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第5章:建国式典

第235話:同郷者

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思った通り、彼女たちは日本人だった。
見た目はもちろん、何か言葉では表すことのできないものを感じたのだ。彼女たちを見て、最初に出た言葉がそれだったように、一瞬で日本人だと理解できた。

そこで、初めて違和感を感じた。感じるのが遅すぎる違和感、というか疑問を。
ここは日本ではない。というか、世界が違う。だから、日本人がいるわけない。当たり前のことなのだが、今更そこに思い至った。彼女たちはいったいどうしてここに?

ある意味当然の疑問が湧き上がる。
目の前のレンドン子爵やその後ろにいる日本人だという4人は、私の返事を待っているらしく、こちらを見つめて動かない。

「あー、ごめん。とりあえずさ、4人は前に来てよ。座って、座って」

とりあえず、離れていては話しにくいので、レンドン子爵の横に座らせる。
レンドン子爵は、私の関心が彼女たちに向いていると理解しているのか、スッと横にずれてくれた。

座ったのを確認してから、

「改めて言うけど、私はコトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル。今はこの国で大公っていう爵位の貴族になってる。元々は日本人で、高三の時に向こうで死んで、こっちに来たの」

そう言うと、分かりやすく動揺する4人。

「とりあえずさ、あなたたちのことを教えてもらってもいい?」

見たところ、4人ともまだ若い。2人が同い年くらいで、2人が少し上くらいかな?


それから聞いた話は、なんともまあ、驚きの内容だった。

「召喚、ねぇ・・・。まあ、私にはこれ以上ないくらいに納得できる話だったね」

普通なら、「何を馬鹿なことを」となるんだろうけど、私は違う。私自身が、この世界にやって来ている身。死んでから転生したと思われる私と召喚された彼女たち。この世界に来た経緯は異なるが、日本から来たことには違いない。
続けて聞いていく。

「4人は元々知り合いだったの? ああ、それから。作法とか口調とか気にしなくていいからね」

そう言うと、少し安心したのか、

「私とこの子、長峰結葉と藤嶋佳織は幼馴染みで高校のクラスメイトです。召喚されたときも、一緒にいました。田中碧さんと安藤美緒さんとは面識が無かったです。お二人も・・・」
「元々知り合いとかではないです」

なるほど。更に聞いてみると、住んでいた都道府県も異なった。だが、長峰結葉さんと藤嶋佳織さんは、なんと私の高校の後輩だったし、住んでいる場所も結構近かった。

どうしてこの人たちが召喚されたのか、どのように召喚される人が決まったのかは分からなさそうだ。同じ高校なのが偶然とは思えないが、全く別の所から召喚された人もいるわけだし。

まあ、それはいいか。

「召喚されたのは、貴方たちだけ?」

との問いかけへの答えは、

「違います・・・。佳織の兄も一緒に召喚されました。他にも10人くらいいたと思います」
「そう・・・」

それから、彼女たちがダーバルド帝国で見たこと、経験したことを全て話してもらった。


 ♢ ♢ ♢


話を聞き終わり、部屋は重苦しい雰囲気になる。
後ろにいるマーカスの方を向いて、

「ねえ、マーカス。これって、ダンさんに伝えるべきだと思う?」

と確認する。

「・・・話が本当なら、お伝えするべきかと。そして、コトハ様は彼女たちの話を信じておられるのですよね?」
「うん。100%、間違いなく事実だと思うよ」
「でしたら、お伝えするべきかと」
「分かった、ありがと」

嫌な言い方をすれば、彼女たちはダーバルド帝国の新戦力のなり損ないで、その実験を体験した重要な目撃者だ。ダーバルド帝国と敵対している私たちにとっては、きちんと話を聞くべき相手と言うことになる。だから、このことは後でダンさんに伝えることにする。

けれど、私にとってはこの世界に拉致され、酷い目に遭わされてきた同郷者であり、被害者としか考えることができない。

「・・・・・・さて、と。結葉さんたちの望みは?」
「え?」
「これからどうしたい? 残念だけど、私には元の世界に帰る術は分からない。まあ、調べたわけではないけどね。少なくともしばらくの間は、この世界で暮らすことになる」
「・・・はい」
「それで、どうしたいのかなーって。どんなことでもいいよ?」
「・・・・・・できることなら、浩也を」
「佳織さんのお兄さん?」
「はい。助けたい、です。けど・・・」

