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第3章:変わりゆく生活

第126話:領地発展計画1

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ポーラは寝かせ、騎士たちにはレーベルが食事を用意した後、割り当てた部屋で休んでもらう。軍馬たちには、マーラたちと同じ食事を与えておいた。馬用の食事のストックはあまりなかったので、『アマジュの実』を混ぜた食事にしてある。騎士たちにもそのうち教える予定だし、食べさせてもいいだろう。
騎士たちは、門番をし、拠点内を巡回しているゴーレムについて聞きたそうにしていたが、「明日ね!」と言って、休ませた。


この岩山に一番最初からあり私が目覚めた場所は、今では大広間として整えられている。そこに、私とカイト、レーベルにフェイ、マーカスさんとレーノさんが集まった。明日から拠点を改造していくつもりだが、無計画にやっても仕方がない。今後の方針と合わせて、先に話し合っておくことにしたのだ。

「えっと、それじゃあ、今後の方針?というか、何していくかを決めたいんだけど・・・」

私がそう言うと、マーカスさんが手を上げた。

「はい、マーカスさん!」

私がそう指名すると、

「あ、あの、コトハ様。さすがに直下の騎士に、さん付けは止めていただけると・・・」
「・・・ん? ああ、そうか。じゃあ、マーカス?」
「はい。愚息のことも、レーノで大丈夫ですので」

マーカスがそう言うと、レーノも「うんうん」と、頷いた。そういえば、道中会話しているときも、どこか居心地悪そうにしていたけど、さん付けされていたのが原因なのかも・・・?
やっぱ、ある程度は貴族らしい振る舞いになれないとねー・・・。というか、カイトとポーラが受ける予定の貴族教育って、本当は私に必要なんじゃない?


「じゃあ、気を取り直して、マーカス」
「はっ。ここの改造を考える前に、クルセイル大公領の組織を確認し、発展方針を考えるべきだと思います」
「組織?」
「はい。現状、コトハ様が領主、カイト様とポーラ様がクルセイル大公家所属であることは明確ですが、それ以外の組織が固まっておりません。我々の価値観になり申し訳ないのですが、命令系統を決めていただけると、今後の仕事がやりやすくなるかと・・・」

なるほどね。確かに、命令系統は大事だ。文化祭で出し物をするのではなくて、小規模とはいえ領地を運営していくわけだから、領民となったマーカスたちの生活も懸かっている。それに私も慣れないからこそ、誰に指示を出すべきなのかハッキリしておく方がやりやすい。


「マーカスの言う通りだね。領地の指揮系統って、どんな感じなの?」
「そうですね・・・。小規模な領地ですと、領主が軍事面、政治・経済面を全て管理しているケースもあります。ですが、旧バイズ辺境伯領では、軍事担当には騎士団長が、政治・経済担当には専門の文官が配置されておりました。加えて、王都で屋敷を構えて、王宮とのやり取りを仲介する担当もおりました」
「・・・なるほど。ここは小規模だと思うけど、私が全部管理するのは無理だから・・・・・・、カイトやる?」
「えっ!?」
「いや、カイトの方が、領地の運営とか得意そうだし」
「いやいや、無理だって! もちろん手伝うけど、いきなりそんなの無理だから!」
「そう? じゃあ、レーベル?」
「私は、コトハ様の執事です。身の回りのお世話が最優先ですから、領地運営に割ける時間はあまりないかと」

うーん。カイトにもレーベルにも断られたか。レーベルは予想通りだったけど。それに、ゆくゆくはカイトに全て任せるつもりだから・・・、今は我慢しておこう。


「マーカスやレーノはできる?」
「自分は生まれてこの方、戦いしか経験しておりません。騎士たちを率いることはできますが、それ以外の治政を行うのは無理です」
「そっか。レーノは?」
「自分は、一応騎士団の副団長を仰せつかっていましたが、ボードさんの下で政治・経済面の仕事の手伝いもしておりました。なので、できなくはないかと・・・」
「よし。じゃあ、騎士団長はマーカス。政治・経済担当の文官はレーノで!」

私がそう言うと、2人は苦笑いしながら受けてくれた。レーベルたちは、手伝いはするものの、私たちの世話が第一任務。騎士たちは、マーカスの配下になった。ポーラは保留。カイトは、領主補佐という扱いで、私に次ぐ地位に就く。もっとも、しばらくの間は、マーカスやレーノの仕事を手伝いながら勉強する形だ。

