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1巻

1-3

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 ディランは、木刀を両手で持ち、上段に構える。
 冒険者時代は、両手持ちの大剣を使い、前衛ぜんえいで魔物をぎ払っていたらしい。
 それに合わせるように俺も剣を構える。
 これまでの訓練で分かったんだけど、俺とディランのステータスは、五分五分ごぶごぶくらい。
 とはいえディランの戦闘技術は、俺より数段上。
 その間合まあいに考えもせずに飛び込めば、即座にやられてしまうのは明白めいはくだ。
 ついでに、そんなこと考えずとも、【危険予知】というスキルによって、俺の頭の中では警戒音が鳴り響いている。
 ちなみに【剣術(小)】と【危険予知】は、ディランと稽古するようになってから取得した。
 そんなことを考えていた瞬間――。


「来ないなら……こっちから行く!」


 ――ディランは、その体軀たいくからは想像もつかない速度で一気に間合いをめると、薙ぎ払いからの鋭い二段突きを繰り出してきた。
 俺は持っていた木刀で受け流すのがやっとである。
 うう……痛いのは嫌なんだが。

「くっ……四歳の子供にはなつような技じゃないよ」
「当たり前だ。この技でオークをよくっていたからな」
「馬鹿じゃないの!?」
「上手く避けたくせによく言うわ」

 ディランは木刀を片手で持ち直すと、今度はへびのようにしならせて打ち込んでくる。
 すべてを防ぎきれず、俺の太ももや手のこうに痛みが走る……まさに防戦一方だ。
 さらに何度か打ち合い……ディランの剣が肩をかすめた時、俺はうかつにもディランの間合いに入ってしまった。
 ――その瞬間、ディランは木刀を両手で持ち直すと、真横から薙ぎ払う。
 確かにステータスの値は同じくらいだが、やはり体格や経験の面で俺は圧倒的に不利ふりだった。
 俺はディランの剣を受け止めたにもかかわらず、すごい勢いでき飛ばされてしまう。
 身体を回転させて勢いを殺し、なんとかして受け身を取る。
 それでも、二メートルくらいは吹っ飛ばされていた。

「この馬鹿力!」
「はは、かなりマジだったんだが……受け流すのも上手くなったな。俺もまだまだのようだぜ。何度も言うがお前、本当に四歳かよ」
「四歳だよ。あぁ、肩が痛い」
「わりぃわりぃ。すぐにロイを呼んできてやるから」
「ん……? ロイ、ああ治癒ちゆ魔法か……」

 ディランはロイを呼びに、修練場を出ていった。
 ロイはディランと同じようにガートリン家に雇われている魔法使い。
 黒いローブを着たヒョロっとした男性である。治癒魔法が使えるので、かなり重宝ちょうほうされている。
 まあ、ロイのことはどうでもいいか。
 ……それにしても、治癒魔法が使えたら便利だよなあ。ちょっと、ためしてみるか……。
 左手に魔力を集中する。
 次に左手を右肩の傷ついた部分に置き、細胞を活性化させて修復しゅうふくするイメージを浮かべてみる。
 すると、右肩があわい光をびるとともに痛みがおさまり、傷が徐々じょじょに小さくなっていった。

『【治癒魔法(小)】を取得しました』

 右肩には、傷跡きずあとすら残っていない。
 ほぁ……すげぇ……出来ちゃったよ……なおっているよな? コレ。

「ディランさん、引っ張らないでください。私、仕事が山積やまづみなんですから」
「ちょっと、治癒してくれるだけでいいからよ」
「ちょっとって、治癒魔法はそれなりに魔力を使うんですよ? 薬草とかで治せないんですか?」

 声のした方に目を向けると、そこにはディランとロイの姿があった。

「あっ、ディラン。傷なんだけど、よく見たら血が付いていただけだったんで……ロイはいらないよ」
「いらない……」
「お、そうだったか……じゃ、ロイは必要なかったか」
「必要ない……」
「そういう訳で、帰っていいぞって……。なんで、そんなに打ちひしがれているんだ?」

