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第10章 梅枝七海(20歳)=大田黒駿(22歳)
§3誕生日のキス
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江の島にドライブに行ってから3か月後の9月、駿から久し振りの誘いがあった。七海は彼の試験の結果が気になってはいたが、付き合っている訳でもない彼に、自分から連絡する事はしなかった。夏休みには黄川田肇と北海道旅行をし、帰って来てからは塾のバイトに精を出していた。
「ご無沙汰です!論文試験はどうでしたか?」と私が、一応お愛想で訊くと、
「発表は10月だからまだだけど、まあ大丈夫そうだよ!」と自信あり気だった。
麻布の隠れ家のようなレストランで食事をしたが、彼は相変わらず冗舌で飽きる事がなかった。私は北海道に行って来たと、お土産のラベンダーオイルを渡した。
「旅行できてうらやましいね!北海道のどこ?誰と行ったの?」
「洞爺湖のホテルに泊まって、函館に行きました。女友だちとですよ!」
彼との関係を保持するために、私は当然のように嘘を言った。
「僕からもプレゼントがあるんだ。20歳の誕生日、おめでとう!」と言って、有名ブランドのブレスレットを差し出された。誕生日を知っていたのには驚いたが、プレゼントをされる理由が思い当たらなかった。
「ありがとうございます。でも、これは受け取れません!彼女でもないし…。」
「ならば、彼女になってよ!直ぐに返事をしなくても良いから、ね!」
彼の胸中が見えて、面映ゆい気持ちと困惑とで胸が騒めいていた。
駿は場所を六本木のバーに移し、七海の誕生日を祝った。彼女は成人式前だが、アルコールを勧められてカクテルを初めて口にした。口当たりの良いカクテルを3杯お替りし、バーの雰囲気も相まって酔いが廻っていた。
「わたしが恋愛して本気で付き合ったのは一度だけですが、駿さんは?」
「大分飲み過ぎたね!恋愛話は苦手だけど、5人ぐらいかな。」
「ご、5人?それって多くないですか?やっぱりプレイボーイなのかな?」
「プレイボーイなんて、そんな言葉を良く知ってるね。でも、心外だな!」
それだけ女性経験が豊かな彼と、私が付き合うのは無理だと思った。キスとそれに毛が生えた程度の事しか経験ない私は、彼の御眼鏡にかなう訳がなかった。
「友だちの話なんですが、聞いてもらえますか?その子の彼氏が純潔主義で、結婚まではバージンが当たり前で、自分自身もそういう事はしないと言うんです。」
「へぇー、今時の人じゃないね。相手の事が好きでも、何もしないわけ?それで、七海はその人と付き合って、何もなかったんだ。」と私に置き換わっていて、
「わたしじゃなく、友だちだって言ったでしょ!もういいです!」と話を打ち切りたかったが、恋人同士が求め合うのは自然だと、彼の意見を述べていた。
門限のある七海を、駿はタクシーで寮の前まで送って行き、酔いを醒まそうと彼女に付き添って歩いていた。足取りが覚束ない彼女の腰を、支える様にしていた。人通りのない空き地に来ると、駿は七海を引き寄せて唇を重ねた。
「何ですか、いきなり!そうやって女の子をモノにしてきたんですね!やっぱり遊び人だ!わたしは、そんな軽い女じゃありませんから!」と虚勢を張って言った。
「ごめん!ついしたくなって…。軽いなんて思ってないし、好きだから…。」
「でも、付き合ってもいないのにキスするなんて、女たらしのやる事でしょ!」
「確かにそうだね。彼女になっての返事を、まだもらってなかったね。」
「そうですよ!まだ3回しか会っていなくて、しかも3か月間ほったらかしで。もし付き合ってたとしても、たまにしか逢えないなんて嫌ですから!女の子は好きな人には、毎日でも逢いたいものですが、男の人は違うんですか?」
私は酔いの勢いで、言い難い事を平気で口にしていた。
「女と男は、違うんじゃないかな。僕は逢わないでいても、彼女の事は信じられるし、好きだという気持ちは変わらないけどな。」と言う彼の言葉は、説得力があった。
そして、「来年には司法試験があるから、今までと同じで頻繁には逢えない」と念押しされ、七海はこの時点でも、彼との交際は無理だと痛感していた。
