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5巻
5-1
しおりを挟むプロローグ
これは昔々の話である。
天界にもっとも知力に優れた、それは美しい天使がいた。
その天使の名前はアルカ・ファア・ルーシー。
アルカは多くのことを知っており、その知識量は神すらも超えていた。
それゆえ、アルカは夢見てしまったのだ。
神になることで永遠に生き続けて、知識を蓄え続け……全ての理を理解したいと。
アルカは知識欲に囚われたのである。
――神になる方法。
そのためには【全知】と【全能】の二つの力が必要であった。
アルカは、生まれつき所有していた【賢者】のスキルにより、【全知】の力を得るための条件は満たしていた。
しかしもう一方の力、【全能】は数百年に及ぶ修練を積んでも手に入れることが出来なかった。なぜなら、その力に到達するための唯一の条件である【超絶】のスキルを獲得できなかったからだ。
そう、アルカは気づいてしまったのである。
力――すなわちスキルとは、魂に刻み込まれるものであり、その容量には限りがあるという事実に。
つまり、自分はどんなに時間をかけて努力を重ねても、【賢者】と【超絶】を同時には魂の容量超えて取得出来ないのだ。
アルカは苦悩し、絶望した。
おそらく、神はいつの日かアルカのような野心を秘めた者が現れることを予期して、盤石な手を打っていたに違いない。天使が神を超え、自分達の地位が揺らぐことのないように。
それからしばらく経ったある日。
アルカは神に宝物庫の整理を頼まれた。
そこでアルカは、その宝物庫にあったあるものに目を奪われた。それは、神が所有する財宝の中では『金の林檎』と呼ばれるもので、その実を口にした者は不老不死の能力が得られると言われていた。
永遠の生命――。
それは、神への道を閉ざされたアルカの瞳には、またとない希望の光に見えた。アルカの内側から一度は諦めかけていた思いが再燃した。
気づくと、アルカは愚かにも懐に『金の林檎』を仕舞い込み、宝物庫から出ていた。
ところが、『金の林檎』を持ち出したことは、すぐさま神や天使達の知る事態となる。
案の定、アルカは自分を追ってきた神や天使達に囲まれてしまう。進退窮まったアルカは、彼らに捕まる瞬間、『金の林檎』を一口かじった。
すると、変化はすぐに現れた。
アルカの美しかった美貌はみるみるうちに崩れ落ち、肢体は無残に歪み果て、瞳は暗い闇へ閉ざされた。
――彼女は思った。
こんな筈ではなかった。私はただすべてを知りたかっただけなのに……。
もう一度、はじめからやり直したい。
私をそんな蔑んだ目で見ないで……!
痛い。
痛い。
痛い。
嫌だ、こんなの嫌だ……!
必ず――。
必ず、復讐してやる!
それから数百年。
神と天使達は、力を増幅させて変わり果てた姿となったアルカと死闘を繰り広げ、ようやくその体を拘束し地下監獄へ幽閉したのだった。
しかし、膨大な知識を有するアルカは知っていた。
地下監獄から抜け出し、下界へ逃げ出す方法を。
……あの方法を用いて地下監獄を抜け出せれば――。
世界を生贄に、力を手に入れて――。
私を見下し蔑んだ神と天使達を殺して天界を滅ぼしてやる――!
