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1巻
1-1
しおりを挟むプロローグ
『怠惰』
これは、俺――岡崎椿を説明する時に一番しっくりくる言葉だと思う。
友人に俺の特徴について聞いたら、口を揃えてそう言う。俺の口癖は、「普通でいい」と「面倒くさい」だし、学校の授業ではボーッとしているか、ダラダラしているか、寝ているかで間違っていないと思う。
そんな俺について、優等生である幼馴染みはいつもこう言っていた。
「ツバキはやる気にさえなれば、すごく出来る子なのに……」
毎度、俺は「おまえは、俺の母ちゃんか」と突っ込んでいた訳だが。
とはいえ、怠惰になる以前……子供の頃は色々やっていたと思う。
スポーツも勉強も人並みには頑張っていたけれど、まさしく井の中の蛙大海を知らずってやつ。
小さなコミュニティの中では優秀だったが……競争相手が増えるにつれ、何もかも中途半端になってしまった。
その結果、中途半端にやるくらいなら……怠惰にすごしたいと思うようになったのである。
多分、そう生きざるを得ないことの言い訳にすぎないけど。
まぁ、そこら辺の経緯はどうでもいいか……。
そんな、俺だが……十分くらい前だろうか? 死んだ。
まぁ……正確には死んだようだ、というのが正しいのかもしれない。
高校に登校する途中の出来事だった。
幼馴染みと歩いていたら、トラックがガソリンスタンドに猛スピードで突っ込んでいくのが見えたので、爆風から咄嗟に幼馴染みを庇おうとしたのが俺の最後の記憶。
そして、死んだはずの俺は今、見渡す限り真っ白い空間にいた。
「ここは何処?」
確かに死んだはずなのだが……状況が呑み込めない。
『ここか? ここは、お主ら人間が天国と言っている場所かの。そして、儂が神と言われている存在じゃ』
声のする方を振り向くと、白い服を着た老人が立っていた。
「へぇ、ここが天国ですか。じゃ……俺は死んだんですか?」
『そうじゃな、事故に巻き込まれたようじゃの』
「……。それで、これからどうしたらいいですか?」
『それは……ってお主、何ゆえ、そんなに冷静なんじゃ? 普通、死んだと分かったならば、誰でも取り乱すもんじゃと思うが』
「面倒くさいんで、そういうのいいです。あ……一つだけ聞いていいですか? 俺が死ぬ間際に側にいた幼馴染みはどうなりましたか?」
『うむ、お主と同じ結果じゃ』
やっぱり、助けられなかったか……。あの爆発じゃ無理もない。
もう少しなんとか出来たかもしれないけれど……まぁ、今更か。
「幼馴染みのことは残念ですが……もう終わってしまったことですし……分かりました。話を進めてください」
『うむ……そうか。では……これからお主には、異世界に転生してもらいたいんじゃ』
「異世界ですか?」
『随分と反応が薄いのう』
自称神様の爺さんは、ちょっと顔を顰めている。
俺に驚いたり慌てたりするようなリアクションを求められても、困るんだけどな。
そういう反応って、疲れるからしたくないんだよね。
何ていうか、面倒だし……。
「……すみませんね」
『まぁ、いいかの。それでの、これからお主には……』
「あの……少し、質問してもいいですか?」
『なんじゃ?』
「なんで……そんな別の世界に転生するような面倒なことを俺がしないといけないんです? そもそも、毎回人が死んだら、こんなゲームのチュートリアルみたいなことをしているんですか? 面倒くさくないですか? 想像しただけで嫌になる……。もし俺が神様なら、死んだ世界の中でランダムに転生するシステムを最初に作って……後は傍観者を気取りますが」
思っていたことを一気に告げると、爺さんは笑いながら応じた。
『そうじゃの。そういう仕組みは今もそれぞれの世界で起動中じゃ。お主が言う通り、普通ならこんなことはしないのじゃが……。お主が遭遇したトラック事故じゃがな、あれはまぁ……儂の手違いというか……お主の運命から外れた……本来なら起こるはずのなかった事故なんじゃ』
ん? 何か途中でやたら声が小さくなったけど、手違いとか、運命から外れたとか言わなかったか?