 俺とディランは、すっかりいじけてしまったロイを放っておき、稽古を再開したのであった。


 ◆


 ディランとの稽古が長引いてしまったので、俺は今、自室でかなりおそめの朝食をとっている。
 ボーッとフランスパンのようなものをかじっていると、部屋の窓から畑仕事をする農民の姿が見えた。
 ここからの景色は、秋になると一面に広がる麦畑が黄金色に輝いて、絶景ぜっけいである。

「ユーリ様、紅茶のお代わりはいかがでしょう?」
「ありがとう。ローラ」

 からになっていたティーカップに紅茶ががれ、その香りを楽しみながらローラに問いかける。

「うーん、これは美味おいしいね。この紅茶、新しいやつ?」
「はい。お館様が王都に行かれた際に購入こうにゅうしてきてくださったんです。鼻から抜ける香りがいいと聞いています」

 王都かぁ……一度くらいは買い物に行ってみたいな。
 というのも、『お米』をなんとかして食べたいのだ。
 パンやパスタにはきたので、ローラに聞いてみたんだけど、ガートリン領にはお米は売られていないみたい。
 だけど、王都まで行けば見つかるんじゃないかと。

「王都には一度、行ってみたいね。どんなところなの?」
「王都は、水の都とも言われています。小高い丘に作られ、きれいな湧水わきみずが王都内の至るところに流れ込んでいるのです。さらに水路が張りめぐらされており、移動にはミークという獣にかせた舟がメインに使われています」
「へぇ、面白おもしろそうだね。ミークってどんな動物なの?」
「半魔獣のような動物で、人間を襲うことはほとんどないみたいです。巨大なへびに四つのヒレが付いた姿をしております」
「巨大な蛇って……本当に大丈夫なんだよね?」
「はい、外見は少しこわいですが、草食動物ですし」
「そうなんだ。けれど、怒らせたりしたらみつかれそうだね」
「性格も大人おとなしく温厚おんこうで、ノンビリとしているそうですよ……あ、ユーリ様に似ていますね」
「何が、だい?」
「いえ、なんでもないです」

 なんとな~く、会話を流されたような……。

「ま、いいや」
「はい」
「あ、そうだ。王都の食事ってさ……ここと違ったりするの?」
「食事ですか? 食事は、この辺りで出されている物と変わりませんね。基本的には、パンやパスタが主食ですよ?」
「そっか、他の国だと、どんな物を食べているのかな?」
「すみません。他国の情報はなかなか得る機会がないので……分からないですね」

 もし、米があったら……他国だとしても、なんとか買い付けに行くのだが……面倒だけど。そんなことを考えながら、紅茶に手を伸ばし、一口飲む。

「そっか、そういうものだよね。ん~本当にいい香りだね、この紅茶。このまま、日向ぼっこしながら寝たいくらいだよ」
「いけません。食事が終わりましたら、私とお勉強会ですので。今日は算数です」
「難しいよね。あれ」

 難しいってのは、分からない振りをすることだけどね。

「今日は、勉強会お休みにしてもいい?」
「何か、用事でもございましたか?」
「いや、ちょっと、朝の訓練で疲れちゃったから。ベッドで……」
「お勉強をしましょう。もし、ユーリ様が領主りょうしゅ様になるとしたら必要な知識です」
「ローラ……。俺は、領主になる気なんてさらさらないんだけど……」
「すみません、私が勝手にユーリ様は領主様に相応ふさわしいと思っているのです。ユーリ様はやれば出来る子です。ちょっと頑張ってみません?」
「ボーッとしているだけの俺を引っ張り出すほど、兄様二人はたよりないの?」
「はい」
「いや、即答そくとうされても困るんだが……。ほら、騎士学校で心を入れ替えてくるかもしれないよ。それに、俺が頑張ると色々とデメリットが……。この家には、俺に暗殺者を送ってきそうな人がいるし」

 俺の言葉に、ローラは静かに息を呑む。

「それは……」
「うん。多分、考えていることは同じだと思う」

 まぁ、俺の義母にあたる正妻さんなんだな、これが。
 陰湿いんしつな人らしいから、普通に毒とか使ってきそうなのである。
 まぁ、直接的に俺を殺しにくるならまだいい。どうにか対処たいしょできるだろうから。
 だけど、毒とかはマズい。今のところ、そういう攻撃に対する耐性はないし。