そして、アルカは『魔王』と名乗り、世界に降り立ったのだった。
第一話 騎士学校でのひと時
俺は、ユーリ・ガートリン。
クリムゾン王国のガートリン男爵家の三男として生を受けて十二年。騎士学校に入学して六カ月が経とうとしていた。
そんな俺には、岡崎椿としての前世の記憶がある。それは異世界崩壊を食い止めるため、神様にチートスキルを渡されて無理やり転生させられたためだ。
とはいえ、俺は正直なところ、この世界ではのんべんだらりと暮らしたいと思っていた。なぜなら、俺以外にも転生者が複数いることが分かったからだ。異世界崩壊を食い止めるという役目は、彼らに任せておけばいい。
しかし、俺の思惑に反して面倒事ばかりが襲ってくる。
こないだなんて、お父様からガートリン男爵家の次期当主に任命されてしまった。正妻さんの実家が、国家転覆の反乱に加わったのがきっかけだ。反乱は未遂に終わったものの、これを機に、正妻さんとその息子であるバズお兄様とカールお兄様まで、お父様はまとめて縁を切ることを決断した。で、残った俺が領主様を継ぐという……。
ふぅ、のんびりスローライフからどんどん遠ざかっていくよ……。
次期当主に指名されてからというもの、騎士学校入学と共になくなったはずの、メイドのローラとの勉強会が復活した。勉強会の内容は貴族の立ち振る舞いや礼儀作法、舞踏会でのダンスレッスン、領地運営に至るまで幅広く、厄介極まりない。
ちなみに、今は自室で家具を脇に退かしてダンスの練習中である。
「ワンツー……ユーリ様、もっと足を踏み込んで! 足に意識がいき過ぎて、腰が引けています。もっと堂々と」
ローラの刻むリズムに合わせながら俺はステップを踏む。
「はぁ……」
「ユーリ様。溜め息も仕舞っておいてください」
「……はい」
最近、ローラのスパルタ度が増している気がする。
しかし、ローラの万能感、半端ないな。俺の知らない間にダンスの勉強もしていたというのだから。
それから一時間ほど、ローラによるスパルタダンスレッスンは続いたのだった。
「くは……疲れたぁ」
いつもはあまり使わない筋肉を酷使したせいだろう。剣術の修業よりも疲労感が強い。
「ふふ。お疲れ様でした」
ローラが笑みを浮かべながらタオルを渡してくれる。
「ありがとう」
「少しずつですが、様になってきましたね」
「そうか? へっぴり腰過ぎて、恥ずかしいんだけど」
「それは、これから練習していけば何とかなりますよ」
「そうかなぁ」
「そうですよ。この前の舞踏会は隅で立っていただけですが、次に呼ばれた舞踏会までには会場の真ん中で堂々とダンスを踊れるように頑張りましょうね」
「えぇ……!? それは恥ずかしいって」
「いえ。ユーリ様が次期当主様としてしっかりしている姿を周囲に見てもらいませんと」
「やっぱさー。俺に次期当主は荷が重いと思うんだけどな」
「何をおっしゃいますか! ユーリ様ほど相応しい人はおりません!」
「……そうかなぁ……」
実はどの使用人に聞いても、ローラと同じ言葉が返ってくる。信頼されるのは嬉しい。だが、異世界崩壊を食い止めた後では、出来るだけラクに、楽しく、スローライフを送りたい。そう、切に切に願っている俺の野望は、貴族という過重労働を押し付けられた時点で、もはや破綻寸前である。
はぁ……俺は、一体どうしたらいいのだ。
ダンスの稽古が終わって、俺は汗を流すために風呂へやって来ていた。
それは木製の風呂だった。六人の男性が足を伸ばして入浴できるほどのサイズで、俵型の曲線デザインがとても綺麗だ。以前、執事のクランツの知り合いの木工店に依頼していたものが、つい最近完成したのである。店主曰く、風呂を作るのは初めてだそうだが、十分な出来だと思う。
俺は、ゆっくりと湯船に入っていく。
この風呂は、使用人達にも自由に使う許可を出している。だが今はちょうど誰も入っておらず、俺の貸し切り状態だ。ちなみに、この木製の風呂と同様のものをもう一つ作り、そちらは女風呂として活用している。
「ふひぃ……極楽極楽」
俺の唯一の幸福な時間である。
「ぐふふ……最高だぜぇ」
俺は独りごちながら、湯船で足をピンと伸ばして軽くバタつかせる。
先日釣りで稼いだお金は風呂を作るために全部使っちゃったけど、本当に良い買い物したなぁ……って、そう言えば、俺、金欠だった。
どうしようかな?
