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第6章 梅枝七海(18歳)=立松千宙(18歳)

§8裏切られた思い

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 七海は千宙の住む町を、期待と不安の入り混じった思いを抱えて再び訪れていた。今日は夜まで家に誰もいないので家に来ないか、と千宙から連絡があったからだ。2カ月前にしっくりしないまま別れてから二度会ったが、思いをかなえたいという気持ちがますます強くなっていた。
 千宙は約束の午後4時になっても現れず、七海は歯がゆい思いで待っていた。
 どうしたんだろう、千宙が時間に遅れて来るような事は今までになく、何かあったのかと心配になった。電話をしてもメールをしても、応答がないまま彼これ1時間になる。今日こそはと決意して来たのに、気持ちがくじけてしまいそうだった。

 千宙からようやくメールが来たが、七海はどん底に突き落とされた気分だった。それには、<今日は会えない。ごめん。また連絡する>とだけあり、七海はぼう然とたたずんでいた。何が起こったのかという不安と、やり場のない思いに駆られた。その場を離れ、心を落ち着かせようと近くのカフェに入った。
 私との約束をすっぽかすなんて、千宙に余程大変な事が起こったんだと自分に言い聞かせた。私も彼の思いを裏切った事があり、仕方がない事だと思おうとした所で、カフェのガラス越しに彼の姿を見つけてあ然とした。小柄な女の子の肩に手をやり、抱き寄せるようにしながら歩いていた。まさかという思いでカフェを出て後を追って行くと、アパートの一室に二人で入るのを目撃した。私はその場を逃げるように立ち去り、思考が停止した状態で電車に乗っていた。

 七海は知らず知らずに寮に戻っていて、スマホを開くと千宙からの着信とメールが届いていた。何を今さらと思いながらも、メールを開いて読んだ。
<ホントにごめん!バイト先の同僚が事件に巻き込まれて、身元引受人になってほしいと頼まれた。七海を邪険じゃけんに扱うつもりはなくて、詳しい事は会って話したい>
 私はメールを読んで、さっき目にした事が真実で、言い訳にしか思えなかった。返事もする気になれず、そのまま放置していた。電話も掛かってきたが、それにも応じなかった。このままの状態で良い訳がないと思っていたが、しばらくは会って話をする気にもなれなかった。

 千宙はその日、バイトを終えて家に帰った所、警察から呼び出しがあった。七海との約束の時間が迫っていたが、大学が同じ秋庭二奈が男に襲われたという連絡だった。彼女は長崎から来ていて身寄りもなく、バイトの仲間であり親しくしている千宙を引受人として指名したのだった。千宙は七海との約束が気になったが、助けを求められて無視する訳にもいかず、二奈の方を優先した。七海には後で事情を話せば分かってもらえると、楽観視していた。しかし、七海の傷心は思っていたよりも深く、取り返しの付かない事態に陥ってしまった。
 それから1週間、電話にもメールにも返事のない七海を案じて、千宙は以前立ち寄った女子寮の前で七海を待った。彼女が部屋にいるのか、それとも帰って来るのかの保証もなく待つ事にした。午後10時が門限だと知っていたので、それまで待ってみようと思っている所へ、七海が男に抱きかかえられて歩いて来るのを認めた。千宙はとっさに姿を隠して様子をうかがうと、彼女が男に腕をからめて駄々だだをこねているように見えた。男は彼女の背中に手をやり、なだめているようにも見えた。その時千宙は、また裏切られたという思いで悄然しょうぜんとしていた。
 私は千宙に対して、へそを曲げ過ぎていた事を反省していた。そんな時にメールが来て、そこには<別れよう>と書かれていた。事情もよく聞かずに無視し続けた私は愛想を尽かされたかと思い、このままではいけないと直ぐに電話を掛けた。
 七海は約束を放棄されたその日、千宙が女の子を抱きながらアパートに入って行くのを見たと告げた。千宙は誤解だと説明した後、七海が寮の前で男といちゃついていたのを見たと告げた。七海は自暴自棄になっていたと言い訳をした後で、待ち伏せをした事をストーカーだと責めた。話はかみ合わず、意思疎通ができないまま事態は悪化の一途をたどり、別れることになってしまった。
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