上 下
57 / 57

五十七話 スカート議論。

しおりを挟む
 翌日。

 ここはアリアの自室。

『んーん』

『ノヴァ、じゃあ行ってきますね』

『……うん。行ってらっしゃい』

 俺はベッドの中でぬくぬくしていた。

 対してアリアは俺の頭を撫でると、魔法学園の鞄を持ってアリアの部屋から出て行ってしまった。

 ふぁー眠い。

 朝からお疲れ様だな。

 朝のリナリーによるいじめ……違った稽古まではまだ時間があった。

 マチルダの一件以来、リアに危険が及ばないための配慮か魔法学園や教会への馬車による送り迎えはリナリーが御者を務めるようになっていた。

 リナリーとの稽古はアリアを送って帰ってきた後になっているので、、俺は二度寝を楽しむ悦を楽しむことができるようになっていた。

 ふぁー素晴らしい環境である。

 んーん。



 んー。

「にゃん……にゃん……にゃん」

 んん……ん?

「にゃん……にゃん……にゃん」

 くはぁー。

 俺が目を覚ますと、ご機嫌な様子のリナリーが『にゃんにゃん』と言いながら俺のもふ毛を撫でていた。

「あ……ようやく起きたのですね。ほんと怠け者ですね」

「んー」

「何ですか。全く、また寝ようとしているんですか?」

 リナリーはアリアに借りたのだろ【ハーネットの指輪】を付けた右手で俺の頭を撫でる。

 すると、寝ぼけた俺の頭の中にリナリーの声が聞こえてくる。

『起きてください。これから楽しい楽しい稽古の時間ですよ』

『んーふぁー今日もやるのか?』

『ふふ、体を鍛えておいて損はありませんよ』

『まぁ……そうか』

『今日は【変身】状態で稽古をするんでしたよね。早く準備してください』

『あぁ……そうだな』

 俺はリナリーの膝の上から飛び降りる。

 そして、絨毯の上で座る。

【変身】の【クラウンズスキル】には大量のマナがいる。

 俺は集中し……精神統一するため、ふぅーっと長く息を吐いた……ところで。

『……あのリナリーさ。別に見てなくていいんだけど』

 俺はリナリーの視線が気になって声を掛ける。

 すると、俺をまっすぐ見ながらリナリーが何食わぬ顔で答えてくる。

『私のことは気にせず』

『いや、気が散るんだけど』

『どんな状況でもスキルを使えるようにして置かないと。あ……ほら、早くしないと日が暮れてしまいますよ』

『む』

 マナを俺の全身に纏わせ、心の中で【変身】と呟いた。

 すると、全身を取り巻くマナが白く染まってホイップクリームのようにもこもこっと膨張を始める。

 その白く膨張したマナに俺の視界が塞がれて何も見えなくなってしまう。

 それでも、すぐに人間の体となって視界も回復した。

 この【変身】した後の容姿は俺の成長にとも変わっていくようなのだ。

 初めて【変身】を使った時は幼稚園の低学年くらいの体のサイズだったのだけど、今はアリアとほぼ同じ大きさにまで体が成長していた。

 ちなみにマチルダとの戦闘後……俺の保有できるマナ量が多くなったようで【変身】を使用してマナが大量に消費されてもアリアのマナを回復させるだけのマナが残るようになった。

