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第4章 梅枝七海(17歳)=白石冬馬(17歳)
§4 初めてのキス
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12月になって、七海は文芸誌の原稿を書き上げた。初稿を誰かに読んでもらいたいと思い、花織が真っ先に候補に挙がったが、さすがにそれはできないないと判断した。しかも、花織とは2学期になってから、以前のようにあまり話をしなくなっていた。次に候補に挙げたのは冬馬だが、小説とは無関係な世界に生きている事は分かっていた。最後に浮かんだのが、夏休み以来メールのやり取りをしている紺野来人だった。近々帰郷すると言っており、都合が合えば会ってお願いしてみようと思った。
期末テストが終わった土曜日、七海は来人の運転する車で浜名湖に向かっていた。父親の車を借りるので、一緒にドライブに行かないかとメールが来ていた。七海は二人きりで車に乗って出掛ける事に迷っていたが、真面目そうな彼を信頼していた。親には、まさか男子大学生とドライブに行くとは言えず、友達と静岡の街に出掛けると嘘を付いて出掛けた。
車の中でお互いの近況を報告し合い、会話を楽しんみながら浜松西インターを出た。この頃には助手席に座る七海の緊張も大分解け、冗談も気軽に交わせるようになっていた。昼は鰻を食べようと、鰻の文字の大きな看板の店に入った。そこで七海は、読んでもらいたい小説のコピーを手渡した。来人は鰻が焼き上がるまでの間、ページをめくっていたが、特に感想は述べなかった。コメントが欲しかった七海だが、全部を読み切れる訳でもないと心得ていた。
「この後は、浜名湖大橋を渡って、舘山寺温泉にでも行こうか?」
「温泉ですか?わたし、温泉に入る支度はしてないですけど…。」
「温泉に入りたいの?舘山寺温泉は地名で、観光地なんだよ。七海ちゃんのそういう天然さが可愛くて、好きだな!」と言われ、私は恥ずかしくて湖に潜ってしまいたい気分だった。
浜名湖大橋から見る湖は絶景で、まるで海の上を走っているようだと、七海は感動していた。大橋を渡り終え、近くにあるガーデンパークに立ち寄ったが、12月のこの時期に花は咲いておらず、お茶を飲んで展望台からの景色を眺めた。彼の完璧なエスコートで、七海は大人の女性になった気がして、しかも恋人気分を満喫していた。舘山寺の浜辺に下り立った時には、日は西に傾きかけていて、この地区特有の遠州の空っ風が吹き荒んでいた。七海はダッフルコートを着ていたが、冷たい風に耐えられず襟をつかんで震えていた。すると、来人が自分のグランドコートで七海を包み込み、両手を胸の辺りに回して抱き寄せた。七海は身動きが出来ず、そのまま彼の体の温かさに身を預けていた。
「寒いけど、もう少しこうしていていい?」と彼が私の頭の上でささやいた。私は頭の中が空っぽになり、軽くうなずき、幸せな気分を味わっていた。
「七海ちゃん、こっち向いて!」と言われて顔を上げた瞬間に、彼の唇が私の唇をとらえた。初めてのキスは突然で、ためらう間もなく、そのまま固まっていた。寒さだけでなく緊張で震えていた私の唇は、彼のキスで温められ、やっとキスをしているという感覚が生まれた。唇の震えに替わり、脚ががくがくしてきて立っていられなくなり、彼に思い切り体を預けていた。
「震えているよ!寒いの?ごめんね、車に行こうか!」と促され、彼に支えられて車に戻った。彼が買って来てくれた温かい飲み物を口にし、落ち着きを取り戻した私は、今起こった事を改めて考えていた。
期末テストが終わった土曜日、七海は来人の運転する車で浜名湖に向かっていた。父親の車を借りるので、一緒にドライブに行かないかとメールが来ていた。七海は二人きりで車に乗って出掛ける事に迷っていたが、真面目そうな彼を信頼していた。親には、まさか男子大学生とドライブに行くとは言えず、友達と静岡の街に出掛けると嘘を付いて出掛けた。
車の中でお互いの近況を報告し合い、会話を楽しんみながら浜松西インターを出た。この頃には助手席に座る七海の緊張も大分解け、冗談も気軽に交わせるようになっていた。昼は鰻を食べようと、鰻の文字の大きな看板の店に入った。そこで七海は、読んでもらいたい小説のコピーを手渡した。来人は鰻が焼き上がるまでの間、ページをめくっていたが、特に感想は述べなかった。コメントが欲しかった七海だが、全部を読み切れる訳でもないと心得ていた。
「この後は、浜名湖大橋を渡って、舘山寺温泉にでも行こうか?」
「温泉ですか?わたし、温泉に入る支度はしてないですけど…。」
「温泉に入りたいの?舘山寺温泉は地名で、観光地なんだよ。七海ちゃんのそういう天然さが可愛くて、好きだな!」と言われ、私は恥ずかしくて湖に潜ってしまいたい気分だった。
浜名湖大橋から見る湖は絶景で、まるで海の上を走っているようだと、七海は感動していた。大橋を渡り終え、近くにあるガーデンパークに立ち寄ったが、12月のこの時期に花は咲いておらず、お茶を飲んで展望台からの景色を眺めた。彼の完璧なエスコートで、七海は大人の女性になった気がして、しかも恋人気分を満喫していた。舘山寺の浜辺に下り立った時には、日は西に傾きかけていて、この地区特有の遠州の空っ風が吹き荒んでいた。七海はダッフルコートを着ていたが、冷たい風に耐えられず襟をつかんで震えていた。すると、来人が自分のグランドコートで七海を包み込み、両手を胸の辺りに回して抱き寄せた。七海は身動きが出来ず、そのまま彼の体の温かさに身を預けていた。
「寒いけど、もう少しこうしていていい?」と彼が私の頭の上でささやいた。私は頭の中が空っぽになり、軽くうなずき、幸せな気分を味わっていた。
「七海ちゃん、こっち向いて!」と言われて顔を上げた瞬間に、彼の唇が私の唇をとらえた。初めてのキスは突然で、ためらう間もなく、そのまま固まっていた。寒さだけでなく緊張で震えていた私の唇は、彼のキスで温められ、やっとキスをしているという感覚が生まれた。唇の震えに替わり、脚ががくがくしてきて立っていられなくなり、彼に思い切り体を預けていた。
「震えているよ!寒いの?ごめんね、車に行こうか!」と促され、彼に支えられて車に戻った。彼が買って来てくれた温かい飲み物を口にし、落ち着きを取り戻した私は、今起こった事を改めて考えていた。
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