ちなみに、王都へ誰かを派遣する予定は無い。そんな人員はいないし、何か命令を受ける予定も無いからね。もう少し落ち着いたら、アーマスさんとは連絡を取りやすくする方法を考えようとは思っている。現状、向こうからこちらに緊急の連絡をすることは難しいし。


大体の配置が決まったところで、マーカスが手を上げたので、指名すると

「基本的な組織はいいと思います。それで、その・・・。拠点の入り口や、内部を歩いているゴーレムらしきものについてお伺いしたいのですが・・・」
「あ、そうだ。忘れてた。あれは私が作ったんだけどさ、今はレーベルの手伝いしてもらったり、拠点の警備してもらったりしてるのよね。警備用ゴーレムは、マーカスの指揮下に入れる?」
「・・・そう、ですな。その、警備用ゴーレムというゴーレムの戦闘能力はどれほどなのでしょうか?」
「うーん。5人一組で、ファングラヴィットはもちろん、フォレストタイガーを倒せるくらい?」
「なっ!」

絶句するマーカス。察していたように、遠い目をしているレーノ。レーベルが、ゴーレムの性能を褒めていたくらいだし、やっぱ驚くような高性能なんだろうねー・・・


「使い物になりそう?」
「当然です! 騎士たちと組ませれば、騎士の怪我のリスクを減らしながら、魔獣を討伐し、しかも騎士の成長が期待できます。警備用ゴーレムはどれほどの数がいますか?」
「予備含めて80体くらい? あ、でも領都防衛のときに使って、壊れたんだっけ?」
「いえ。コトハ様方が出かけておられる間に、全て修復しております。現在は25体が出入口の警備、15体が拠点内を巡回、40体を1階の待機場所にて待機させております」

おー。どうやら、レーベルが修理してくれていたらしい。

「ということだから、80体いるよ。それに、割と簡単に数を増やせるけど?」
「・・・・・・増やせるのですか?」
「うん。材料はファングラヴィットの魔石だけだし。宝物庫に山ほどあるから。後200体は、数日で増やせるよ」
「・・・・・・・・・それは、なんとも。分かりました。ひとまず、今いる警備用ゴーレムの指揮権を私にお与えいただきたく思います。今後、領地を拡大した暁には、警備用ゴーレムの数も増やしていただければ」
「オッケー。じゃあ、そういうことで。明日、全部集めて指示に従うように命令するね。今は、私たちの命令しか聞かないから」
「ありがとうございます」

マーカスが、連れてきた騎士と警備用ゴーレムを上手く分けて、連携させることでクルセイル大公領の騎士団の初期メンバーとすることになる。
・・・そういえば私は、騎士団を創ることはおろか、領民を受け入れるのも前向きでは無かったんだけどな・・・。まあ、せっかく慕って、付いてきてくれたんだから、できる限り頑張るべきだよね。


続いて政治・経済面の話だ。
レーノに、私たちのこれまでの生活を説明すると、

「なるほど。つまり現状のクルセイル大公領の収入源は、魔獣の素材の販売というわけですね。それ自体は問題ないのですが、現状ですとコトハ様方の武威に頼り切りになってしまいます。警備用ゴーレムと騎士たちによって、ある程度の魔獣を狩ることはできるでしょうが、それでも心許ないですね・・・」

普通の貴族領の主な収入源は税収だ。領民から税を集め、一定割合を国に納めた残りで領を運営する。もちろん、鉱山があったり、狩り場があったり、港があったりと、大きな産業がある領都では、それも収入源となる。

クルセイル大公領では、税収が無い。将来的には分からないが、現在の領民は私たちを入れて38名。その全員が大公家に所属、あるいは仕えている。そのため、税源となる農業や商業をしている領民はいないのだ。
一方で、衣食住は基本的にこちらが用意する。というか、みんなで狩りをして、拠点を改造して、一緒に生活していく感じだ。


「後は、レーベルの栽培している薬草や野菜、森の恵みくらいかなー。まあどれも、大した金額にはならないと思うけど・・・」

そりゃ、『アマジュの実』や『セルの実』を売り出せば、儲かるだろう。しかし、『アマジュの実』を多く売り出すのは避けたいし、嗜好品である『セルの実』を多く売るのは、価値を下げることに繋がる。


「そうですね。父の指揮の下、森の中で魔獣を狩りながら鍛錬を重ね、売りに出せる魔獣の素材を増やしましょう。領民が少なく、なんとかなっている間に、収入源たり得るものを考えましょう」

レーノの提案に全員が賛成した。

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