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第3章:変わりゆく生活
第119話:建国へ②
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~バイズ辺境伯~
信頼できる者らだけを残し、爵位が高くても権力欲が強すぎたり、そもそもの能力が低かったりする愚物は排除していた。そのおかげか、その後の話はスムーズに進んだ。私は公爵となり、宰相の地位に就く。しばらくは、財務卿・軍務卿の地位を兼ね、戦後の混乱が落ち着いたら、財務卿・軍務卿の地位を、侯爵となった残り4名の中から選任する。
本来公爵家は、王家の分家などが興すものである。今回は建国であること、私とハールとの力関係に差が開きすぎないようにしたいこと、ハールの長女がラムスの妻に、つまり我が家の次期当主に嫁いでおり、その子であるフォブスは、王家の血を引くことになることから、公爵となることになった。
この案には、6名の現伯爵も同意しており、問題なく進行した。
それから、新国家の基本的な法制度を、ラシアール王国と同じものにすることについても同意が得られた。
そして最後に、コトハ殿について、議題となった。
「では最後に。カーラルド王国にて、大公の爵位を持つことになる者がいる」
「・・・大公?」
「貴族の最高爵位ではないですか・・・」
「皆も、先だって我が領がクライスの大森林から出てきた魔獣の大群に襲われたことは知っておろう。そして最後には、伝説に登場するグレイムラッドバイパーまで現れた。それに立ち向かい、魔獣から騎士や領、多くの民の命を救った者がいることも、また知っておるであろう?」
そう問いかけると、一斉に頷いた。さすがに伯爵位の貴族ともなれば、基本的な情報収集を怠ることはない。それは、敵はもちろん味方であっても変わらない。あの場にいた騎士の中には、出身が各伯爵家であったり、その分家や連なる子爵家、男爵家であったりする者が数多いる。また、出入りの商人や、冒険者などからも情報が集められる。そのように情報を集めれば、あの場で圧倒的な強さで、魔獣を屠り、グレイムラッドバイパーを倒した女性と共に戦っていた子どもがいることは、容易に調べることができる。
「その者の名は、コトハという。現在はどこの国にも属しておらず、クライスの大森林に住んでおる」
住んでいる場所を告げると、さすがにそこまで調べが及んでいないのか、皆一様に驚いている。
「コトハ殿とは、これまで交易や情報交換をしており、此度の魔獣襲撃の引き金となった陰謀の警告をしてくれた。そして実際に防衛に参加してもらい、グレイムラッドバイパーの討伐まで成し遂げた。彼女がカーラルド王国に属することとなれば、それは周辺国家への抑止力となり、またクライスの大森林を領土に組み入れることにも繋がる」
ぶっ飛んだ話をしている自覚はあるので、理解を促しつつ、ゆっくり、反応を確認しながら説明していく。
「・・・・・・なるほど。アーマス様のご意見は理解致しましたし、その女性を取り込むことには賛成です。しかし、大公という地位を与える理由は・・・」
「それはな、彼女には、カーラルド王国に属するメリットが無いからだ」
それから私は、コトハ殿の性格や事情、昨日交渉した条件の内容を詳しく説明した。武の心得があり、グレイムラッドバイパーを倒すことのできるコトハ殿の存在が、どれほど貴重であり重要であるか理解していた者たちは、割と簡単に納得してくれた。
しかし、軍事面に疎い者たちを説得するのは容易ではなかった。だが彼らも、彼女が単独で、我らの軍を壊滅させられること、彼女に権力欲などないことを理解すると、どうにか納得してくれた。
コトハ殿は、大公となり、カーラルド王国ではカーラルド王家に次ぐ地位に就く。その上、国王であっても彼女に命ずることはできないのであるから、他の貴族が警戒するのも当然であった。しかし、彼らに説明したように、彼女が権力を欲すれば、我々を適当に滅ぼせば済む。なのでその心配は、無意味というか、しても仕方がないものだった。
それに、彼女が提示した条件は、とにかく自由でありたいというもの。そして彼女の性格を合わせ考えれば、彼女が緩い関係を望み、権力の中枢へ食い込もうとする気が無いことは、疑いようが無い。