「す、すみません。出すぎた口をいてしまいまして……」
「いやいや、いいんだけど……さ。それにしても困るよねぇ、あの馬鹿二人は……。また、メイドに手を上げたんだって?」
「……はい」

 ローラは少し顔をくもらせつつ、うなずく。
 上の立場の人間が、下の立場の人間をどやしつけるなんて……そのことが周りの人にどういう風に見られるのか……あの兄達には分からんかぁ……。
 多分、平民なら、替えはいくらでもいるとか、アホなことを考えているんだろうなぁ。


 ◆


 夏が過ぎて秋が近づいている。最近、俺があまりにゴロゴロしているのでローラがどんどん厳しくなっている……。
 まるで、休日に寝っ転がっているお父さんに対するお母さんみたいだ。
 三男とはいえ俺は一応貴族で、ローラはメイドのはずなんだけど……。
 そもそも貴族ってさ、偉いし、何もしなくていいんでしょ?

「部屋の掃除をしますので、ベッドから出てきてください」
「ええ……」
「ええ……ではありません」
「はぁ、りでもして来ようかな」
「そうですか。では、釣り道具は、こちらに用意してありますので……お気を付けて行ってらっしゃいませ」
「準備よすぎでは?」
「料理長のラリーからの言伝ことづてですが、出来るだけ多く魚が欲しいとのことです」
「……あっ、はい」

 うう……前に釣りをした時に次から次へと釣れるのが楽しくて、大量に持って帰ったのが原因だろう。面倒だなあ。
 料理長のラリーのみならず、使用人達に感謝されるのはいいんだけどさ。
 あの日以来、ことあるごとに、釣りしませんか? とさそわれたり、さりげなく魚をとってきて欲しいと言われたりするようになってしまったのだ。
 もしかすると、ガートリン家の財政状況はあまりよろしくないのかもしれない。
 そう考えられる原因は、大きく二つ。
 正妻さんの浪費癖ろうひぐせと、ガートリン領の小麦の価格が低迷ていめいしていること。
 とはいえ、まだ子供の俺にはどうしようもないんだけど。
 気を取り直して、俺は釣り場に向かうことにした。
 ちなみに服は、ディランのおがりをローラに仕立て直してもらったものに着替えている。
 貴族の服だと動きづらいし、バレると面倒だからね。


 屋敷の近くにいつも日向ぼっこしている小高い丘があり、その緩やかな坂を下ると岩石地帯……そこを抜けたところに、きれいな川があるのだ。
 その川辺に、もたれかかるのにちょうどいい大きさの岩があり、俺はいつもそこを釣り場としている。

「ほんと、この世界の川は透明度とうめいど段違だんちがいに高いなぁ。さてさて」

 川に反射するあたたかい光が心地ここちよい。このまま、眠りたいくらいである。

「ん~あ、はぁ……美味しい晩ご飯のため……仕方ないな」

 釣り道具を組み立てていく。
 とはいえ、ほとんど自作した釣竿つりざお疑似餌ぎじえだ。
 木のぼうひもで作った竿さおの先に、鉤爪かぎづめのような針を仕込んだ、小魚をイメージして作った疑似餌が付いているだけなんだけど。
 こんなんで、なぜ釣れるんだろうか……。
 転生する前も釣りをしていたので、そんなことを思ってしまった。
 まあ、いいや。せっかく釣りに来たのだ、今は考えるのは面倒だな。
 それにしても、昨日の雨の影響なのか、少し水かさが増しているように感じるな。
 竿を振って、疑似餌をちょうど川の真ん中辺りに落としてみたところ、前に釣りした時よりも川の流れが速くなっている気がする、かな?
 ……ふぁ……眠む……。
 ふぁ……ん……ん……。
 ――ピク、ピクピク。
 おっと、魚がかかったようだな……少しは寝させてくれてもいいものを……。
 ピンと糸が張るとともに釣竿がしなったところで、俺は竿を引いて魚を釣り上げた。
 これが今日の初当たりとなった。
 うむ、ここの川魚は学習能力がないので助かる。