『それでの、あの事故に巻き込まれたことで運命が変わって死んだ者は、システムから外れた……逸脱者として世界に変革をもたらす力があると儂は考えたのじゃよ。そこでなんじゃが……これからお主に行ってもらう世界はのう、儂も理由が分からんのだが……二十六年後のある日、突然、崩壊するみたいなんじゃよ。今までも、その未来を回避するために色々とその世界に介入を試みてきたが、無駄じゃった。未来予測が変わらんのじゃ。そこで……お主には、異世界が崩壊する原因を探って欲しいのじゃ』
「え……俺が? なんで……? てか、二十六年後に崩壊することが決まっている世界に送らないで欲しいんですけど……」
そんなの、わざわざ死にに行くようなものじゃないか。
『確かに、崩壊することが分かっている世界に飛ばすのは、酷な仕打ちかもしれんが……お主はさっきの事故で死んでいる。なので、いわばボーナスステージと考えて欲しいのじゃが』
「……ふざけているんですか? 死の痛みを二度も味わうなんて、ボーナスステージでも何でもないでしょう」
『うむ……確かにの。これは、儂の配慮不足じゃった。そうじゃの……異世界を崩壊の危機から救ったあかつきには、お主の願いを一つだけ叶えてやるかのう』
めんど……。
『面倒って思っとるじゃろ?』
「……」
く、なんで、俺なんだ?
どうせ転生するなら、田舎で怠惰に暮らしたい。
『田舎で怠惰に暮らしたいと思っとるじゃろ?』
「いえ」
なんだこの爺さん……俺の心を読めんの?
『まぁ……無理にとは言わん。お主のような性格だと、これから行く世界は生きていくだけでも厳しそうじゃからの』
そう言うやいなや自称神様の爺さんは、何やら呟きながらおもむろに手を上げる。
すると爺さんの胸の辺りに、数百枚もの黒色のカードが浮かび上がった。
『こちらもお願いしている身じゃ。何も与えずに放り出すようなことはせぬよ』
「これは……?」
『これは才能……【スキル】と言った方がしっくりくるかの。ここに浮かんでいる数百枚のカードは、数億あるスキルの中からランダムに選ばれたものじゃ。この中から選び取った一枚を転生先で使えるようにしてやろう』
スキル? そんなのがあるの?
「例えば、どんなスキルがあるんですか?」
『【剣術(大・中・小)】は一般的かの。剣での戦いにおいて優位に立つことが可能になるスキルじゃ。ちなみに大・中・小とは効果の大きさを示しておるの』
はぁ……まぁそういう便利なスキルがもらえるなら……依頼は受けてもいいか……。
「……俺が出来る範囲での調査でいいですか? といっても、テキトーにしかやりませんよ?」
『構わんよ。それで、世界が崩壊したなら……そういう運命じゃな』
しかし、調査するにしても、二十六年ってのは短い。
短すぎるぞ。
「もう一つお聞かせください。もし、俺がやらなかったら……どうなります?」
『その場合は、死ぬだけじゃな。全ての記憶を失って生まれ変わる』
「……まぁ……そうなるのかよなぁ」
『ほれ、早く選ぶんじゃ』
「……分かりましたよ。もう。もうどうなっても知りませんよ……? それじゃ、この中から選んでも?」
『構わん』
これにするかと一番近くにあったカードを選び取ると、カードの表面がペリペリと剥がれていく。そこには見たことのない模様の文字がびっしりと刻まれていた。
『ほう……よいスキルを引いたの。まさか、そんなレアなものが出るとはのう』
「このスキルは、どういうものなんですか?」
『スキル名は【超絶】じゃな。常時発動型で全ての能力と成長率が上昇するスキルじゃな。上昇率は……スキルレベルにもよるが、だいたい二~四倍というところかの』
なんだその数字!? つまり、レベルが上がれば上がるほど超人化するってことなんじゃ……?
