奇病女子

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花吐き病

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私には何年も想い続けた人がいた。
好きで好きでたまらなかった。
でも私も彼女も同性だ。
彼女はきっと異性を好きになるだろうと思って告白なんか出来なかった。

ある日、彼女は
「彼氏が出来たんだ!」
と笑顔で言った。夏休みが終わる頃だったと思う。
どんな顔をすればいいかわからなかった。
でも彼女が幸せな事だから私にとっても嬉しいことだと思った。

だから笑って
「おめでとう」
とだけ言った。

夏休みが終わってから彼女と私は一緒に帰らなくなった。
彼氏と毎日帰っているらしい。
寂しいけどあなたが幸せならいいと思った。



少し涼しくなった10月頃、私は花を吐いた。
よく目立つ黄色のチューリップ。

医者に診てもらった所、この病気の名前は「嘔吐中枢花被性疾患」というらしい。
通称は「花吐き病」
医者曰く、この病気は片想いが原因。
そして、この病気はその片思いが成就するまで治らない。
つまり私にとっては不治の病だ。
別にそれでもいい。
だってどうせ彼女は幸せなのだ。
バレないように振る舞って彼女とはいい距離の友達でいよう。

そう思ってたのに、私は彼女の前で花を吐いた。久しぶりに彼女と一緒に帰っていた時のことだ。

彼女は青ざめて救急車を呼ぼうとするからかなり焦った。仕方ないから彼女に私の病気について話した。原因や治し方を除いて。

彼女が気味悪がって私のことを嫌ってくれればいいと思った。


でも彼女はそんな様子は見せず、
「今まで気づかなくてごめん、親友なのに。」
と泣き震えながら私を抱きしめた。
今まで1番強く。


それからは最高だった。
彼女は私を心配して今までのように一緒に帰るようになった。
連絡も増えた。幸せだった。

でも、私は見てしまった。
彼女とその彼氏がキスしているところを。
気持ちが悪かった。
私の知らない彼女が。私の見た事のない表情の彼女が。小さい頃繋いだ彼女の手が。私を抱きしめたあの体が。愛している人とキスをした唇が。彼女の何もかもが。

トイレに駆け込む。
喉に詰まっている汚い花を思いっきり吐き出す。
アネモネ、ゼラニウム、サザンカ、アイビー、スイセン、トリカブト…



色々な花が吐き出されてさらに気持ち悪くなった。

分かっていたのに。彼女には愛している人がいることを私は知っていたのに。

期待して自滅して吐き出した。

「あはっ…」
トイレで1人笑みをこぼす。
アホらしくてもう笑いしか出てこない。
私はどうすればいいか分からなかった。

彼女を置いて一人で帰った。
一人で帰るのは久しぶりだった。

部屋で彼女と私の写真を見返した。
なんとなくだ。意味は無い。
でも写真を見ていて良かった。おかげであることに気づいた。

あぁ、そうか。こうすればいい。





私はきっとあの男よりも大切な存在にはなれない。

じゃあどうすればいい?
いつか忘れられる。絶対に。
どんなに大切にしていた友人がいても恋愛をすると人はきっとそっちを優先する。
どうすれば少しでも彼女の記憶に残ることが出来る?

それはきっと彼女の記憶に私の爪痕を残すことじゃないかと思った。
どんな形でもいい。
とにかく覚えていて欲しい。
でも私はせめて彼女には嫌われたくないのだ。

だから、ちゃんと伝えよう。






ここは屋上。
あと10分もすれば彼女は来る。

彼女が来たら、私は彼女に自分の胸に秘めていたことを打ち明ける。

彼女が呆気にとられている隙に
私はここから飛び降りる。

「ふふっ…あはっ…」
嬉しくて笑いが込み上げてくる。
だってもう少しで彼女は私をずっと忘れられない人になる。

あぁ嬉しくて嬉しくてたまらない。
彼女は私が死んだら悲しんでくれるだろうか。









「うっ……」

汚い花がせり上がってくる。
あぁ、また吐くのか。
そんなことを呑気に考えながら私は吐き出す。
花は黒いバラ。
今の状況にぴったりだ。






全てを吐き終わった時、誰かが階段を上る足音が聞こえた。
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