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第二章 初めてのデート

3 あいたい

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 5月の連休も明け、久し振りの学校だ。今日はあいにく雨が降っていて肌寒いが、心は何となく温かい。いつものように坂道を歩いていると、自転車に乗った真斗が後ろから声を掛けてきた。
「おはよう、愛海。」自転車から降りて私の横に来た。
「おはよう、真斗。今日からまた学校だね。」と初めて真斗と呼んでみたが、照れ臭くて仕方がなかった。
「おー、真斗と呼んでくれた。嬉しいな。デート、楽しかったよ。愛海にずっと会いたかった。」真斗は朝から驚くような事を言っていたが、昇降口で別れた。私だって、真斗に会いたい気持ちは変わらないけれど、口に出しては言えなかった。朝会えたから、それだけで満足だった。
 昼休みに教室のベランダで、茜に連休中のことを話した。連休前半は部活動で一緒だったので、真斗とデートする事は報告してあった。
「で、どうだった?真斗とのデートは。」と茜に訊かれ、映画に行ってゲーセンに行ってファミレスで食事をして帰ったと答えた。
「それだけなの?」と言う茜に、「手は繋いだよ」とだけ言っておいた。
 6月の定期演奏会に向けて、放課後、土日と忙しく、真斗と会える日はあまりなかった。週に1回会えるかどうかで、会った日も帰り道を共にするのが精いっぱいだった。連休にデートをしてから、1ヵ月になろうとしていた。

 定期演奏会の日、真斗はテニスの試合で来られなかった。演奏する姿を見てほしかったのに、残念で寂しかった。そんな私を見て茜が、
「真斗が来られなくて、寂しいんでしょう。愛海のために、ちょっとでも顔を出せばいいのにね。」となぐめてくれた。
「仕方ないよ。でも、茜はいいな、いつも部長と一緒で。うらやましい。」
「部長とは何にも進展なしだよ。なかなか二人だけで会う機会がなくて、部活が終わった後に部室で話すぐらい。デートだってした事ないんだよ。」と不満を言う茜に比べて、私はまだましなのかなと思った。
 そのあとすぐに文化祭が控えていて、ますます忙しかった。学校で真斗をちらっと見掛けるくらいで、帰り道デートも途絶えていた。
 文化祭には、真斗もステージを見に来てくれていた。と言っても、ステージからはどこにいるのかは確認できなかった。演奏は午前、午後の2回あり、吹奏楽部の宿命みたいなものだが、他の展示を見たり、クラスの模擬店に参加したりする事はできなかった。他のカップルのように、真斗と一緒に楽しめないのはつまらなかった。遠くからだったが、真斗が友達と一緒に、2、3人の女の子たちと仲良さそうにしているのを見掛けた。けるというのとは違うが、何となく嫌な気分にさせられた。

 文化祭が終わった後の代休の日に、真斗の部活が終わってから久し振りにデートをした。その時に、
「愛海のフルート良かった。」と感想を言ってくれたが、ソロがあるわけでもなく、本当に分かっているのか心配になった。その日は駅前のカラオケに行き、時間を延長して3時間をその店で過ごした。
 カラオケ店を出て、手を繋いで歩いていると、後ろから呼び止められた。
「真斗!」「桐野先輩!」同時に男女二人の声だった。あわてて繋いでいた手を離して振り向くと、背の高い男子と吹奏楽部の後輩仲尾梨沙りさだった。
「初めまして、真斗の友人の藤森ごうです。この子は梨沙、知っているよね。」見掛けよりも礼儀正しいが、やけに馴れ馴れしく私を見てくる。
「えーと、こっちは1年の時に同じクラスだった桐野愛海さん。」真斗はちらっと私の方を見てから、梨沙の方へ視線を移した。
「先輩、今日はカラオケデートですか?」梨沙が私に向かって訊いてきた。
「まあそんな所かな。梨沙ちゃんはどうしたの?」
「見てのとおりです。」と藤森君の腕を取った。
「じゃあ俺たちあっちだから。まだまだ時間はあるから、デート楽しんでね。また一緒に遊ぼう。」「先輩、失礼します。」と言って、二人は駅とは反対の方向に向かって行った。
 真斗の友人藤森剛は、同じクラスになった事はないが、確か陸上部で、中学の頃から女子との噂が絶えず、あまりいい印象は持っていなかった。
 真斗と私は、狐につままれたように呆然ぼうぜんとしながら、無言で駅へと向かった。
「あの二人は付き合っているのかな。」私から独り言のように話し掛けると、
「そうみたいだよ。」と真斗がぽつりと言った。
「どこへ行ったのかしら。もう夕方なのに。」
「藤森の家かな。あっちの方だから。そんなに気になるの?」という言葉を最後に、会話が途絶えた。別れ際に、
「夏休みにはもっと一緒に遊ぼうね。」と言ってくれたのが嬉しかった。近くまで送って行こうかというのを断って、駅前で手を振って別れた。
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