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第4章:新たな日々

第137話:奴隷商人と奴隷

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反応があったゴーレムを設置した場所に近づくと、叫び声や怒号、魔獣の鳴き声と思われるものも聞こえてきた。

野営地に近かったことと、人が魔獣に襲われている可能性が高かったことから様子を見に来たが、誰彼構わず助ける気は無い。多かれ少なかれ危険を伴うのであって、それこそダーバルド帝国の斥候なんかであれば、騎士を危険にさらして助けることはない。


そのため、反応があった場所から少しそれた場所に移動し様子を窺う。
そこは木が倒れ、少し開けた場所だった。いるのは3頭のフォレストタイガーとボロボロの服に身を包んだ6人の『人間』・・・・・・、いや他種族? そして豪華な服に身を包んだ男だ。ただこの男の服の趣味はかなり、そのなんというか、ひどい。なんかジャラジャラしてる・・・

その他に、転がっている死体が2体・・・、か3体。フォレストタイガーの放つ魔法が直撃したのか身体がバラバラになっているので個体数の識別ができない。
近くに馬車よりは小さい荷車のようなものが壊れているし、馬の死体もある。

どういう面子なの・・・?

「ジョナス。この人たち何者?」
「・・・推測ですが、奴隷商人ではないかと」
「奴隷商人?」
「はい。あそこに固まっているボロボロの服を来ている人たちの手に、手枷のような金属がはめられていますし、少なくとも2名は『ドワーフ』だと思いますので」
「・・・そっか。じゃあ、あの趣味の悪いのが・・・」
「奴隷商人でしょう。死んでいるのはその護衛かと。いかがなさいますか?」
「・・・・・・・・・そうねー」


正直に言えば面倒ごとに関わりたくはない。ただ、奴隷と思われる6人は助けたいとも思う。奴隷にされた理由は知らないけど、前に聞いたダーバルド帝国が滅ぼした『ドワーフ』の王国に関連するのなら、この人たちに罪は無いのだろうし・・・
最悪、バイズ公爵家のラムスさんに任せればいいか。

「ジョナス。フォレストタイガーは私が始末するから、奴隷の6人を保護して。敵の可能性もあるから慎重にね」
「承知致しました。奴隷商人はいかがなさいますか?」
「・・・・・・うーん、助けたいのは奴隷たちだからどうでもいいけど、事情くらいは聞きたいかな」
「はっ。では奴隷商人は事情を確認後、拘束致します」
「うん。もちろん攻撃してきたら倒していいから。いつでも拘束できるようにね」
「はっ」


私たちは役割を決めると、フォレストタイガーと奴隷たちの間に割って入った。
私は石弾をいくつか作って放ち、フォレストタイガーを仕留める。
ジョナスらは奴隷たちと奴隷商人の間に入り、奴隷商人を牽制し、奴隷たちを保護した。

それから状況が分からず混乱している7人に対しジョナスが、

「我々はカーラルド王国クルセイル大公領騎士団である。そしてあちらにおられるのがクルセイル大公殿下であらせられる」

ジョナスの自己紹介を聞いても相変わらず状況が飲み込めない様子の7人。そんな7人を無視し、ジョナスが奴隷商人と思われる男の方を向く。

「貴様は何者だ?」

その威圧感たっぷりの問いに対して、奴隷商人と思われる男は頭を振って気を取り直し、

「私はダーバルド帝国公認の奴隷商人、ロドス・モナックである。そこにいるのは商品だ。助けていただき、感謝する」

と、お礼を述べてきた。ただ口調は丁寧だけど、なんか人を小馬鹿にした感じというか、ふてぶてしいというか・・・
奴隷商人、それも嫌な予感がしたようにダーバルド帝国の奴隷商人だ。面倒ごと確定だ・・・・・・

奴隷の6人を見ると、たぶん4人が『ドワーフ』で2人が『魔族』かな?
ドワーフの4人は、イメージするように身長が低くてがっしりした体躯、男と思われる2人には立派な髭が生えている。女と思われる2人には髭は生えていないが、がっしりしているのは変わらない。
魔族と思われる2人は、頭に2本の黒い角が生えている。側頭部から生えた少し曲がった角は、上を向いておりその先端は結構鋭く見えた。前にカイトから、いろいろな種類の『魔族』がいる中で、一番多いのがこういった角が生えた人だと聞いた覚えがある。