「それって、すごく目立ったりするやつ……」
『ふぉふぉ、使いこなせれば、世界に変革をもたらすくらいには目立つスキルじゃな。めちゃくちゃレアなスキルじゃよ。ふむ……お主がこれからどう生きていくかに興味が湧いてきたの。このようなスキルを持ってなお、怠惰に生きていけるか見ものじゃて。圧倒的な力なんてのは、隠すのが難しいからの。ふぉふぉふぉ』
「……返却や交換は可能でしょうか?」
『不可能じゃ。さぁ行くがよい。新たなる旅立ちの時じゃ。それと言語対応スキルは餞別じゃて』
「ちょ、ま……」
白い光が湧き上がり、俺を包み込んだところで意識を失った。
◆
「産まれたのか……」
ん? なんだ?
俺は、小さな女の子とともに、ウェーブのかかった金髪の美女に抱きかかえられている。
そんな俺達を難しい顔で覗き込むのは、あご髭をたくわえたダンディーな男性。
「はい。すみません……。ただ、あなたの子を産みたくて……」
「そうか。そうだな」
「……私は、午後の乗り合い馬車で別の街に行き……そこでひっそりと暮らそうと思っております」
「……! それは、ダメだ。お前を愛している。私の妻になれ」
「しかし、私では……。あなたのご迷惑に……私は、今の言葉だけで……もう何も……」
「お前はいい女すぎる……確かに、お前が今の私といても幸せになれないかもしれん。だが、お前と子供、両方を失うのは……つらすぎる。やはり考えなおしてくれないか?」
「……私がここに残れば、あなたのお立場が悪くなるはずです。……ただ男子であるこの子は私に育てられるよりも、貴族であるあなたのもとで育った方が……この子にとって幸せかもしれません……。この子をあなたにお任せします。よろしくお願いします」
第一話 異世界には魔法があった。
異世界に転生してから、一年が経った。
徐々にだけど、俺は自分が置かれた状況を理解し始めている。
この異世界での、俺の名前はユーリ・ガートリン。
母の顔はほとんど覚えていない。名前はリーナというらしく、父専属のメイドであったようだ。いつか会ってみたいけれど、居場所が分からないのでどうしようもない。
父は、ディアス・ガートリン。ガートリン男爵家の当主だ。
経営している領地の広さは東京都と同じくらいで、千五百人くらいの人が住んでいる街とその周辺の村を管理しているらしい。王都からも遠く、これといった産業もない。
つまるところ、田舎である。
そして俺は、男爵家の養子だ。生まれてから今まで、俺は屋敷の別館から出たことがなく、メイドに育てられている。
立場としては三男。兄が二人で姉妹はいない。
この兄達は、正妻さんの子供らしい。
らしい、というのは、俺が正妻や二人の兄に会ったことがなく、話に聞いただけだからだ。
ちなみに正妻さんや兄達だけど、メイド達の噂によると、かなり傲慢な性格で屋敷の人達も困っているとか。
まぁ……俺には関係ないんだけどね。
そんなことより今は……何よりも昼寝したい。眠いので。
「はふ。ねむ」
ずっと、寝ていることが許されるのは最高だなぁ。
ベッドに潜り込むと、俺専属のメイドであるローラが優しく布団をかけなおしてくれた。
彼女は親代わりで、色々と俺の面倒を見てくれている。
歳は十五~十六歳くらいかな? 女性の年齢は分からん。
しっかり者の美人さんで青い目が印象的。赤みがかった金髪を後ろで一つに纏めている。
「ユーリ様は、お昼寝が好きですねぇ。本当に手のかからないお子様で……少しだけ心配なくらいです。まぁ、早くから立って歩けるようになりましたし、問題ないと思いますが……。さすがはリーナ様のお子様ということですかね?」
「ぁ、ろぉーら、ほん」
「ハイハイ、本ですね。今日は、三人の英雄様のお話にしますか。ではでは、昔々とある王国が魔物により……」
うぅ……最高だぜ。布団でダラダラしながら、本を読み聞かせてもらえる。素晴らしいな。
昔読んだ異世界もののラノベだと、子供の頃から主人公がすごく頑張っていたけどさ~。
魔法とか? 商品開発とか?