「この魚は……アラスだ」

 ――バチャバチャ!!
 すごいねてるなぁ。めちゃくちゃ元気だ。
 しかも、川魚なのにとても大きい。サイズ感としてはあゆの二~三倍くらいかな。
 俺の腕力が無駄むだに強くてよかった。
 普通の四歳なら川に引き込まれて、あの世きだろ。
 さて、疑似餌が取れてしまったから付け直して……ん?
 ん? んん?
 人がぷかぷか浮いている。
 服装の感じだと……村人みたいだけれど。
 誰か呼ぶ? 川の流れが速いし、すぐに見えなくなりそうだから……ダメか。
 こりゃ、俺が飛び込んで助けるしかないか?
 しかし、この身体になってから……泳いだ経験はないぞ。大丈夫か?
 どうするよ……やっぱり、魔法に頼るしかないか。
 氷魔法で川をこおらせれば……とはいえ、川に浮かんでいる村人さんまで一緒に凍らせるのはマズいので――。

「ふう……」

 ――俺は左手を川の水面につけ、魔力を集中して魔法を発動させる。

【コールド】

 パキッパキパキ……と音を立てながら、川が凍りついていく。
 くっ……村人を避けるためにコントロールしたことで、必要以上に魔力を使ってしまった。
 一気に魔力が減ったので、一瞬、気を失いかけたんだが……。
 川に視線を移すと……大丈夫、上手くいったようだ。
 どうにか村人さんが浮かび上がるように、川を凍らせることが出来たっぽいぞ。
 ふぃ、初秋しょしゅうだってのに息が白くなるぜ、オイ。
 スケートリンクみたいになった川の上を歩いて行き、村人さんの身体をかかえ上げると、先ほどまで釣りをしていた場所まで戻った。そして村人さんを横に寝かせて、マジマジと見る。
 どうやら、男の子のようだ。
 歳は俺と同じくらいか?
 よく見ると、右腕が変な方向にがっているな。
 それに大量に水を飲んでしまったためだろうか。意識がないことの方がヤバそうだ……これって確か、溺水できすいとかいう症状しょうじょうっぽいな。
 こういう時は……気道を確保して……心臓マッサージと人工呼吸をするんだっけ。
 何回か、心臓マッサージと人工呼吸を繰り返していると……村人さんは、ゴホッゴホッと咳込せきこんで水を吐き出した。
 うい、これでなんとか……意識はないが呼吸はしている。
 ん~水の中にいたせいか、身体が冷え切ってしまっているな。
 火魔法の【ヒーター】をかけて様子を見ていると、少しずつ顔に生気せいきが戻ってきた。
 よし、これで一安心だろう。
 次は、右腕だなっと。

「ちょい痛いけど我慢な。変な方向に曲がった右腕を戻すから」

 俺は、右腕の方向を正しく戻すと、拾ってきたえだえ木をしてから、ハンカチで固定する。
 俺の治癒魔法は、ランクが小だから完全に治せるかどうかは分からないけれど……。
 応急処置くらいにはなるだろ。

「他人の傷を治すのは初めてだな。ちょい緊張きんちょうする」

【ヒール】と魔法を唱えると、パァーッと明るい光が患部かんぶに広がった。
 しばらくしてから、村人さんの右腕を見てみると……。

「お、ちゃんと治っているかな? まぁ、このまま休ませておけば大丈夫だろ。あ、川も元に戻さないと……あぁ……魔力切れで倒れそう」


 俺は火魔法を使って、凍らせた川をかした。
 その際に、川を流れていたと思われるでっかいいのししを見つけたので、一応回収しておく。
 それにしても、まさか川で人を拾うとは……なかなか出来ない経験だろう。
 まるで、昔話の桃太郎さんみたいだとしみじみ思っていると……村人さんの身体がカタカタと細かくふるえているのが目に入った。
 うーん、寒いのだろうか。とはいえ、もう魔力はほとんど残ってないから、【ヒーター】を使うのもなぁ。
 火でもおこすか……。
 しかし、この村人さん……ちゃんと飯を食っているのかな? 
 すごくせているんだけど。栄養はりているのだろうか。
 うむ、腹をかせているかもしれない……火を熾すついでに魚でも焼いておこうかな?
 村人さんはどのくらい食べるか分からないし、追加の魚も釣っておくか。
 それと、凍らせた川で見つけた猪は食えるのだろうか?
 見た目四才くらいの子供である。一人暮らしということはないだろう、家の人と食えばいいか。