正直、屋敷にでっかい風呂を作った時点で、ほかに欲しいものはないが。それよりも問題なのは、聖具の修業を妖精の国の王女であるアリス様に見てもらう交換条件として、ケーキをワンホール用意しなくてはいけなくなっていることだ。
この異世界では砂糖の価格がかなり高く設定されているため、ケーキをワンホールも用意するとなると、今の懐具合だとなかなか厳しい。
やっぱり、もう一度、釣りにでも出かけて稼いでくるしかないかなぁ。
そんなことをぼんやり考えていると、風呂の扉が開いて誰かが入って来た。
「うぃ……坊主、入ってたのか?」
「あぁ……ディランか。仕事終わったのか?」
現れたのは俺に剣術を指南してくれている元冒険者のディランだった。俺に関わる仕事以外には兵士の訓練や屋敷の警備なんかも兼務している。
「おう。終わったぜ。ちょっと、風呂で汗流して酒だな」
「お酒はほどほどにね」
「分かってる。分かってる」
笑いながら答えるディランに、俺は疑いの眼差しを向ける。
「本当かな? お酒の飲み過ぎは身体に良くないよ」
「分かった。分かった。気をつけるよ」
本当に分かっているのだろうか。半信半疑の気持ちでいると、ディランが湯船に入って来た。
「うぃ……最高だな、この風呂は」
「ハハ、俺に感謝しながら入るがいい」
「感謝感謝だぜぇ」
「いい加減だなぁ。あ……そうだ! 今度また釣りやろうぜ。今俺、財布がすっからかんなんだ」
「俺は構わないぜ? けどよ。坊主が作った『給湯器』っていう魔導具の技術を売ったら金になるんじゃないか?」
「ん? あぁ……あれね」
「すげぇじゃねぇか。この『給湯器』って魔導具は、ボタンに触れただけで冷たかった水が数分でお湯になるんだぜ?」
「ん……いいや。面倒臭いし」
この世界にない『給湯器』なんて魔導具を他の転生者が見たら、一発で俺が転生者であることがバレちゃうだろ。
以前に作った『フィッシュアンドチップス』の場合は、この世界の技術水準でも違和感なく受け入れられるだろうと思い、金策に利用したのだ。
まぁ……実際に他国には同じような料理があったらしいし。
余計な発明をして注目など浴びたくはない。まして他の転生者に関わるなんて、まっぴらごめんだ。現時点でニールだけでも面倒なのに……さらに厄介事に巻き込まれそうではないか。これ以上、俺の怠惰な田舎ライフが脅かされる要素には極力触れないでおきたい。
それともう一つ。
この異世界に来て、いろんな場所を旅して思ったことなのだが、ここはとにかく自然が豊かで美しいのだ。そう、まさしく至るところ絶景しかない。
人間の生活は、技術の進歩によって確かに豊かになる。
しかしその反面、便利な物が増えすぎると、やがて人間はそれなしではいられなくなる。俺の前世の世界がそうであったように、行き着く先は息苦しいコンクリートジャングルだ。美しく、豊かな大自然に溢れたこの世界を、俺はそんなふうにしたくない。ちょっと、大袈裟かもしれないが。
「坊主に考えがあるなら、まあいいが」
「あぁ……それでいいんだ。俺にも、いろいろ考えがあってな」
この魔導具の存在は、お父様にも気づかれないようにしているし、知っている者はディランを含めたごくわずかな使用人だけである。
「それで、釣りは今週か? 騎士学校が終わった後でいいな?」
「そうだな。それならローラのスパルタ勉強会もサボる口実が出来るし」
「はは、坊主らしい理由だな。まぁ……坊主にも息抜きがあったほうがいいと思ってたし。俺から誘ったことにしておいてやるよ」
「ほんとか? ありがとう。頼むよ」
それから俺は湯船の中でのぼせそうになるまで、ディランと他愛のない話をしていた。
「眠てぇ」
俺は騎士学校の屋上のベンチにゴロンと横になった。