確かに、お金は大事だし、沢山持っているに越したことはないけどね。
一度死んだ人間として言わせてもらえば、お金はあの世に持っていけない訳だし。
チート的な力や知識を持っているために仕事に追われたりするくらいなら、ちょいちょいと稼ぎつつ、どっかの田舎でグダグダのぐうたら暮らしをするのが一番だと思うんだよなぁ。
俺の考えはおかしいのだろうか?
とりあえず、今から二十五年後に異世界が崩壊してどうたらとか、神様が言っていたので、ほどほどには頑張るけど……今の俺は何も出来ないので昼寝が最優先だな。
まあ、異世界崩壊に関わりそうなこと以外は何もする気はない。
とはいえ……神様からもらった【超絶】というスキルがぶっ壊れすぎなので、変な厄介事に巻き込まれそうな予感はする。
そうなると、だ。
……とりあえずは、スキルを隠したいなぁ。このチートスキルがバレるのは避けたい。
力を隠せるスキルとかアイテムとかないかな?
あと、自分のレベルを上げたくない。経験値を稼がないように、ぐうたら生活をしないと……。
『【超絶】のレベルが4から5に上がりました』
ああ……また、これだ。
ここ数ヶ月で何となく理解したんだけど、スキルというものは繰り返し使うことでレベルが上がる仕組みのようだった。
そこで問題なのが、【超絶】の仕様である。
このスキル……常に発動しているので、俺がダラダラしているだけでも勝手にスキルレベルが上昇してしまうのだ。今の時点でも、気づくと上がっているから、なんとかしないと。
ステータスオープンと心の中で唱えると……。
ユーリ・ガートリン レベル1
HP 62/62 MP 90/90
攻撃力 130 防御力 105
スキル 【超絶レベル5】【言語対応レベル5】
魔法 【水魔法(小)レベル1】
俺個人のレベルは上がってないのに、スキルレベルだけ上がってしまっている。
さらに【超絶】のスキルレベルが上がると、基礎能力も上昇するようだ。
しかも、常にスキルを使っているにもかかわらず、HPやMPは減らない。今のところリスクがなさそうなのも恐ろしい。
ちなみに、【水魔法(小)レベル1】は、この異世界に魔法があることを知って軽い気持ちで念じたら覚えてしまった。
手から水が出てくるイメージを思い浮かべてみただけで、結構簡単に出ちゃってベッドが水浸しになってしまったのだ。まるで俺が漏らしたみたいで、恥ずかしかったのを覚えている。
その時以来……魔法を使ってレベルが上がったりしたら嫌なので、使っていない。
ま、今知りたいのは『どうしたら経験値を得たり蓄積したりしないように出来るか』ってこと、あるいは、『力を隠すスキルはどうしたら手に入るのか』ってことだし、魔法にはあまり興味がない。
ふはぁ……。眠くなってきた。
少し寝ようかと思った、その時……。
――ドタドタドタ、バン!
「ここか? 汚い血が混ざっている奴がいるのは!」
「おぉ、ここのようですね。バズお兄様。ハハ……まぁ、汚い血の奴はこのように寂れた別館にいるのが、お似合いではないですか」
いきなり汚い血とか、こいつら何者なんだ? それに汚い血ってのは……あぁ、俺の母さんが平民のメイドだからかな?
