17 / 20
第1章 梅枝七海(14歳)=立松千宙(14歳)
§16 危険な初詣
しおりを挟む
クリスマス以来、二人は会えないでいた。七海は家の手伝いをするように言われ、千宙はサッカーの練習があった。そして正月は一緒に初詣に行きたかったが、千宙は母親の実家に行く予定らしく断念した。
年末のある日、私は初絵と街に買い物に出掛けた。
「初絵、黒岩君とはどうなったの?」と遠慮しながら訊くと、
「もう別れたよ。あいつ、私以外にも付き合ってる子がいて、裏切られたんだ。」といつもの彼女らしくなく、しおらしく語っていた。
「七海の忠告を、しっかりと聞いておけば良かった。七海はどう?」
「千宙君とはボチボチかな。でも、今はクリスマスから会えてなくて…。」
「クリスマスか、いいな。その頃はもう別れていたからな。で、進展あり?」
「特別に報告することはないよ。でもね、お姉さんの彼氏が来てて…。」
七海はその日の事、千宙と話した事を、差し障りのない範囲で報告した。
「キスするとかしないとか、二人の気持ちが大事だよね。わたしなんか、あいつのしたい放題にされて、身も心も傷付きっ放しだよ。自分が情けなくなる。」
初絵に何があったかは詳しく訊かなかったが、およそ想像が付く。冬休み前に元気がなかったのは、今考えるとそのせいだったのだ。初絵の心や体をもてあそび、傷付けた黒岩君が許せなかった。
お正月の三が日を家で過ごし、七海はそろそろ退屈になっていた。そんな時、百瀬が突然家を訪ねて来た。玄関先にいる彼に、七海は驚いた。
「先輩、どうしたんですか?わたしの家が、よく分かりましたね?」
「ごめん、突然に。この辺だと聞いてたんで、探して来てみた。今日、時間ある?」 私は困惑して、言葉をためらっていた。
「良ければ、一緒に初詣に行かないかな、と思って。」と誘ってくる百瀬に、
「どうして、先輩と?わたし、行く気はないです。」と断った。
「そんなこと言わないで、折角こうして誘いに来たんだから、行こうよ!」
しつこい百瀬との押し問答の末、日頃のお礼だと思って渋々出掛ける事にした。支度があるからと先に駅に行ってもらい、私は自転車で追い掛けた。電車の中では、先輩が部活の武勇談や勉強の事を主に語り、私は聞き役に徹していた。電車で二駅目に神社があり、参道は正月の喧騒が嘘のように人影はまばらだった。お詣りを済ませてお守りを買い終わった頃には、清々しい気分になった。
「先輩は何をお願いしたんですか?やっぱり受験のこととか?」
「それもあるけど、七海と一緒にいられますように、と祈ってた。」
梅枝さんから七海に呼び方が代わっていて、しかも勉強で忙しいはずなのに、驚いたというよりも飽きれてしまった。
「何それ、わたしは前から言ってるように、そんな気はないですから。」と言うと、私の肩に手を掛けて引き寄せられた。その手から逃れようとしたが、彼の力は思ったよりも強く、そのまま肩を抱かれて歩くしかなかった。
「先輩、何するの?嫌だ!離してください。」と抵抗するも虚しく、引きずられるようにして、神社の裏に連れて行かれた。先輩のというより、男の力の強さには敵わないと怖くなった。何とかこの場を逃れたいと思っていると、彼の顔が私の目の前に近付いてきた。私は空かさず彼の胸を突き、一目散に駆け出した。追っ駆けられたら敵わないと思い、必死で駅前まで走った。自分の甘さに飽きれ、自己嫌悪に陥っていた。千宙君の顔が見たいと、自分勝手に思っていた。
電車を降りて、七海は千宙の家に向かっていた。「会いたい。家にいて。」と願いながら、自転車をこいでいた。
「ごめん下さい。千宙君はいますか?」と玄関のインターホンに語り掛けると、「あれ?七海、どうしたの?」と千宙君が出て来た。
「あのね、初詣に行った帰りなの。お守りを渡したくて、ついでに寄ってみたの。」
私は電車の中で考えた口実を、彼を前にして口走っていた。
「それなら、学校が始まってからでも良くない?家に上がる?」