春も深まって暖かくなってきたので、今年もまた昼の時間は屋上で過ごす日が多くなるだろう。
「いい天気、いい天気」
空には雲一つない。昨日までの雨が嘘のように青く澄み渡っている。その空を可愛らしい緑色の小鳥が飛んでいた。視線を海に向けると、木の葉のように小さな船がゆっくりと横断していくのが見えた。
俺は大きく欠伸をする。幸せな気分で胸がいっぱいだった。俺は今、この絶景を独り占め出来ているんだ。
そうしてのんびり空と海を眺めていると、突然、屋上の扉が開いて誰かがやって来た。
「やっぱりここかいな」
「ふふ」
「なんだ? ここは入ってもいいのか?」
俺は起き上がり、声のするほうへ目を向けた。
そこにいたのはヘレンとロバート、そしてノーマンの三人だった。
「ダメなんやないかな? 生徒は。鍵掛かってるしな」
「ロバートが鍵抜け出来るのは分かるんだが、ユーリはどうやって?」
「ふふ、ユーリなら鍵の一つや二つ、簡単に開けられるでしょう」
彼らは俺と一緒に騎士学校に通っている友人達で、最近はよく四人で昼飯を食っていた。
「ん? 来たのか」
彼らの元気そうな姿を見て、俺は笑みを浮かべる。
ロバートとノーマンは、カーニバルの際に起こった反乱の一件で騎士学校を三週間程休んでいた。
ノーマンの父親は、その騒ぎに関わっていた責任の一端を負い断罪された。しかし、ノーマンは自ら体を張って反乱を止めようとした功績が明らかになり罪を逃れることが出来た。そして今は、『クリムゾンの神剣』の二つ名を持っているノア・サーバント様の内弟子となり、彼の家で暮らしつつ騎士学校に通っている。
ロバートは反乱阻止の功労者でもあるし罪に問われることはなかったが、事件の落としどころが完全に決まるまでは、情報が外部に漏れないよう軟禁されていたのだとか。
王国は、今回の反乱が賊によって洗脳された貴族達が起こしたと突き止めていた。そのため、見せしめとして主だった領主達とその親族は裁いたものの、それ以上の犠牲者が増えるのを好ましく思っていなかった。そうした思惑もあり、ロバートの父親も新領主の下で軽い奉仕活動に従事するという罪で許されている。ただ、父親が領地に帰ってしまったため、ロバート自身はヘレンのアルバイト先で働きながら騎士学校の近くで下宿していた。
「ユーリ、授業終わったらいきなり消えるんだもん。びっくりしたよ」
ヘレンが口を開く。
「あぁ……早く屋上でのんびりしたくて、ちょっと急いでしまったんだ」
「ちょっとってレベルではなかったと思うけどね」
「はは。そんなことどうでもいいじゃないか。おっと、今机と椅子を出すよ。【ロックブロック】」
俺はレンガ造りの屋上の床に触れながら魔法を唱える。すると、円筒形のブロックがせり上がるように現れた。
「魔法の詠唱から発動まで一秒とかからないのか……」
少し呆けた表情で俺の魔法を見ていたノーマンが呟く。
「ユーリの魔法にいちいち驚いてたらきりないで?」
ロバートがノーマンの肩をポンポンと叩きながら諭した。
それから俺達は弁当を取り出して食べ始めた。
「それにしても、久しぶりに晴れたよな」
俺はサンドイッチに食いつきながら、ぼそりと言う。
「ほんと良かったよ。私の家なんて特に浸水しやすい位置にあるから、家の中が水浸しになっちゃって大変だった」
「いや、どこも一緒やで。今回のアクア・マルタは大変やって。街中水浸しやった」
ヘレンとロバートの言った通り、ここ二週間はかなりの雨が降っていた。この異世界にも梅雨みたいなものがあるらしい。
