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第6章 梅枝七海(18歳)=立松千宙(18歳)

§7胸の高鳴り

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 食事をさっさと済ませ、ファミレスを出て二人の通った中学校まで歩いた。
「毎朝、こうして登校してたんだよね!それが楽しくて、あの頃は純情だったな!」
「今は違うの?」という彼の突っ込みに、どう応えて良いか分からなかった。
「1年間は、あっという間だったね。勉強や部活の話をして、たまにケンカすると千宙がいつまでも機嫌が悪くて。もう1年続いていたら、どうなっていたのかな?」
 感慨深げに語る私に、彼は何かを思い出したようにニヤついていた。
「何よ、ニヤニヤしてどうしたの?何か思い出したの?」
「いろいろあったなと、思ってさ!あの頃は、手をつなぐのも勇気がいったし、キスするなんて考えてもいなかった。というのは嘘で、機会をうかがってた!」
「えー?そうなの?言ってくれれば、良かったのに!わたし、待ってたのよ!」
 話の展開がおかしくなってきて、中学校を後にした。次に連れて行ってくれたのは、待ち合わせ場所に使った橋のたもとだった。その当時は考えもしなかったが、橋の下へと二人で下りて行った。
「知らなかったな、こんな場所があったなんて。いつ気が付いたの?」
「七海がいなくなって、この辺をぶらぶらしてて、それで。」
 私たちは人目の届かないのを良い事に、久し振りにキスをして抱き合った。
「中学の時、わたしが言った事を覚えてる?確か千宙の家に行った時かな。」
「七海の言った事はいっぱいあるけど、何の事なの?」
「うーん、わたしの初めては…という言葉!」
 私は彼の肩に頭をもたせ掛けて、ドキドキしながら小さい声で伝えた。
「うん、覚えてる。あの時は何の事だかよく分からなかったけど、そういう事だよね!あれって、まだ有効なの?」ととぼけて見せる彼のお腹を、思い切りつねった。
「最近、七海は乱暴だな!蹴ったりつねったり。という事は、七海はまだなんだ!」
 彼のあからさまな指摘に恥ずかしさを覚えたが、
「もう、済んだと思っていたの?失礼ね!わたしは本気で、あの時言ったんだからね。そういう千宙こそ、どうなの?もう済んだの?」と反撃した。
「内緒!俺は約束してないし…。でも、ずっと七海の事を思ってた!」
 離ればなれの4年間の彼の行いについて、聞きたくもなかったし詮索せんさくする気も当然なかった。ただ、話の流れで聞いてしまい、彼が上手く話をはぐらかしたので助かった。思春期の男の子がそういう事に興味を抱くのは言わずもがなで、女の子の私だって好奇心から経験する機会もあったし、約束を反故ほごにしていたかもしれない。

 二人は胸の高鳴りを抑え切れず、二人だけになれる場所を探した。千宙が思い付いたのは町外れにあるラブホテルだったが、入口で入るのをためらっていた。
「ここなの?千宙は入った事あるの?ここって、そのためのホテルだよね!」
「俺だって初めてだよ!ここじゃ、嫌だよね!」と残念そうに言う彼に、
「うん、一生に一度の事だし、初めての場所がここだと何となく…。ごめんなさい!」
 私たちは暗くなり始めた街を、当てもなくさまよった。
「今日は止めない?今度さ、二人で旅行に行くのはどう?温泉とか。」と私は解決策を示したが、お金が掛かるし不倫旅行みたいだと却下された。
「千宙は実家だし、わたしは男子禁制の寮だし、一人暮らしがしたいな!」と言っても始まらず、その日はあきらめて帰る事にした。

 七海は駅で見送られて帰路に着いた。電車の中で、千宙に向けてメールを送った。
<今日はごめんね!その気にさせといて、嫌だなんて最低だよね。場所がどうこうではなくて、本当は怖くなったんだ。でも、千宙と初めては、嫌じゃないよ!>
<七海の気持ちは分かってるよ!女の子の都合も考えずに、変な所へ連れて行ってごめん。覚悟もいるだろうし、いろいろと策を講じてみるので、また今度!>
 二人はもどかしい気持ちのまま、メールでお互いの心の内を明かした。
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