初めての物語~First Story~

秋 夕紀

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第十七章 もうひとつの初めて(番外編)

3 正直な気持ち

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 卒業式の日、茜はクラスでの打ち上げを断って、家族と真斗の4人でお祝いをする事を計画していた。両親には、大学に合格できたのは、一緒に勉強してくれた真斗の御蔭おかげだ。そして、お礼をしたいから卒業式の夜に、食事に招待したいと言った。茜の父親は喜んで、一人娘のために横浜のホテルのディナーを予約した。真斗の家には、母親が断りを入れてくれたので、簡単に彼を誘い出す事に成功した。さらに真斗には、食事が終わったら、友達の所に行くと言って帰るふりをするように伝授した。私達家族は部屋を別にしてホテルに泊まる予定だから、あとで落ち合おうという計画であった。
「茜はすごいな。親に嘘ついて、怖いよ。」と真斗が茜に言うと、
「何が怖いの?じゃあ、私と一緒に過ごせなくていいの?」と逆襲された。

 当日の夜、横浜へは父親の運転する車で出掛けた。真斗は緊張気味で、周りの様子をうかがいながら食事をしていた。茜は、両親に話を合わせながら、真斗を気遣きづかう事も忘れていなかった。デザートを食べ終わり、真斗は計画通りにお礼を言って帰った。茜とは、近くの山下公園で待ち合わせていた。
 両親は部屋に引き上げたが、茜はコンビニに行って来ると言って外に出た。その足で山下公園に行き、真斗と合流して、氷川ひかわ丸の前のベンチに腰掛けた。
「待たせてごめんね。食事はどうだった?」と茜が問い掛けた。
「美味しかった。初めての食べ物ばかりだった。ご馳走ちそう様でした。」
「いいよ、そんなにかしこまらなくて。緊張していたみたいだけど、大丈夫?これから私をいただくんでしょ?」茜は真っ赤な顔をして、冗談とも取れない事を言ってしまい後悔していた。真斗も同じように赤面し、違う意味で緊張していた。  
 茜が真斗の肩に頭を乗せると、真斗は優しく肩を抱き寄せて唇を重ねた。港の夜はまだ肌寒く、夜景を見ながらしばらく抱き合っていた。
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