彼女たちにはその力は無い。物理的な戦闘能力は無いと判断されたらしい。他の力、権力や財力も当然ない。

「・・・・・・とりあえず、私のとこにいなよ。私が保護するから。これからのことはゆっくり考えよ?」
「・・・え?」
「私も同郷者を見捨てたくないし、できることならお兄さんを助けてあげたい。それに、ダーバルド帝国は嫌いだしね。とはいえ、無計画に突っ込んでも、上手くいかない。特に、召喚を国レベルでやってるのなら、召喚された人を奪還するのは大変だと思う。それに、私がダーバルド帝国の人間なら、貴方たちが逃げたことを知ったら、口を封じようと考えると思う。だから、貴方たちの身の安全も考える必要がある」
「・・・・・・」
「だからね、少し時間は掛かるけど、まずはここで落ち着いたら? 私もできる限りのことはするし、守ってもあげられる」

私の提案に、4人は一度顔を見合わせて、

「「「「よろしくお願いします!」」」」

と声を揃えた。


そこまで話して、レンドン子爵の存在を思い出した。
彼はどうして結葉さんたちと一緒にいたんだろうか・・・

「レンドン子爵。ごめんね、放置してて」
「い、いえ。お気遣いなく」
「それで、どうして結葉さんたちと一緒に?」
「あ、はい」

それから、レンドン子爵が王城に結葉さんたちを連れてきた経緯を確認した。


「なるほど。ってことは、私がそれを横から奪った形になったのか・・・。バンさん。そのルスタル伯爵って人に、説明してきてくれる?」
「畏まりました」

とりあえず、レンドン子爵たちの到着を待っているであろうルスタル伯爵に、事情の説明をお願いしておく。

「それじゃあ、後ろにいる人たちが、結葉さんたちを助けた冒険者パーティと冒険者ギルドのギルドマスター?」
「はい。冒険者パーティ、ラヴァの娘の5人と、オーバンの町の冒険者ギルドでギルドマスターをしているダイン。王都の冒険者ギルドでギルドマスターをしているララシャです」

レンドン子爵の紹介に、それぞれ頭を深々と下げて挨拶してくる7人。

「なるほどね。彼女たちを助けてくれてありがとう。レンドン子爵も、王城に連れてきてくれてありがとうね」

と礼を述べておく。
後ろの7人やレンドン子爵は、驚いて言葉を失っているが、まあ、いいだろう。レーノからは、軽率に礼や謝罪をしないようにと言われていたけど、こればっかりは礼を述べておく必要があると思った。


 ♢ ♢ ♢


この場は一回お開きとして、今後のことを考えることになった。
結葉さんたちは、私の保護下に入ってもらい、一先ずは借りている部屋を使って休んでもらう。レンドン子爵はルスタル伯爵に話に行くとのことだった。そういえば、途中で私が転生したことと分かるような発言をしていたことを思い出し、私と彼女たちとの関係については口外しないようにいっておいた。どのみち、ダンさんたちには説明することになる気がするが、不必要に広がっても面倒くさい。

冒険者ギルドの人たちは、結葉さんたちに別れを告げると、帰ろうとしていた。
それを見て、ふと思いついた。

「ララシャさん、だっけ?」
「は、はい。仰せの通りにございます」
「それと、ラヴァの娘・・・、さん?」
「・・・呼び捨てでお願いします。パーティ名なので」

それぞれ呼び方を確認しようとしたが、ラヴァの娘のリーダーっぽい人にはそう突っ込まれた。確かにそうだよね・・・

「オッケー、ラヴァの娘、ね。それでさ、ラヴァの娘に依頼を出したいんだけど」
「依頼、ですか?」
「うん。さっきも言ったけど、結葉さんたちが狙われないとも限らない。もちろんうちの騎士団に護らせるつもりだけど、男とゴーレムしかいないからさ。結葉さんたちの境遇を考えれば、女性の護衛がいた方がいいかなって。どうだろう、引き受けてくれない?」

と聞いてみる。
言ってから思ったが、大公から直接頼まれて、断るって難しいよね・・・

「も、もちろんです!」

案の定、二つ返事で了承してくれた。

「ありがとう。ララシャさん。その、依頼の処理? とか、お願いしてもいい?」
「もちろんです」
「ありがとう。報酬は・・・、マーカス、任せるよ」

冒険者に護衛の依頼を出した場合の報酬なんて、知るわけがない。
マーカスは元冒険者だし、冒険者ギルドで審査官をするなど、ギルドの仕事もしていた。そういった相場にも明るいだろう。

「承知しました」

引き受けてくれるマーカスに対して、

「普通よりも多めに払ってあげてね。倍とかでもいいかな」

と伝えておく。
マーカスは意味を理解しているようだが、ララシャさんやラヴァの娘の5人は驚いていた。

「結葉さんたちを保護して、ここまで連れてきてくれたお礼も兼ねてね」

そう伝えると、深々と頭を下げられた。

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