 ――すっかり日がしずんで、辺りが暗くなった頃。
 俺は火を見つめながら「き火はいいな……なんだろう神聖な気持ちになる」とひとりごちていた。

「うぐ……えっ……ここは? わ、私、つっ……痛い」
「お? 起きたか? よかった。よかった」

 俺がしみじみしている間に目覚めざめたようだ。
 村人さんは、俺の顔を見るなり赤くなったように見えたが……焚き火のせいかな?

「あ……」
「どこか痛いところはない?」
「あ、つッ!? 頭が……」
「痛いのはここ?」
「うん」

 頭の怪我けがは気づかなかったな。
 急いで村人さんの頭に手をかざして治癒魔法を唱えると、村人さんはきれいない青色の瞳を輝かせて驚いていた。

「? すごい、どうやって治してくれたの?」
「ハハ……ちょっとね。それより、腹は減ってないか?」

 俺は魔法を使ったことに内心しまったなと思いつつ、腹が減っているだろうと焼き魚を渡そうとして……一瞬、躊躇ちゅうちょした。
 もしかしたら、助けてもらった上にご飯なんて! と拒否きょひされるかもしれない。
 そう思った次の瞬間……村人さんのお腹がクゥーと鳴った。
 それが引き金となったのか、村人さんは俺の手から焼き魚を受け取ると、ガツガツと食べ始めた。
 どうやら杞憂きゆうだったみたいだ。うむ、よかった。

「はむ……はむはむ。おいひい。おいひいよぉ~」
「慌てるなよ。まだまだ、いっぱいあるんだからさ」

 気持ちのいい食べっぷりだ。

「よかった。元気になってくれて何よりだよ。村人さん」
「村人さん……? わ、私はリムです。リムって言います。助けてくれてありがとう。あなたの名前を聞いても?」
「悪かったね、リム。俺はユーリ。ただの四歳の子供さ」

 下の名前は名乗らない方がいいよね。
 もし領主の息子だって気づかれてさわがれたりしたら、面倒だし。

「それと……さっき頭の傷を治したのは治癒魔法なんだけど、みんなには内緒にしてね?」
「治癒魔法なんて……す、すごい。初めて見たよ!」

 一応、口止めをしておいた方がいいだろう。
 初めて見たってことは、この子の住む村には治癒魔法を使える人がいないと考えられる。
 うちの屋敷にはロイがいるので、皆知っているけれど……もしかしたら治癒魔法って使える人間は俺が思っているより少ないのか?

「そうだね。魔法ってすごいよね。ちょっとだけ面倒なんだけどさ」
「いえ、そんな魔法を使えるユーリさんがすごいよ!」
「ほんと? ありがとう」
「……これからどうやって、ユーリさんに恩を返していったら」
「気にしなくていいよ。あ、『さん』は付けなくてもいいよ? リムも四歳くらいでしょ?」
「うん。そうだけど……。そういえば、ユーリはどこに住んでいるの?」
「お、俺は……この丘を越えて……」
「え? そっちの方は領主様のお屋敷があるって……」
「あ……そんなことより、もうそろそろ家に帰らないと! お父さんとお母さんが心配しちゃうよ?」
「あ!? 急がないと……」
「送って行くよ。住んでいる村の名前は分かる?」
「リコロ村……」
「リコロ村……確か、この川が流れてくる山のふもとにある村だったよね?」
「けど、もう暗くなっちゃう……」

 リコロ村……結構遠いな。
 この子の足だと間違いなく深夜しんやになってしまうだろうし、み上がりの子供を一人で帰らせる訳にはいかないよな……。
 うむ。仕方ないか。


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