すれ違う恋の行方〈中学編〉

秋 夕紀

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第1章 梅枝七海(14歳)=立松千宙(14歳)

§13 衝撃的な林間学校

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 青葉中学校の2年生は、1泊2日の林間学校が10月の恒例行事となっている。中間試験を終えて1週間後、八ヶ岳にある少年自然の家に泊まる事になっていた。初日は野外炊飯とキャンプファイヤーが主で、2日目は森の中のオリエンテーリングが予定されていた。
「千宙君と同じ班になれて良かった」と私が言うと、「俺もだよ!楽しみだね」と千宙君が野菜を洗いながら答えた。私たちは炊事係として、食事の準備をしていた。 
夕食のカレーライスを班ごとに食べ、キャンプファイヤーまでは自由時間になる。私は初絵たち4人と、千宙君のいる男子の部屋を訪ねていた。部屋には男子3人だけがいて、突然の女子の訪問に興奮していた。
「しーっ!あんまり騒ぐと、先生に見つかるよ。」と誰かが言うと、皆で小声で話しながらトランプをした。普段は男子とは一線を画している女子も、こういう時は別で、女の子アピールを全開にしていた。しばらく7人で遊んでいたが、初絵が「ちょっと」と言って、部屋を出て行った。七海はどこへ行ったのか気になったが、千宙たちと遊ぶ事を優先した。
「あっ!先生が見廻りしてる。やばい!」と男子の誰かが言うと、女子たちはあわてて備え付けの二段ベッドの布団の中に隠れようとした。それにつられるように男子たちも一斉に動き出し、女子の布団の中に男子が入り込む形になった。
「七海、俺だから安心して!布団が膨らんでると見つかるから、潜ったまま俺にしがみ付いていろ!」という指示に従って、私は布団の中で体を密着させていた。千宙君と同じ布団の中で、私は彼の体にしがみ付いていた。彼の胸に顔を埋めたまま、緊張して動く事ができなかった。男の子の体の温かさを肌で感じ、ずっとこうしていたいという気持ちになっていた。しばらくして、それがデマだと分かり、皆は布団からはい出して来た。皆の動く気配を感じながら、私たちが布団から出たのは最後だった。周りを確認すると、ちょうど男女二人になっており、後になって男子の仕組んだ事だと分かった。

 キャンプファイヤーの場所は自由で、七海と千宙は隣り合わせに坐って、
「明日のオリエンテーリングは、一緒に廻ろうね!」という約束を交わしていた。さっき男子の部屋で、一緒の布団に潜り込んでいた4人はカップルになっていた。千宙君と会話をしながら、私は初絵の姿が見えない事が気になっていた。辺りを見廻したが見つからず、男子の部屋を出てからどうしたのか心配だった。その内にフォークダンスが始まり、彼と手に手を取って参加した。ずっとこのまま踊っていたかったが、次々にペアが代わり、彼は遥か遠くに行ってしまった。
 キャンプファイヤーが終わり、部屋に向かう途中で初絵が現れた。
「どこへ行ってたの?心配したんだよ。」と問い掛けると、
「ちょっとね、後で話すよ。」と初絵は忙しない様子で答えていた。
 部屋に戻り、室長から明日の注意が伝えられ、皆は寝る準備を整えた。そのまま大人しくベッドに入る者はなく、部屋の真ん中でおしゃべりが始まった。いつものメンバーに女子二人が加わり、いつしか恋バナになっていた。
「それで、初絵はどこにいたの?」と私が訊くと、
「黒岩君と一緒に、林の中にいた!」という初絵の返事に、一同は騒めいた。
「何それ?何してたの?」と一人が言うと、皆は真剣に聞く姿勢になった。
「黒岩君が夕食の時に誘ってきて、それで男子の部屋を出て行ったの。それから林の方へお散歩して、段々と暗くなってきて、黒岩君は道が分からなくなったと言ったの。心細くて、あの子の腕にしがみ付いていたら、いきなりキス…」
「えー?キスしたの?それから?」と別の子が声を潜めて、さらに訊いた。
「それで、キャンプファイヤーには行かないことに決めて、木蔭に座って…。でもね、驚いたことに、私たち以外にも同じことしてる人たちがいたの。」
 私は初絵の行動力に驚いて、口をポカンと開けていた。交際し始めたと聞いたのが夏休み明けだから、まだ2カ月しか経っていない。それでもうキスしたと、平然と言う彼女には唖然とした。しかも相手は、私が注意した黒岩君だ。

 翌日のオリエンテーリングで、七海は千宙に昨夜の初絵の事を興奮気味に話した。「二人のことだから、これ以上口をはさんでも仕方ないよ」と彼は冷静に対応していた。七海は彼の態度に不満だったが、それも一理あると思い口をつぐんだ。
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