駿は予備試験の最終結果が分かる11月まで、七海に連絡をしなかった。合格が判明した翌日にメールをしてきたが、会おうとも何とも言って来なかった。七海は付き合う気もなく、「おめでとう」と返信しただけだった。12月のクリスマスのパーティに招待されたが、それも本当は断るつもりでいた。
「ご無沙汰です!論文試験はどうでしたか?」と私が、一応お愛想で訊くと、
「発表は10月だからまだだけど、まあ大丈夫そうだよ!」と自信あり気だった。
麻布の隠れ家のようなレストランで食事をしたが、彼は相変わらず冗舌で飽きる事がなかった。私は北海道に行って来たと、お土産のラベンダーオイルを渡した。
「旅行できてうらやましいね!北海道のどこ?誰と行ったの?」
「洞爺湖のホテルに泊まって、函館に行きました。女友だちとですよ!」
彼との関係を保持するために、私は当然のように嘘を言った。
「僕からもプレゼントがあるんだ。20歳の誕生日、おめでとう!」と言って、有名ブランドのブレスレットを差し出された。誕生日を知っていたのには驚いたが、プレゼントをされる理由が思い当たらなかった。
「ありがとうございます。でも、これは受け取れません!彼女でもないし…。」
「ならば、彼女になってよ!直ぐに返事をしなくても良いから、ね!」
彼の胸中が見えて、面映ゆい気持ちと困惑とで胸が騒めいていた。
駿は場所を六本木のバーに移し、七海の誕生日を祝った。彼女は成人式前だが、アルコールを勧められてカクテルを初めて口にした。口当たりの良いカクテルを3杯お替りし、バーの雰囲気も相まって酔いが廻っていた。
「わたしが恋愛して本気で付き合ったのは一度だけですが、駿さんは?」
「大分飲み過ぎたね!恋愛話は苦手だけど、5人ぐらいかな。」
「ご、5人?それって多くないですか?やっぱりプレイボーイなのかな?」
「プレイボーイなんて、そんな言葉を良く知ってるね。でも、心外だな!」
それだけ女性経験が豊かな彼と、私が付き合うのは無理だと思った。キスとそれに毛が生えた程度の事しか経験ない私は、彼の御眼鏡にかなう訳がなかった。
「友だちの話なんですが、聞いてもらえますか?その子の彼氏が純潔主義で、結婚まではバージンが当たり前で、自分自身もそういう事はしないと言うんです。」
「へぇー、今時の人じゃないね。相手の事が好きでも、何もしないわけ?それで、七海はその人と付き合って、何もなかったんだ。」と私に置き換わっていて、
「わたしじゃなく、友だちだって言ったでしょ!もういいです!」と話を打ち切りたかったが、恋人同士が求め合うのは自然だと、彼の意見を述べていた。
門限のある七海を、駿はタクシーで寮の前まで送って行き、酔いを醒まそうと彼女に付き添って歩いていた。足取りが覚束ない彼女の腰を、支える様にしていた。人通りのない空き地に来ると、駿は七海を引き寄せて唇を重ねた。
「何ですか、いきなり!そうやって女の子をモノにしてきたんですね!やっぱり遊び人だ!わたしは、そんな軽い女じゃありませんから!」と虚勢を張って言った。
「ごめん!ついしたくなって…。軽いなんて思ってないし、好きだから…。」
「でも、付き合ってもいないのにキスするなんて、女たらしのやる事でしょ!」
「確かにそうだね。彼女になっての返事を、まだもらってなかったね。」
「そうですよ!まだ3回しか会っていなくて、しかも3か月間ほったらかしで。もし付き合ってたとしても、たまにしか逢えないなんて嫌ですから!女の子は好きな人には、毎日でも逢いたいものですが、男の人は違うんですか?」
私は酔いの勢いで、言い難い事を平気で口にしていた。
「女と男は、違うんじゃないかな。僕は逢わないでいても、彼女の事は信じられるし、好きだという気持ちは変わらないけどな。」と言う彼の言葉は、説得力があった。
そして、「来年には司法試験があるから、今までと同じで頻繁には逢えない」と念押しされ、七海はこの時点でも、彼との交際は無理だと痛感していた。
駿は予備試験の最終結果が分かる11月まで、七海に連絡をしなかった。合格が判明した翌日にメールをしてきたが、会おうとも何とも言って来なかった。七海は付き合う気もなく、「おめでとう」と返信しただけだった。12月のクリスマスのパーティに招待されたが、それも本当は断るつもりでいた。
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