 つまり、安心して【変身】を使用してできるようになっていた。

「オホン……ゴホ……まぁまぁまぁーこの【変身】を使うと毎回変な感じがするな」

 俺は咳払いを一度すると、リナリーに視線を向けた。

 ちなみに【変身】を使った後……つまり人間の姿ならば、だいぶしゃべれるようになっている。

 まぁ……文字の読み書きはまだまだだし、猫の状態では言葉を出すこともうまくいっていないんだけど。

「ふふ、すごく可愛いですよ」

「そうか……うん。早く胴着をくれるか?」

「あぁ。そうでしたね」

 裸の俺はリナリーから胴着を受け取ると、腕を通していく。

 そう言えば、俺にはこの胴着以外のズボンが無いんだよな。

 スカートはもう嫌だ。

 そろそろ、涼しくもなって外に出ても大丈夫だからズボンを買いに行きたいところである。

「そういえば、今度ズボンを買いに行きたい」

「え? 何でですか? 服ならアリア様からいっぱい貰ったではないですか?」

 俺がズボンを欲しいと言うと、リナリーはキョトンとした表情で首を傾げた。

「いや、スカートを履くのは恥ずかしいからな」

「スカート凄く似合っているのに、勿体ないですよ?」

「……いや、いつ俺が似合う似合わないの話をしていたか?」

「そうですか? そこらの女性よりも可愛いですよ? やっぱり勿体ないです」

「いくら勿体なくても俺は男でスカートは恥ずかしいの」

「スカートが女の履物というのは偏見ですね。男だって履いてもいいのです。安心してください。恥ずかしがる必要はありません」

 リナリーはそう断言して俺の肩に手を乗せた。

 何だろう? 話がかみ合っていない感じがする。

「うん。偏見なのは……そうかも知れないが、嫌の。必要ないと言われても恥ずかしいのは恥ずかしいの」

「そんなにスカートが嫌なのですか? そんなに可愛く似合っているのに……本当に勿体ないですね」

「似合っていても嫌なもんは嫌だ」

「ふぅ頑固ですね。ズボン買ったとしても、この屋敷にいる間はスカート履いていないといけないんですよ?」

「え? 何でだ?」

 リナリーが言ったことが理解できなくて俺はきょとんした表情でリナリーに視線を向ける。

 すると、リナリーは何を当り前なことを言っているんだといった表情になった。

「当り前ではないですか。アリア様の部屋に男性が出入りしているのは、よろしくありません。アリア様の部屋に入るのなら、格好だけでも女性の服を着てカモフラージュしませんと」

「ぐぬぬぬ。いや、それでもいいからズボンが欲しい」

「そうですか。今度買いに行きますか」

「うん。そうしたいな」

「わかりました。さて、稽古に行きましょうか」

しおりを挟む
感想 5

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(5件)

ななし
2020.12.26 ななし
ネタバレ含む
太陽クレハ
2020.12.26 太陽クレハ

パチ様。
感想、ありがとうございます😊

その通りなんですよね。
相殺されている。

確かに使用人のミスは主人のミスなんですが、主人公はアリアはアリア、リナリーはリナリーと切り離して考えているのではないでしょうか。

あと……主人公は本人がコンプレックを感じほどに目付きが悪く他人から怖がられていて、他人から受けた恩を強く意識する傾向があるんでしょう

解除
きんお(僧侶)

ほんわかする、素敵なお話です😊‼️
しかも所々バトルもあって、最高です😊
これからも更新、どうぞよろしくお願い申し上げます😊🌷🌷🌷

太陽クレハ
2020.12.26 太陽クレハ

きんお(僧侶)様。
ご感想ありがとうございます😭。

正直、諦めてしまいそうでした……。もう少し更新頑張ってみます。^ ^

解除
ろっく
2020.12.24 ろっく

1話目の最初は、ゲームセンター
火事で焼け落ちたのはボーリング場。
………ボーリング場内のゲームコーナー?

太陽クレハ
2020.12.24 太陽クレハ

ろっく様。
ご指摘ありがとうございます。
ゲームセンターに修正しました。_φ(・_・

解除

あなたにおすすめの小説

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。

SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。 サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

婚約破棄されて満足したので聖女辞めますね、神様【完結、以降おまけの日常編】

佐原香奈
恋愛
聖女は生まれる前から強い加護を持つ存在。 人々に加護を分け与え、神に祈りを捧げる忙しい日々を送っていた。 名ばかりの婚約者に毎朝祈りを捧げるのも仕事の一つだったが、いつものように訪れると婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄をされて喜んだ聖女は、これ以上の加護を望むのは強欲だと聖女引退を決意する。 それから神の寵愛を無視し続ける聖女と、愛し子に無視される神に泣きつかれた神官長。 婚約破棄を言い出した婚約者はもちろんざまぁ。 だけどどうにかなっちゃうかも!? 誰もかれもがどうにもならない恋愛ストーリー。 作者は神官長推しだけど、お馬鹿な王子も嫌いではない。 王子が頑張れるのか頑張れないのか全ては未定。 勢いで描いたショートストーリー。 サイドストーリーで熱が入って、何故かドタバタ本格展開に! 以降は甘々おまけストーリーの予定だけど、どうなるかは未定

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。