷物を置こうとしたその時、

 キバはふと殺気を感じた。

 一気に緊張が走る。

 見渡すと――川の向こうの茂みの中から、ヒュンと空気を切る音がした。
 そして次の瞬間、一本の矢がキバたちの目の前に突き刺さる。

 ――敵襲だ。
 アルバートは素早く剣を引き抜き、エリスたちの前に歩み出る。 

 ――茂みから、兵士たちが次々に出てくる。
 その数は数十人。
 戦いになれば、まず勝ち目はない。

「のこのここんなところをにやってくるとは」

 兵士たちの先頭に立つ男は、明らかに他とは風格が違った。
 中年だが、体は引き締まり、その視線はどこまでも鋭い。
 名乗る必要などなく、彼が歴戦の勇者であることは一目瞭然だった。

 圧倒的な空気感。間違いない、彼がベッテルハイムだ。キバはそう確信した。
 
「ベッテルハイム将軍ですよね」

 キバが言うと、男はは鋭い視線を返した。

「まさしく。だが、それがどうした」

「私たちはアルザスのものです。ここへは将軍に会いに来ました。あなたと交渉しに来たんです」

「……交渉だと?」

「必ずやお互いを利するものです」

 キバが言うと、ベッテルハイムは値踏みするようにキバたちを見た。

「……では、荷物を持ってついてこい。その交渉とやらに乗ってやろうじゃないか」

 †
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