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第六章 初めてのためらい

3 ためらいの心

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 家に着いて部屋に入ると、真斗からメールが届いていた。
〈家に着いたかな。今日は変な事して、驚かせてごめんね〉謝る真斗が気の毒なような気がして、
〈またいつかね‼その時までお預けだよ〉と少しお道化たメールを返した。
 一人になって、ベッドに横になりながら、今日の出来事を振り返った。雨の中で抱き締められ、その後藤森君の家のホテルの部屋へ。大きなダブルベッドで真斗と抱き合い、その先へ進もうとする真斗を説得して拒んだ。
 そして、梨沙と藤森君の態度には、何か納得できないものがある。まさか、皆で仕組んで、私と真斗との関係を進めさせようとしたのか。ということは、真斗が藤森君に頼んで今日の状況を作り上げ、事を進めようとしたのか。頭の中が取り留めなく、考えが巡り巡っている。いや、真斗に限ってそんな事をするはずもなく、私の取り越し苦労に違いない。真斗を信じる事にした。

 恋愛が進めば、相手への欲求が増していく。真斗が今日してきた事は、高校生の男の子として普通なのかもしれない。私だって、真斗との初めてのキス以来、女の子としての欲求が強まっている。初めて抱き締められてときめいたし、公園での深いキスに自分では理解できない感覚が呼び覚まされた。
 でも、成り行きに任せて進んでいくのは嫌だ。男の子がただ欲求を満たそうとするのと、女の子のそれは違うような気がする。真斗の気持ちに応える事も大切だと思うが、今の私には、それがいつになるかは決断できないでいる。まだ知らなくてもいい事、本当に必要な事なのかどうかも疑問である。そんな事を考えながら、いつの間にか眠っていた。

 次の日、雨上がりの清々すがすがしい青空だった。私の気持ちは雨が降ったままで、足取りも重く、授業にも気乗りがしなかった。学校に着くと、
「愛海、元気ないね。真斗と何かあった?」茜の鋭い感には驚かされた。話しあぐねていると、「じゃあ、放課後ね」と気遣ってくれた。
 放課後、部活動に行き、1年の仲尾梨沙の姿を探すが、今日は欠席しているらしい。私は、パート練習にも集中できずに何回も間違えた。部活が終わって、茜が近付いてきて、
「どう?少しは元気になった?」という言葉に甘えて、昨日の出来事について話をした。
 真斗に誘われて、藤森君の家であるホテルの部屋に行き、そこで仲尾梨沙と会った事、誕生日を祝った事などを肝心な所は曖昧あいまいにしながら語った。
「それだけではないでしょ!真斗が、何か変な事してきたんでしょ。」と茜は、その場にいたかのように語気を強めた。
「しかも、学校の帰りで制服でしょ。愛海の気持ちも考えずにそんな所に連れ込んで。」連れ込まれた訳ではないけど、私も軽率だったと反省していた。
「とにかく真斗がエッチなことしてきたら言ってね。らしめてやるからさ。」
「うんありがとう。私も真斗がどうしたいのかよく解からなくて。一緒にいるのは楽しいけど、最近真斗の強引さに圧倒されて怖い事がある。」
「女の子を大切に扱うことも教えて上げないといけないな。」茜は真斗に対して、保護者のような態度を見せる。茜に話を聞いてもらって、私はすっきりとした。

 真斗とは気まずい別れ方をしてから、しばらく会わなかった。2週間ぐらい経って、このままではいけないと思い、私からラインを送って会う事になった。いつもの公園で、真斗は遠慮しているようだったので、
「この間の事を気にしているの?私は全然気にしてないよ。真斗のこと好きだし、こうしているのも好きだよ。」と照れながら告白した。そして、遅ればせながら、誕生日のプレゼントのミサンガを渡した。真斗はお礼を言ってから、
「この間は、愛海の気持ちを考えていなかった。状況が整い過ぎて、ついあんな事をしてしまったけど、愛海に嫌な思いをさせた。俺も大好きだよ。」と言い終わると、真斗はキスを求めてきた。私はそれに応えて唇を重ねた。
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