すれ違う恋の行方〈中学編〉

秋 夕紀

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第1章 梅枝七海(14歳)=立松千宙(14歳)

§16 危険な初詣

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 クリスマス以来、二人は会えないでいた。七海は家の手伝いをするように言われ、千宙はサッカーの練習があった。そして正月は一緒に初詣に行きたかったが、千宙は母親の実家に行く予定らしく断念した。
 年末のある日、私は初絵と街に買い物に出掛けた。
「初絵、黒岩君とはどうなったの?」と遠慮しながら訊くと、
「もう別れたよ。あいつ、私以外にも付き合ってる子がいて、裏切られたんだ。」といつもの彼女らしくなく、しおらしく語っていた。
「七海の忠告を、しっかりと聞いておけば良かった。七海はどう?」
「千宙君とはボチボチかな。でも、今はクリスマスから会えてなくて…。」
「クリスマスか、いいな。その頃はもう別れていたからな。で、進展あり?」
「特別に報告することはないよ。でもね、お姉さんの彼氏が来てて…。」
 七海はその日の事、千宙と話した事を、差し障りのない範囲で報告した。
「キスするとかしないとか、二人の気持ちが大事だよね。わたしなんか、あいつのしたい放題にされて、身も心も傷付きっ放しだよ。自分が情けなくなる。」
 初絵に何があったかは詳しく訊かなかったが、およそ想像が付く。冬休み前に元気がなかったのは、今考えるとそのせいだったのだ。初絵の心や体をもてあそび、傷付けた黒岩君が許せなかった。

 お正月の三が日を家で過ごし、七海はそろそろ退屈になっていた。そんな時、百瀬が突然家を訪ねて来た。玄関先にいる彼に、七海は驚いた。
「先輩、どうしたんですか?わたしの家が、よく分かりましたね?」
「ごめん、突然に。この辺だと聞いてたんで、探して来てみた。今日、時間ある?」 私は困惑して、言葉をためらっていた。
「良ければ、一緒に初詣に行かないかな、と思って。」と誘ってくる百瀬に、
「どうして、先輩と?わたし、行く気はないです。」と断った。
「そんなこと言わないで、折角こうして誘いに来たんだから、行こうよ!」
 しつこい百瀬との押し問答の末、日頃のお礼だと思って渋々出掛ける事にした。支度があるからと先に駅に行ってもらい、私は自転車で追い掛けた。電車の中では、先輩が部活の武勇談や勉強の事を主に語り、私は聞き役に徹していた。電車で二駅目に神社があり、参道は正月の喧騒が嘘のように人影はまばらだった。お詣りを済ませてお守りを買い終わった頃には、清々しい気分になった。
「先輩は何をお願いしたんですか?やっぱり受験のこととか?」
「それもあるけど、七海と一緒にいられますように、と祈ってた。」
 梅枝さんから七海に呼び方が代わっていて、しかも勉強で忙しいはずなのに、驚いたというよりも飽きれてしまった。
「何それ、わたしは前から言ってるように、そんな気はないですから。」と言うと、私の肩に手を掛けて引き寄せられた。その手から逃れようとしたが、彼の力は思ったよりも強く、そのまま肩を抱かれて歩くしかなかった。
「先輩、何するの?嫌だ!離してください。」と抵抗するも虚しく、引きずられるようにして、神社の裏に連れて行かれた。先輩のというより、男の力の強さには敵わないと怖くなった。何とかこの場を逃れたいと思っていると、彼の顔が私の目の前に近付いてきた。私は空かさず彼の胸を突き、一目散に駆け出した。追っ駆けられたら敵わないと思い、必死で駅前まで走った。自分の甘さに飽きれ、自己嫌悪に陥っていた。千宙君の顔が見たいと、自分勝手に思っていた。

 電車を降りて、七海は千宙の家に向かっていた。「会いたい。家にいて。」と願いながら、自転車をこいでいた。
「ごめん下さい。千宙君はいますか?」と玄関のインターホンに語り掛けると、「あれ?七海、どうしたの?」と千宙君が出て来た。
「あのね、初詣に行った帰りなの。お守りを渡したくて、ついでに寄ってみたの。」
 私は電車の中で考えた口実を、彼を前にして口走っていた。
「それなら、学校が始まってからでも良くない?家に上がる?」
 彼の優しい笑顔を見て、心が落ち着いた。家に上がるのは遠慮したけれど、ずっと話していたかった。先輩との事は、変に誤解されても嫌だったので話さなかった。私の勝手な行動で、また彼を傷付ける所だった。本当は正直に話して謝るべきだったが、それができない自分が情けなかった。前みたいに嫉妬されて、気まずくなるのも嫌だった。
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