ある程度納得を得られたところで、最後に確認しておく。
「皆も分かってくれたと思うが、彼女がカーラルド王国に属するメリットは大きい。南の『ディルディリス王国』、クライスの大森林を抜けてくる可能性がある『ダーバルド帝国』はいずれも彼女の支配地域を通過することになる。彼女がそれを見過ごすわけが無いし、少なくとも不意打ちを防ぐことができる。一方で、彼女にとってメリットはあまりない。クライスの大森林で自活できるし、ラシアール王国、カーラルド王国に思い入れもないだろう。こちらが頼んで名を連ねてもらう以上、できる限りの待遇で迎える必要がある」
皆が頷くのを確認し、ハールが、
「以上を踏まえて、先ほど示した条件で、彼女を大公として、迎え入れることとする」
と宣言した。皆は一様に跪き、新国王の決定に同意した。
その後、ランダル公爵軍との戦に関する検討を行ったが、これは既に大枠は決まっていた。ランダル公爵側の軍勢は、ラシアール王国の王都に本隊が陣取り、その周辺の4都市にも小規模の軍勢が配備されている。ランダル公爵側にいる貴族は、彼の言うことを無条件で受け入れるイエスマンばかりであり、能力の高い者どもは、元々彼の元を去ったり、謀反を起こしたことで反旗を翻したりしていた。そのため、軍事に明るく適切な諫言ができる配下などいないのだ。
その扱いは慎重にしているが、我々が前線に配置している貴族のもとへは、日々、ランダル公爵側から離脱してきた貴族や騎士団、傭兵団が押し寄せている。力関係から仕方なく従っていたのみなのか、ランダル公爵側の敗色が濃厚になったので寝返ったのか分からない。そこを確かめなければ信頼することなどできぬから、扱いに困ってはいるが、ランダル公爵側の戦力が削がれているのは間違いない。結果的に、ランダル公爵側の戦力はおよそ10万。カーラルド王国側は23万となっている。
以上から、ランダル公爵側の勢力を囲い込むように展開し、4都市に配備されている小規模な部隊を各個撃破して、4都市を制圧。その後、ラシアール王国の王都を包囲し攻め落とす。これらの都市は、王都の人口増加に伴って急いで建造された都市で、籠城には向かない。加えて戦力差も大きいことから、比較的簡単に落とせると踏んでいる。
そして、最後は、元々、武功を上げて授爵し、その爵位を上げてきたシャジバル伯爵とフーバー伯爵の出番だ。この両名が、中心となって、王都の東西から攻撃を開始する。ランダル公爵軍が籠城を選択すれば、時間はかかるだろう。籠城は、王都に住む民にも多大な負担を強いることになる。今後、カーラルド王国として統一し、統治していくためには、民に負担を強いることは望ましくない。しかし、ランダル公爵の性格上、逆賊だと言われた相手に対して、籠城を選択する可能性は高くは無いと考えていた。逆上して、打って出てくれれば助かるのだがな・・・・・・
それらの確認は問題なく行われた。ハールは新国家の国王として、全軍を率いる立場に就く。そのため、本隊に同行する。後はできる限り、ランダル公爵を絶対的な悪として印象づけ、こちらは占領された各都市や、ランダル公爵派の貴族の領地を奪還する。今後の統治を考えると、カーラルド王国の印象をできる限り良くしなければならない。
♢ ♢ ♢
その後、集まった6名にコトハ殿、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル大公殿下を紹介したのだが・・・・・・、彼女を目にした伯爵たちは、驚き固まってしまった。
コトハ殿は見目麗しい女性であり、王族や貴族の娘だと言われても何ら違和感が無いだろう。コトハ殿について情報収集していた貴族たちも、これほど若く綺麗な女性が、あれだけの武勲を立てたとは思わなかったのだと思われる。彼女の種族などについて説明していないし、その驚きも仕方がないだろう。ラシアール王国同様、カーラルド王国でも、種族による身分差や、貴族を『人間』に限定する決まりなど無いからな。
コトハ殿に昨日話し合った各条件を受け入れること、明日付で新国家の建国を宣言し、ランダル公爵を逆賊として糾弾し、討伐を宣言することを伝えた。彼女も了解し、貴族たちと挨拶を交わしていた。
