上 下
42 / 45
第十七章 もうひとつの初めて(番外編)

2 誤解のいきさつ

しおりを挟む
 2学期の期末テストの午後、いつものように二人は茜の家で勉強していた。この日は茜の家族は出掛けていて、家には二人だけだった。一通り勉強が済んで、紅茶を飲みながら休んでいたが、茜が真斗に話し掛けた。
「真ちゃんのことあきらめようと思った事もあったけど、信じて良かった。」
「どういうこと?諦めるとか、信じるとか。」茜は真剣な顔で、語り出した。
「私、ずっと前から真ちゃんが好きだった。中3の時かな、真ちゃんの家でその事に気が付いた。でも、真ちゃんは幼馴染としてしか見てなかったでしょ。」真斗は茜の話を聞いて、思い出していた。中3の時にふざけて茜にキスした事を。それは自分も、あの時から茜を好きだったと。
「俺はよく分からなかった。自分の気持も、茜の気持も。前に言われたけど、俺は女の子の気持ちに鈍感みたいだね。」
「それでね、高1が終わる時に確かめてみたの。覚えている?私が先輩から告白されたと相談した時の事を。そしたら真ちゃんは良かったねと言ったんだよ。」
「覚えているよ。あの時は何だか分からないけど、茜が腹立たしかった。今考えると、茜のことが好きだったから口惜くやしかったのかもしれない。」真斗は正直に、胸の内を明かした。茜は彼の言葉を聞いて、ほおを赤くした。
「口惜しかったの?それならそうと言ってくれれば、良かったじゃない。その時、真ちゃんは私の事を何とも思ってないと思って諦めたの。それで、真ちゃんの好きな女子を聞いて、愛海を紹介したの。」茜はうつむいていた。
「そうだったのか。愛海のことは好きというよりも、あの時茜に言われて付き合ってみようかなと思った。でも、段々と好きになっていったのは本当だよ。茜に対する反抗なのかな、やっぱり口惜しかったんだ。」
 
 そこまで話して、二人は沈黙していた。茜の告白によって、誤解がすれ違いを招いた事をいていた。茜はこの先の展開を考えていなかった。真斗もまた、どうしたら良いのか分からなかった。沈黙を破るように茜は言った。
「真ちゃん、私のこと今でも好き?」真斗は茜の質問には答えずに、
「茜は先輩と付き合って、彼のことを好きだったの?」と逆に質問した。
「好きになったよ。そうでなければ、キスなんてしない。それとキス以上の関係でもあったよ。でも、最後まではしてないし、今は何とも思っていない。」
「俺が愛海と付き合っていた事は、平気なの?」と言われて、茜は言葉を選んで言った。
「愛海と恋人関係になった事は知っているし、それはお互い様というか…私は気にしていない。他の女の子の事は許せないけど、今の真ちゃんを信じたい。」
 二人はそれ程遠くはない過去を清算し、今の気持ちを大事にして行く事で合意していた。茜は思い切って、彼に行動を求めた。
「目をつぶるから、好きだったらキスして。でなかったら、引っぱたいていいよ。」茜を引っ叩く理由はなかったので、真斗は彼女のあごを引き寄せ口づけた。
「茜とキスしたのは2度目だよ。」真斗は中3の時の事を、今、明らかにした。
「やっぱりあの時、キスしたんだよね。はっきり言えばよかったのに。」
それは、ようやく二人のきずなが強まった瞬間だった。

 しばらくして茜はたかぶる気持ちを抑え、真斗を見据みすえて言った。
「よしここまで!後は大学合格までお預けだよ。勉強しよう。」真斗はまだ興奮冷めやらずにいたが、茜の言葉に目が覚めた。
「お預け?どういう事?この先は、我慢するってことか?」
「その通り。我慢できたら、真ちゃんを男として本当に信じるよ。」茜の言葉は有無を言わせぬ力強さがあった。真斗は茜にはかなわないと思い、それに従った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

コンプレックス

悠生ゆう
恋愛
創作百合。 新入社員・野崎満月23歳の指導担当となった先輩は、無口で不愛想な矢沢陽20歳だった。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...