彼の優しい笑顔を見て、心が落ち着いた。家に上がるのは遠慮したけれど、ずっと話していたかった。先輩との事は、変に誤解されても嫌だったので話さなかった。私の勝手な行動で、また彼を傷付ける所だった。本当は正直に話して謝るべきだったが、それができない自分が情けなかった。前みたいに嫉妬されて、気まずくなるのも嫌だった。
年末のある日、私は初絵と街に買い物に出掛けた。
「初絵、黒岩君とはどうなったの?」と遠慮しながら訊くと、
「もう別れたよ。あいつ、私以外にも付き合ってる子がいて、裏切られたんだ。」といつもの彼女らしくなく、しおらしく語っていた。
「七海の忠告を、しっかりと聞いておけば良かった。七海はどう?」
「千宙君とはボチボチかな。でも、今はクリスマスから会えてなくて…。」
「クリスマスか、いいな。その頃はもう別れていたからな。で、進展あり?」
「特別に報告することはないよ。でもね、お姉さんの彼氏が来てて…。」
七海はその日の事、千宙と話した事を、差し障りのない範囲で報告した。
「キスするとかしないとか、二人の気持ちが大事だよね。わたしなんか、あいつのしたい放題にされて、身も心も傷付きっ放しだよ。自分が情けなくなる。」
初絵に何があったかは詳しく訊かなかったが、およそ想像が付く。冬休み前に元気がなかったのは、今考えるとそのせいだったのだ。初絵の心や体をもてあそび、傷付けた黒岩君が許せなかった。
お正月の三が日を家で過ごし、七海はそろそろ退屈になっていた。そんな時、百瀬が突然家を訪ねて来た。玄関先にいる彼に、七海は驚いた。
「先輩、どうしたんですか?わたしの家が、よく分かりましたね?」
「ごめん、突然に。この辺だと聞いてたんで、探して来てみた。今日、時間ある?」 私は困惑して、言葉をためらっていた。
「良ければ、一緒に初詣に行かないかな、と思って。」と誘ってくる百瀬に、
「どうして、先輩と?わたし、行く気はないです。」と断った。
「そんなこと言わないで、折角こうして誘いに来たんだから、行こうよ!」
しつこい百瀬との押し問答の末、日頃のお礼だと思って渋々出掛ける事にした。支度があるからと先に駅に行ってもらい、私は自転車で追い掛けた。電車の中では、先輩が部活の武勇談や勉強の事を主に語り、私は聞き役に徹していた。電車で二駅目に神社があり、参道は正月の喧騒が嘘のように人影はまばらだった。お詣りを済ませてお守りを買い終わった頃には、清々しい気分になった。
「先輩は何をお願いしたんですか?やっぱり受験のこととか?」
「それもあるけど、七海と一緒にいられますように、と祈ってた。」
梅枝さんから七海に呼び方が代わっていて、しかも勉強で忙しいはずなのに、驚いたというよりも飽きれてしまった。
「何それ、わたしは前から言ってるように、そんな気はないですから。」と言うと、私の肩に手を掛けて引き寄せられた。その手から逃れようとしたが、彼の力は思ったよりも強く、そのまま肩を抱かれて歩くしかなかった。
「先輩、何するの?嫌だ!離してください。」と抵抗するも虚しく、引きずられるようにして、神社の裏に連れて行かれた。先輩のというより、男の力の強さには敵わないと怖くなった。何とかこの場を逃れたいと思っていると、彼の顔が私の目の前に近付いてきた。私は空かさず彼の胸を突き、一目散に駆け出した。追っ駆けられたら敵わないと思い、必死で駅前まで走った。自分の甘さに飽きれ、自己嫌悪に陥っていた。千宙君の顔が見たいと、自分勝手に思っていた。
電車を降りて、七海は千宙の家に向かっていた。「会いたい。家にいて。」と願いながら、自転車をこいでいた。
「ごめん下さい。千宙君はいますか?」と玄関のインターホンに語り掛けると、「あれ?七海、どうしたの?」と千宙君が出て来た。
「あのね、初詣に行った帰りなの。お守りを渡したくて、ついでに寄ってみたの。」
私は電車の中で考えた口実を、彼を前にして口走っていた。
「それなら、学校が始まってからでも良くない?家に上がる?」
