初めての物語【Ｂ面】～First Story～

第16章 初めての道

２ 新たな道のり

　卒業式が終わり、クラスの打ち上げが計画されていた。カラオケのパーティールームを借りて、男女合わせて20名ぐらいが参加した。茜は家族がお祝いをしてくれるという理由で欠席した。卒業式が終わって、「また会おうね」と、私達は別れを惜しんだ。
　真斗と茜は家から通えるという条件で、同じ大学に合格し入学を決めた。茜の導きもあり、真斗は心を入れ替えて勉強に励んだという。男子高校生にありがちな道の外れ方をした真斗であるが、元に戻れたのは茜の御蔭おかげであった。

　打ち上げで、教室の中ではあまり交流のなかった人達が、話で盛り上がっていた。早くも同窓会といった雰囲気で、その場でLINEを交換している人達もいた。その中の一人の男子が、
「うちのクラスの中で、桐野が一番変わったな。」と皆に同意を求めた。
「俺もそう思うよ。大人しくて、男子とは一切関わらなかったのに。」愛海は、
「そんな事ないよ。私は私で、中身は何も変わってないよ。」と誤魔化ごまかした。
～愛海～本当は真斗の御蔭だよ。みんな知っているくせに、嫌だな。厭いやらしい
　　　言い方をしたら、男を知ったからだよ。大きい声で言ってやろうか。

　しばらくして仲の良い白田美樹と河村七瀬が、愛海に近付いて来て、
「向こうで、栗山君が呼んでいるよ。話があるらしい。」と言ってきた。栗山佑真ゆうまは我がクラスの秀才と謳うたわれ、一流大学に合格している。会話した事もない、そんな栗山が何で呼んだのか、不思議に思いながら、愛海は席を移動した。
「桐野さん、東京の大学に行くんでしょ。僕も東京だから、落ち着いたら向こうで会ってくれない？」随分遠回しな言い方だが、愛海は誠実さを覚えていた。
「桐野さんはもう工藤とは付き合っていないんだろ。だったら、僕と付き合ってほしい。」栗山の突然の告白に、愛海は困ってしまった。
　もしも真斗ではなく、栗山と付き合っていたらどうだったのだろう、という思いが愛海の頭を掠かすめた。栗山の事はよく知らないが、真斗とは違って、誠実であり堅実さを感じる。栗山との間には、恋愛関係ができただろうか。
「ありがとう、栗山君。今は返事できないけど、また連絡するよ。」と言って、愛海はアドレスを交換した。

～愛海～人間関係に臆病で、消極的な私が変われたのは、真斗との恋愛にあった。
　　　初めてのデート、手を繋いだ時、そして初キスを経験した。そこで人を好き
　　　になる事、異性を恋する事を知った。キスの段階を踏んで行く中で感じたも
　　　どかしさは、異性を愛する事の準備段階に過ぎない。初体験の時の怖さは、
　　　愛する人の手で和やわらぎ、期待と喜びに変わった。その時めきは、一生忘れな
　　　いだろう。初めては二度とない体験であり、今までの初めてに悔いはない。