アクア・マルタとは海から吹く風や大雨に満潮が重なって、水面が異常に上昇する自然現象のことだ。詳しくは専門家ではないので分からないが、王都ベネットはもともと水面までの距離が近いため、この時期になるとアクア・マルタが発生する可能性が高い。そうなると街中はすっかり水に浸かってしまう。
「噂には聞いていたが、本当に街中が水浸しになるなんてな」
ノーマンが驚きの声を漏らした。この国に来て初めてのアクア・マルタだったらしい。
同じく俺も驚いた。街中の店へ買い物に出かけるだけでも、長めの長靴を履いて水がある場所を避けて移動しなくてはならず大変だった。
俺が回想していると、ヘレンが何やら思い出したらしく話を振ってきた。
「あ……ユーリに言い忘れてたことがあったんだ」
「ん? なんだ?」
「クリスト先生からの託けがあってね。ユーリは昼食後に学長室へ来い、だってさ」
「クリストが……学長室に来いだって? 何それ、嫌な予感しかしないんだけど」
一体なんだろう? 俺は首を傾げた。その理由について思いを巡らせてみるが、何も心当たりがない。とにかく、俺にとって悪いことなのは確かである。
逃げる準備とかしておいたほうがよいだろうか?
「なんや、ユーリ。悪いことでもやったんやろ」
「む……俺は生まれてこのかた悪事なんて働いたことは一度もないぞ?」
ロバートが露骨に決めつけてきたので反論する。
「一発で嘘だと分かる返事だな」
すかさずノーマンが呆れた様子で突っ込みを入れた。
「ふふ。確かに」
「ハハ。それはそうやなぁ」
我が意を得たりという表情で、ヘレンとロバートは顔を見合わせて笑った。
昼休みも半分が過ぎた頃。
昼食を終えた俺は学長室の重々しい扉の前まで来ていた。
はぁ……気が乗らない。このまま学長室に行かず逃げてもいいだろうか?
俺がノックするのを躊躇していると、突然、扉が開いた。
「さっさと入って来んか。小僧」
「へ? ノア様?」
俺は、ノア・サーバント様に引っ張られるように学長室の中へと引きずりこまれた。
彼は『クリムゾンの神剣』という二つ名を持ち、王国で騎士団長をやっているはずだが。
そこにはすでに俺と同じ転生者であるニール・ロンアームスの顔もある。
「ユーリ? 君も呼ばれていたのか」
「あぁ……ニールもか」
俺とニールが呼び出されたわけか……。この組み合わせが指名されて、いい思い出はないな。
「ほほ……お主ら二人を呼び出したのには理由があるんじゃ」
ノア様はそう言いつつ学長席に座る。
「その前に、ノア様はなんでここに?」
「ふぉふぉ……前任の学長が、ちょっと遠くに行ってしまってな」
え……なんだ、その……失言したコメンテーターがすげ替えられた時のような定番の理由は……。
「それでな、王国の未来を担う人材発掘と育成のために儂が後任の学長になったというわけじゃな」
「な……ノア様は騎士団長としてお忙しいのでは?」
「ほほ。それは心配いらぬよ。もともと、預言で死を勧告されとった身じゃて。ほとんど、引き継ぎ済みじゃ。そうとなれば、じゃ。ここは若き王子のためにも儂の後継者となる人間の育成に力を入れるべきだと国王に進言したまでよ。一応、形だけはまだ騎士団長の役職には就いておるがな」
「はは。そうなんですか……」
ノア様もお歳ですし、学長なんて仕事は他の人に任せて隠居でもしたらどうですかね? と、一瞬口にしそうになったが、殺されそうなので止めておく。
「さっき聞いたばかりで、実に驚いたよ。これで騎士学校の風紀も正されるな」
ニールは少し笑みを浮かべながら言った。
何コイツ? 優等生なの? まじめ君なの?
「そもそも風紀が乱れてんのは貴族クラスだけだから。一般クラスはクリストによる強権的な政治支配で問題ないし」
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