翌日、カーラルド王国の建国、ランダル公爵への糾弾及び討伐の宣言を、各都市、各国へ向けて公表した。
信頼できる者らだけを残し、爵位が高くても権力欲が強すぎたり、そもそもの能力が低かったりする愚物は排除していた。そのおかげか、その後の話はスムーズに進んだ。私は公爵となり、宰相の地位に就く。しばらくは、財務卿・軍務卿の地位を兼ね、戦後の混乱が落ち着いたら、財務卿・軍務卿の地位を、侯爵となった残り4名の中から選任する。
本来公爵家は、王家の分家などが興すものである。今回は建国であること、私とハールとの力関係に差が開きすぎないようにしたいこと、ハールの長女がラムスの妻に、つまり我が家の次期当主に嫁いでおり、その子であるフォブスは、王家の血を引くことになることから、公爵となることになった。
この案には、6名の現伯爵も同意しており、問題なく進行した。
それから、新国家の基本的な法制度を、ラシアール王国と同じものにすることについても同意が得られた。
そして最後に、コトハ殿について、議題となった。
「では最後に。カーラルド王国にて、大公の爵位を持つことになる者がいる」
「・・・大公?」
「貴族の最高爵位ではないですか・・・」
「皆も、先だって我が領がクライスの大森林から出てきた魔獣の大群に襲われたことは知っておろう。そして最後には、伝説に登場するグレイムラッドバイパーまで現れた。それに立ち向かい、魔獣から騎士や領、多くの民の命を救った者がいることも、また知っておるであろう?」
そう問いかけると、一斉に頷いた。さすがに伯爵位の貴族ともなれば、基本的な情報収集を怠ることはない。それは、敵はもちろん味方であっても変わらない。あの場にいた騎士の中には、出身が各伯爵家であったり、その分家や連なる子爵家、男爵家であったりする者が数多いる。また、出入りの商人や、冒険者などからも情報が集められる。そのように情報を集めれば、あの場で圧倒的な強さで、魔獣を屠り、グレイムラッドバイパーを倒した女性と共に戦っていた子どもがいることは、容易に調べることができる。
「その者の名は、コトハという。現在はどこの国にも属しておらず、クライスの大森林に住んでおる」
住んでいる場所を告げると、さすがにそこまで調べが及んでいないのか、皆一様に驚いている。
「コトハ殿とは、これまで交易や情報交換をしており、此度の魔獣襲撃の引き金となった陰謀の警告をしてくれた。そして実際に防衛に参加してもらい、グレイムラッドバイパーの討伐まで成し遂げた。彼女がカーラルド王国に属することとなれば、それは周辺国家への抑止力となり、またクライスの大森林を領土に組み入れることにも繋がる」
ぶっ飛んだ話をしている自覚はあるので、理解を促しつつ、ゆっくり、反応を確認しながら説明していく。
「・・・・・・なるほど。アーマス様のご意見は理解致しましたし、その女性を取り込むことには賛成です。しかし、大公という地位を与える理由は・・・」
「それはな、彼女には、カーラルド王国に属するメリットが無いからだ」
それから私は、コトハ殿の性格や事情、昨日交渉した条件の内容を詳しく説明した。武の心得があり、グレイムラッドバイパーを倒すことのできるコトハ殿の存在が、どれほど貴重であり重要であるか理解していた者たちは、割と簡単に納得してくれた。
しかし、軍事面に疎い者たちを説得するのは容易ではなかった。だが彼らも、彼女が単独で、我らの軍を壊滅させられること、彼女に権力欲などないことを理解すると、どうにか納得してくれた。
コトハ殿は、大公となり、カーラルド王国ではカーラルド王家に次ぐ地位に就く。その上、国王であっても彼女に命ずることはできないのであるから、他の貴族が警戒するのも当然であった。しかし、彼らに説明したように、彼女が権力を欲すれば、我々を適当に滅ぼせば済む。なのでその心配は、無意味というか、しても仕方がないものだった。
それに、彼女が提示した条件は、とにかく自由でありたいというもの。そして彼女の性格を合わせ考えれば、彼女が緩い関係を望み、権力の中枢へ食い込もうとする気が無いことは、疑いようが無い。
ある程度納得を得られたところで、最後に確認しておく。
