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五十三話 夏から秋。
しおりを挟む目付きが悪いというコンプレックスを抱えながらも普通に高校へと通っていた俺……天童航(てんどうわたる)は、ある日人助けをしようとして逆に死んでしまった。
死後、なぜか異世界に猫の姿で転生した俺はなんやかんやあって教会から聖女として認められた少女……アリア・ファン・ローベルと出会い。
伯爵家の貴族令嬢だと言う彼女の部屋に転がり込んだのだった。
そして、異世界に転生してから七カ月が経とうとしていた。
転生して俺が暮らすことになったクリスト王国の周辺にはちゃんと四季があって、今は夏が終わり秋に入っていた。
唐突ですまないが、俺はこの異世界に転生してからというもの夏が心底嫌いになっていた。
一切外に出る気が起きなかった。
ほんと嫌い。
もう二度と来ないでほしい。
嫌いになったのは、俺が猫になったことに原因があった。
つまるところ、猫となり全身に白銀のもふ毛に覆われ、周囲の気温の上昇とともにそのもふ毛で暑さが増し増しなのだ。
イメージとしては、夏に毛皮のコートを着て歩いているのと同義だろう。
俺は毛を全部剃ろうと考えたが……。
やっぱりアリアとリナリーに全力で止められてしまった。
仕方ないので……魔晶石にマナを過度に注入することでできるヒーライトを売ってコツコツ貯めていたお金を使って【アイスプレート】という魔導具を買った。
その【アイスプレート】は言葉通り金属の板を冷やすという単純なものであったが。
うむ……すごく気に入っている。
単純そうな作りに見えるがやはり魔導具は高くて、ほとんどお金を使ってしまったが、後悔はまったくない。
今はだいぶ涼しくなってきたが、それでも日中はその金属の板の上にほとんどいた。
ちなみに夏真っ盛りの時は一切動かなかった。
「うぅ……ふはぁー」
【アイスプレート】の上で俺は大きく欠伸して体を伸ばした。
そして、再び伏せて眠る体勢に戻る。
……。
最近、食って寝るを繰り返す飼い猫ライフを全く苦に感じなくなってきているよなぁ。
もちろん、リナリーからの早朝稽古(いじめ)と言葉の練習は続いていたが、一日の予定はそれだけである。
この生活、だいぶ気に入っているのだけど。
俺としては……今の自堕落してしまった生活スタイルをどうにか改善しなくてはと思った。
なので、まずは無くなったお金を何とかしたいと考えた。
【アイスプレート】の購入金はもともと旅の資金だったのだ。
最近、忘れがちになっていたが……。
せっかく異世界に来たのだから、この世界の美しい絶景が見てみたい。
自堕落を脱却し、旅に出るためにお金を稼ぐ。
そう再度決意し、どんな方法で金稼ぎするのか考え始めた。
ちなみに、今までやっていた魔晶石へマナを過度に注入することでできるヒーライトを作り売って、お金を得るという方法もマナがいっぱいある俺としてはいいが……リナリーに言わせるとかなり非効率であるそうなのだ。
ただ、他の金稼ぎの方法となると、なかなか思い浮かばなかった。
始めは現代日本での知識が役に立たないかと思ったのだが、唯一役に立ちそうなのが銃マニアの知り合いから教えてもらった拳銃や火薬の作り方なのが恐ろしいところである。
ちなみに、その知り合いは剣の道場の同門で、警官になって立派に働いているので危ない人という訳ではない。
いや……教えてもらったのは中学生の時だから、拳銃の作り方とかを中学生に教えるのは今に思うと十分に頭がおかしいのかな。
まぁ……ただ、この異世界で生活をしてみて機械技術が発展しているように思えないんだよな。
だとすると、人の手で金属加工することになるんだろうが、精度を出すのに時間が掛かるだろうし、時間が掛かるとすると例えば拳銃一丁の値段が馬鹿みたいに高くなる。
拳銃一丁の威力や費用を含めて考えると、この異世界の魔法や魔導具に太刀打ちできる気がしないんだよ。
それで、あと料理は一人暮らしだったし、料理屋のバイトもしていたから人並みにはできるけど。
そこでネックになってくるのは今の俺は猫であると言うことなんだよ。
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