上 下
39 / 41
最終章 立松千宙(21歳)=梅枝七海(21歳)

§2急速な接近

しおりを挟む
 千宙はサッカー部、七海は陸上部を任され、放課後は部活指導に明け暮れた。1週間が過ぎ、千宙は土日も部活動の練習試合に駆り出されて休む暇はなかった。来週からは授業を受け持つ事になっており、七海は寮に帰って教材研究に没頭した。
「立松先生、日焼けして真っ黒ですね!昔の千宙君みたいで懐かしいな!」
「梅枝先生は、お勉強してたの?自信満々の顔をしてるよ!」
 2週目に入って余裕ができ、俺たちは昔のように冗談を言い合うようになっていたが、心にはいくつかのわだかまりがあり、真から打ち解けてはいなかった。

 二人の心は急速に再接近したものの、間に立ちふさがる壁を取り除くためには、いつか正面を向いて話し合う必要があると感じていた。週末になって七海は元気がなく、千宙はそれに気付いて話し掛けた。
「どうしたの、何か悩んでいるの?良かったら話を聞くよ!」
「うん、ありがとう。でもここでは、ちょっと話しづらいかも!」と彼女は、他の実習生の目を気にしていた。俺についての事なのか、彼らに関係する事なのかは分からなかったが、頼りたい気持ちが伝わってきた。皆にばれないようにそっと、
「相談に乗るから、俺の家においで。連絡すれば、母が夕食ぐらいは準備するよ!」とメモを渡すと、「えー?千宙の家に?どうしよう!行っても良いのかな?」と珍しくいじいじと思い悩んでいる彼女が、可愛らしかった。

 千宙は思いあぐねている七海を強引に誘い、家に向かった。歩いて帰る道すがら、姉の萌香もえかが結婚した事、父は単身赴任で留守な事、母は千宙が家を出てから独り暮らしでいる事など、家の事情を話して聞かせた。七海は話しを聞きながら、見覚えのある景色を眺めて、自分自身を中学時代にタイムスリップさせていた。
「あらまあ、七海ちゃん?千宙から実習で一緒だと聞いて、ぜひ家に連れて来て、と言っていたの。だって、中学の時のガールフレンドに会えるなんて、奇跡よ!」
 母の遠慮のない言葉に、彼女ははにかんでいたが、顔が引きつっていたのが知れた。俺は間に入って取りつくろい、3人で食卓を囲んだ。食事が済んだ所で、彼女を自分の部屋に連れて行った。
「わあ、千宙の部屋だ!あの時とあまり変わってない!どうしよう、懐かし過ぎて頭が付いて行けない。こうして千宙といるのが自然で、当たり前に思えてくる。」
「俺も、何か変な気持だ!七海が俺の部屋にいるなんて、不思議な気がするよ。」
 しばらく思い出話をしていたが、七海の悩みを訊く事にした。
「わたしが担任しているクラスの男子なんだけど、早熟というのかませているというのか、エッチな質問を平気でしてくるの!」
「そういう年頃だからね。でも、思うのは仕方ないけど、口に出すのは駄目だな!」
「話しにくいけど、キスした事があるかとか、エッチはとか聞くの。それだけなら聞き流すんだけど、わたしと千宙が中学の時に付き合ってたのを知っていて…。」
「ちょっと待って!その子の名前は?1年生だよね。」と俺は思い当たる節があり、訊き返した。案の定、サッカー部の生徒で、その子は俺にもしつこく訊いていた。
「田村だよ!あいつが俺たちの事を、面白おかしく吹聴ふいちょうしたんだと思う。明日部活があるから、その子にはよく言っておくよ。来週には、田村を取っちめてやる!」
 七海は恐縮そうにしていたが、俺にも関わる事だと思って意気込んでいた。

 部屋で話し込んでいると千宙の母が飲み物を持って来て、「七海ちゃん、泊まっていっても良いわよ!」と出し抜けに言ってきた。二人は顔を見合わせて、首を振って笑っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編10が完結しました!(2024.6.21)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

氷萌
恋愛
彼との未来を本気で考えていた――― ブライダルプランナーとして日々仕事に追われていた“棗 瑠歌”は、2年という年月を共に過ごしてきた相手“鷹松 凪”から、ある日突然フラれてしまう。 それは同棲の話が出ていた矢先だった。 凪が傍にいて当たり前の生活になっていた結果、結婚の機を完全に逃してしまい更に彼は、同じ職場の年下と付き合った事を知りショックと動揺が大きくなった。 ヤケ酒に1人酔い潰れていたところ、偶然居合わせた上司で支配人“桐葉李月”に介抱されるのだが。 実は彼、厄介な事に大の女嫌いで―― 元彼を忘れたいアラサー女と、女嫌いを克服したい35歳の拗らせ男が織りなす、恋か戦いの物語―――――――

初恋の呪縛

泉南佳那
恋愛
久保朱利(くぼ あかり)27歳 アパレルメーカーのプランナー × 都築 匡(つづき きょう)27歳 デザイナー ふたりは同じ専門学校の出身。 現在も同じアパレルメーカーで働いている。 朱利と都築は男女を超えた親友同士。 回りだけでなく、本人たちもそう思っていた。 いや、思いこもうとしていた。 互いに本心を隠して。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...