「ハハ、確かに、その通りだな。カールよ」
バズと呼ばれたガタイだけよくて頭の悪そうな奴と、カールと呼ばれた身長が低く、手足も短い奴がズカズカと俺のいる部屋に入ってくる。
多分、この頭の悪そうな奴らが噂の兄なんだろう。
なんというか、すごく残念である。
それに面倒だなぁ。さっさと帰ってくれないかなぁ。
「どのようなご用件でしょうか? バズ様、カール様……ユーリ様は今、お眠りになったばかりなのです。そっとしておいていただけるとありがたいのですが……」
ローラが二人の馬鹿兄にそれとなく注意する。
「メイドよ。下賤の者の血が混ざったような奴に、様を付ける必要などない。高貴な存在である我々が、わざわざ来てやったのだ。起きぬか。ほら」
バズとかいう方が俺の布団をグイグイと引っ張る。
俺のボーッとする時間を奪おうなんざ、いい度胸だな。
「おい、バズお兄様がわざわざ来ているのだ。起きろ!」
今度はカールと呼ばれていた方が、俺の髪の毛を思いっきり引っ張った。
おい、コラ! 引っ張るな! 痛いだろうが!
よし、いい度胸だ。俺の眠りを妨げた報いを受けるがいい。
魔法を使うか……? しかし、俺の力がバレるのは嫌だし、ローラに迷惑をかけたくないな。
となると、バレないような魔法を使うしかない。
この馬鹿兄二人を気絶させる魔法とか……気絶……スタンガンみたいに電気をあてて……。
ん~これだと、勘のいい人は俺が何かしたって分かるかもしれない。
そうだ。単純にこいつらの体調を悪くして、部屋から追い出せばいい。
例えばお腹を壊すような……あっ、便意をもよおさせるだけでも。
ん~人間の身体なんてほとんどが水だし、水魔法を応用すればなんとか出来るかもしれない。
まあ俺を怒らせた訳だから、最悪、失敗してもいいだろ。
俺は布団を引っ張っていた二人の兄の手を握ると、水魔法をイメージしつつ兄二人の身体に魔力を流していく。
すると、すぐさま、兄二人に影響が現れた。
グルグルグル……。
「う……ここは……私には空気が悪いみたいだよ」
「う……確かに、そのようですね」
顔を青くした兄二人がお腹を押さえつつ、内股で競うようにして部屋を出ていった。
部屋にはキョトンとした表情を浮かべるローラと俺だけ。
はぁ……。これで、存分にダラダラ出来る。
『レベルが1から2に上がりました』
『【隠匿】を取得しました』
『【水魔法(小)】のレベルが1から2に上がりました』
しまった……。とりあえず、ステータスオープン。
ユーリ・ガートリン レベル2
HP 110/110 MP 170/189
攻撃力 250 防御力 201
スキル 【超絶レベル5】 【言語対応レベル5】【隠匿レベル1】
魔法 【水魔法(小)レベル2】
俺の身体は兄二人を倒したと認識したのだろうか?
やってしまった……。
まさか、こんなことでレベルが上がるとは思わなかった。
それにしても、このステータスの上がり方はおかしい。
全ての値が軒並み上昇しているんですが……。
この世界だとみんな、これくらい成長するんだろうか?
例えば、攻撃力がすでに二百を超えている。
これはおかしいんじゃないの? 俺のやっていたゲームとかだと、レベル1って攻撃力10くらいなんだけど。
それと、さり気なく取得していたけれど【隠匿】ってスキルは何だろうか?
言葉の意味をそのまま受け取るならば、見つかったらヤバイものを隠すスキルのはずだが、それなら俺のスキルや能力を隠せるようになるんだろうか。
うーむ、分からん。
……ふは……ねむ……もう考えるのも面倒いなぁ~。
とりあえずレベルが上がってしまったのは仕方ないとして、【隠匿】ってスキルが手に入ったことを喜べばいいかな?
……それでは、おやすみなさい。
◆
その頃、男爵家の本館にあるトイレでは、二人の男が陰謀を企てていた。
グルグルグル……グルグルグル……。
「あイタタタ。なんで急に腹痛が……」
「うぅ……バズお兄様……。私もです。やはり、あの別館……。我らのような高貴な者には空気が合わないのかもしれません」
「イタタ……。決めたぞ。私が当主になったら、別館は取り壊して……あの汚らわしい者を追い出してくれるわ。イタタタ」
「うぅ……わ、私も協力しますぅ……お兄様、早く出てください!」
バズとカールの二人はこの日、一晩中、トイレに籠もることになったのだった。
◆
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