ただ、『人間』以外の年齢はよく分からないがドワーフの2人と魔族の1人はまだ子どもに見える。他の3人も、傷だらけで体調が良くないのは明らかだった。こんな人たちを保護しない選択肢は無い。


まあほぼ決めたが一応聞いておこう。

「ねえ、奴隷商人さん? なんでこんなところに?」
「うむ。奴隷の輸出のため、森を抜けて東の港を目指していたのだ。悪いが港までの護衛を雇えないだろうか? 護衛として雇った者はそこで死んでおるからな」

・・・・・・やっぱこの男、なんかズレてる。いや、私たちとは全く違う価値観で生きているのか。旧ラシアール王国やカーラルド王国では私的な奴隷は禁じられている。重犯罪を犯した者を国の管理下で鉱山労働などに処する、刑罰としての奴隷のみ存在する。この奴隷も、売り買いは禁止で所定の期間の労働を行えば、解放されたり牢獄へ戻されたりする。

そんな前提の私たちにとって、奴隷を輸出するというのは論外だ。それに敬語も無く見下したような言い草に、うちの騎士がキレ始めている。ジョナスとか、静かでおとなしいタイプだと思ってたんだけど、青筋浮かべて今にも斬りかかりそうだった。


「うーんとさ。とりあえず確認なんだけど、その人たちは何で奴隷に? 犯罪を犯したの?」
「ん? 何をバカなことをいっておる? 此奴らは『ドワーフ』に『魔族』。その存在自体が、罪であり、奴隷となるべき存在なのだ」

・・・・・・・・・・・・開いた口が塞がらないとはこのことか。
はぁー・・・・・・。1ミリでもまともな会話ができる可能性に期待したのが間違いだった。


「ジョナス。このバカを拘束して。あちらの皆さんは保護して」
「はっ」

私がそう言うと、素早く奴隷商人を制圧し拘束した。奴隷たちは何が起きたか分かってはいないようだが、直ぐに騎士ゴーレムが前に立ち塞がり、護衛態勢に入った。


「な、何をする!? 私はダーバルド帝国公認の奴隷商人だぞ!」
「黙れ! 貴様こそ、コトハ様に対して無礼の数々。それに奴隷の運搬を手伝えだ? ふざけるな!」

ジョナスはそう怒鳴りながら、奴隷商人の手を後ろに回し縄で縛っていく。
「ギャーギャー」喚いている奴隷商人は五月蠅すぎたので、猿轡を噛ませて黙らせた。


私は奴隷の元へ近づき、

「初めまして。私はコトハ。この森を管理しているカーラルド王国のクルセイル大公です」

私がそう言うと、おそらく貴族であることに反応したようで、一様に跪こうとしたのでそれを止め、

「今から皆さんを私たちの暮らしている場所に保護しようと思います。それを望まれない方はいますか?」

そう問いかけた。私や騎士にとって奴隷は忌むべきものだが、もしかしたら違う考えを持っている人がいるかもしれない。保護したいとは思うがそれを押しつける気も無い。そのため一応聞いてはみたが、まあ答えは決まっていた。

「「お願いします」」

そう言って、ドワーフと魔族の代表らしき人がそれぞれ頭を下げてきた。

「了解。とりあえず、ここの近くに野営している場所があるのでそこまで行きましょう。怪我の手当と、食事を用意します。それから、そちらの2人は馬に乗ってください。全員を乗せることはできないけど、2人なら大丈夫だから。足、怪我してるでしょ?」

ドワーフの中で一番小さい子と魔族の子どもは足を怪我していた。奴隷たちは靴を履いておらず、草履のようなものを履いていたが、それに穴が空き枝で切ってしまったようだ。

私の指示に6人は無言で頷き、騎士の先導のもと、騎士ゴーレムに守られながら移動を開始した。奴隷商人はジョナスが首に剣を突きつけて歩かせている。最後に騎士が、倒したフォレストタイガーから魔石だけ回収し、私が死骸と奴隷商人の仲間の死体を土に埋めて、レーベルの待つ川岸へと向かった。

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