「皆も分かってくれたと思うが、彼女がカーラルド王国に属するメリットは大きい。南の『ディルディリス王国』、クライスの大森林を抜けてくる可能性がある『ダーバルド帝国』はいずれも彼女の支配地域を通過することになる。彼女がそれを見過ごすわけが無いし、少なくとも不意打ちを防ぐことができる。一方で、彼女にとってメリットはあまりない。クライスの大森林で自活できるし、ラシアール王国、カーラルド王国に思い入れもないだろう。こちらが頼んで名を連ねてもらう以上、できる限りの待遇で迎える必要がある」
皆が頷くのを確認し、ハールが、
「以上を踏まえて、先ほど示した条件で、彼女を大公として、迎え入れることとする」
と宣言した。皆は一様に跪き、新国王の決定に同意した。
その後、ランダル公爵軍との戦に関する検討を行ったが、これは既に大枠は決まっていた。ランダル公爵側の軍勢は、ラシアール王国の王都に本隊が陣取り、その周辺の4都市にも小規模の軍勢が配備されている。ランダル公爵側にいる貴族は、彼の言うことを無条件で受け入れるイエスマンばかりであり、能力の高い者どもは、元々彼の元を去ったり、謀反を起こしたことで反旗を翻したりしていた。そのため、軍事に明るく適切な諫言ができる配下などいないのだ。
その扱いは慎重にしているが、我々が前線に配置している貴族のもとへは、日々、ランダル公爵側から離脱してきた貴族や騎士団、傭兵団が押し寄せている。力関係から仕方なく従っていたのみなのか、ランダル公爵側の敗色が濃厚になったので寝返ったのか分からない。そこを確かめなければ信頼することなどできぬから、扱いに困ってはいるが、ランダル公爵側の戦力が削がれているのは間違いない。結果的に、ランダル公爵側の戦力はおよそ10万。カーラルド王国側は23万となっている。
以上から、ランダル公爵側の勢力を囲い込むように展開し、4都市に配備されている小規模な部隊を各個撃破して、4都市を制圧。その後、ラシアール王国の王都を包囲し攻め落とす。これらの都市は、王都の人口増加に伴って急いで建造された都市で、籠城には向かない。加えて戦力差も大きいことから、比較的簡単に落とせると踏んでいる。
そして、最後は、元々、武功を上げて授爵し、その爵位を上げてきたシャジバル伯爵とフーバー伯爵の出番だ。この両名が、中心となって、王都の東西から攻撃を開始する。ランダル公爵軍が籠城を選択すれば、時間はかかるだろう。籠城は、王都に住む民にも多大な負担を強いることになる。今後、カーラルド王国として統一し、統治していくためには、民に負担を強いることは望ましくない。しかし、ランダル公爵の性格上、逆賊だと言われた相手に対して、籠城を選択する可能性は高くは無いと考えていた。逆上して、打って出てくれれば助かるのだがな・・・・・・
それらの確認は問題なく行われた。ハールは新国家の国王として、全軍を率いる立場に就く。そのため、本隊に同行する。後はできる限り、ランダル公爵を絶対的な悪として印象づけ、こちらは占領された各都市や、ランダル公爵派の貴族の領地を奪還する。今後の統治を考えると、カーラルド王国の印象をできる限り良くしなければならない。
♢ ♢ ♢
その後、集まった6名にコトハ殿、コトハ・フォン・マーシャグ・クルセイル大公殿下を紹介したのだが・・・・・・、彼女を目にした伯爵たちは、驚き固まってしまった。
コトハ殿は見目麗しい女性であり、王族や貴族の娘だと言われても何ら違和感が無いだろう。コトハ殿について情報収集していた貴族たちも、これほど若く綺麗な女性が、あれだけの武勲を立てたとは思わなかったのだと思われる。彼女の種族などについて説明していないし、その驚きも仕方がないだろう。ラシアール王国同様、カーラルド王国でも、種族による身分差や、貴族を『人間』に限定する決まりなど無いからな。
コトハ殿に昨日話し合った各条件を受け入れること、明日付で新国家の建国を宣言し、ランダル公爵を逆賊として糾弾し、討伐を宣言することを伝えた。彼女も了解し、貴族たちと挨拶を交わしていた。
翌日、カーラルド王国の建国、ランダル公爵への糾弾及び討伐の宣言を、各都市、各国へ向けて公表した。
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