彼の優しい笑顔を見て、心が落ち着いた。家に上がるのは遠慮したけれど、ずっと話していたかった。先輩との事は、変に誤解されても嫌だったので話さなかった。私の勝手な行動で、また彼を傷付ける所だった。本当は正直に話して謝るべきだったが、それができない自分が情けなかった。前みたいに嫉妬されて、気まずくなるのも嫌だった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
やくびょう神とおせっかい天使
倉希あさし
青春
一希児雄(はじめきじお)名義で執筆。疫病神と呼ばれた少女・神崎りこは、誰も不幸に見舞われないよう独り寂しく過ごしていた。ある日、同じクラスの少女・明星アイリがりこに話しかけてきた。アイリに不幸が訪れないよう避け続けるりこだったが…。
【完結】カワイイ子猫のつくり方
龍野ゆうき
青春
子猫を助けようとして樹から落下。それだけでも災難なのに、あれ?気が付いたら私…猫になってる!?そんな自分(猫)に手を差し伸べてくれたのは天敵のアイツだった。
無愛想毒舌眼鏡男と獣化主人公の間に生まれる恋?ちょっぴりファンタジーなラブコメ。

🍞 ブレッド 🍞 ~ニューヨークとフィレンツェを舞台にした語学留学生と女性薬剤師の物語~
光り輝く未来
青春
人生とは不思議なことの連続です。ニューヨークに語学留学している日本人の青年がフィレンツェで美しい薬剤師に出会うなんて。しかも、それがパンの歴史につながっているなんて。本当に不思議としか言いようがありません。
でも、もしかしたら、二人を引き合わせたのは古のメソポタミアの若い女性かもしれません。彼女が野生の麦の穂を手に取らなければ、青年と薬剤師が出会うことはなかったかもしれないからです。
✧ ✧
古のメソポタミアとエジプト、
中世のフィレンツェ、
現代のフィレンツェとニューヨーク、
すべての糸が繋がりながらエピローグへと向かっていきます。
タカラジェンヌへの軌跡
赤井ちひろ
青春
私立桜城下高校に通う高校一年生、南條さくら
夢はでっかく宝塚!
中学時代は演劇コンクールで助演女優賞もとるほどの力を持っている。
でも彼女には決定的な欠陥が
受験期間高校三年までの残ります三年。必死にレッスンに励むさくらに運命の女神は微笑むのか。
限られた時間の中で夢を追う少女たちを書いた青春小説。
脇を囲む教師たちと高校生の物語。
燦歌を乗せて
河島アドミ
青春
「燦歌彩月第六作――」その先の言葉は夜に消える。
久慈家の名家である天才画家・久慈色助は大学にも通わず怠惰な毎日をダラダラと過ごす。ある日、久慈家を勘当されホームレス生活がスタートすると、心を奪われる被写体・田中ゆかりに出会う。
第六作を描く。そう心に誓った色助は、己の未熟とホームレス生活を満喫しながら作品へ向き合っていく。
恋とは落ちるもの。
藍沢咲良
青春
恋なんて、他人事だった。
毎日平和に過ごして、部活に打ち込められればそれで良かった。
なのに。
恋なんて、どうしたらいいのかわからない。
⭐︎素敵な表紙をポリン先生が描いてくださいました。ポリン先生の作品はこちら↓
https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911
https://www.comico.jp/challenge/comic/33031
この作品は小説家になろう、エブリスタでも連載しています。
※エブリスタにてスター特典で優輝side「電車の君」、春樹side「春樹も恋に落ちる」を公開しております。
神絵師、青春を履修する
exa
青春
「はやく二次元に帰りたい」
そうぼやく上江史郎は、高校生でありながらイラストを描いてお金をもらっている絵師だ。二次元でそこそこの評価を得ている彼は過去のトラウマからクラスどころか学校の誰ともかかわらずに日々を過ごしていた。
そんなある日、クラスメイトのお気楽ギャル猿渡楓花が急接近し、史郎の平穏な隠れ絵師生活は一転する。
二次元に引きこもりたい高校生絵師と押しの強い女子高生の青春ラブコメディ!
小説家になろうにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる