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五十二話 その後に。

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「ん……」

 早朝、俺は窓から差し込んでくると朝日が眩しくて、目を覚ます。

 すると、俺を抱き枕にしているアリアの寝顔が目に入ってくる。

 アリアは規則的に寝息を立てていた。

 うむ……よく寝ているな。

 だいぶ顔色もよくなってよかった。

 俺はアリアの寝顔を眺めながら、あのピオニール競技会が閉幕してからのことを思い出していた。

 あの悪魔……ディレーク・デ・デンタ・クライムの出現は王宮内でも大問題となったそうだ。

 それで、アリアの代わりにリナリーが王宮や騎士団、教会などに出向いて聴取された。

 その時リナリーが聞いたことを俺が又聞きしたのだ。

 まず、マチルダ……マチルダ・ファン・シルベスの自宅であるシルベス侯爵家に騎士団と教会によって調査されたそうだ。

 その調査でマチルダの部屋にて悪魔召喚の魔法陣が記載された本が発見された。

 ただ、その本を検めた教皇様は悪魔召喚の魔法陣に違和感があると証言した。

 あのディレークは英雄によって大昔に封印されたと【聖書】には記載があって……封印を解かずして悪魔召喚の魔法陣が使用できる訳がないのだと。

 そこで、ディレークの封印を解いて、悪魔召喚の魔法陣が記載された本をマチルダに渡した黒幕がいるというのが王宮や騎士団、教会の見解であるそうだ。

 ただ、その黒幕に繋がる証拠探しも難航しそうなのである。

 もちろん、その黒幕へと直接繋がるディレークに焦点をあててディレークが封印されたと言われる地に出向いての調査と俺が千切ったディレークの左腕の解剖が進められるそうだ。

 ただ、他にあるかというとマチルダなのだが……マチルダもディレーク同様に姿を消している。

 それに加えて気分が悪くなるのだが……マチルダの家族および彼女の屋敷で働いていた人々は魂を抜かれたように外傷なく死んでいて、屋敷では死体が無数に散らばっていたそうだ

 ……さらに地下室では調査に入った騎士達が膝を付いて吐いてしまったほどの無数の死体を切り刻まれた惨劇が広がっていたんだとか。

 それを聞いた時、何が目的か分からなかったのだが、悪魔は人間の魂を糧としてマナを生成できるのだとか。

 ディレークやマチルダの後ろで糸を引く黒幕に繋がる調査を騎士団や教会では続行するとのことだ。

 黒幕がどういう奴なのか分からないが……ディレークは危険な奴なので……騎士団や教会には頑張ってほしいな。

 ほんと俺の関わらないところで退治されてくれたら嬉しい。

 あ、ちなみに俺は寝込んでいてピオニール競技会の三日後にようやく目覚めることになった。

 ただ、マチルダを追い払うために凄まじい力を使ったアリアは一週間ほど寝込んでいた。

 本来、あのマチルダを追い払ったアリアの力は俺と【エンゲージ】というマナを共有する魔法を使用している状態で使いたかった力の一つだったとか?

 俺が倒れていなくマナを貸せていたらと悔やむが……あの状況では仕方ないだろう。

 アリアはマナが枯渇状態のままですごく心配したが……先日ようやく目覚めたのだ。

 あのアリアの力は結局何だったのか……まだ聞けずにいた。

 俺がそんなことを考えていると、アリアがモゾモゾと動き出した。

「ふぁーノヴァ、おはようございます。よっと」

 ベッドで起き上がった俺の頭をアリアは【ハーネットの指輪】を付けた右手で撫でた。

 すると、【ハーネットの指輪】の指輪の効果によってアリアの声が俺の頭に聞こえてきた。

『おはようございます』

『おう、おはよう。今日は朝から暑いなぁ』

 俺はアリアに愚痴を零しながら、もふ毛にこもった熱をとるように体をブルブルと震わせる。

 それを見た小さく笑ってアリアはベッドの上に腰かける。

『ふふ、もう夏に入りますからね』

『そうだな。アリアは今日から魔法学校に行くのか?』

『はい。もちろん……残ってしまいましたね……傷』

 アリアは俺の胸の辺りにできてしまった黒ずんだ傷に触れると、表情を曇らせた。

 この傷と言うのはマチルダからアリアを守る際にできてしまった傷が黒く残ってしまったのだ。

 俺からすればただの傷で気にすることないと思うのだが、自分の所為で傷を負わせてしまった自責の念があるのか傷に触れるたびにアリアは表情を曇らせていた。

『ふ、俺からしたらアリアの方が心配だけどな。病み上がりなんだからあと一週間くらいのんびりしていればいいのに』

『いえいえ、私が倒れてしまったのは病気という訳ではなく……マナの枯渇が原因ですから』

『アリアが元気ならいいのだけど。まぁ……あの化け物のようになったマチルダを追い払うほど強力な力だ。代償はあるよな』

 あの場面、もしアリアがマナを枯渇するまで使いマチルダを追い払っていなかったら……あの場にいた連中は死んでいた。

 アリアは天井を見上げた。

『あれは【バーハネルの歌】です』

『【バーハネルの歌】?』

『はい。ちなみに、今でこそ魔法は自身の適性と魔法原理の理解があれば使えることが解明されて一般に広がっています。よって、今では廃れてしまったのですが、大昔は特殊な歌によって魔法を使っていて……【バーハネルの歌】もその一つです。【バーハネルの歌】は私のお母様方の家に代々伝わる歌で……私もお母様から教えてもらいました。大量のマナを引き換えに邪悪なものを払い、浄化する歌だと聞いていました。……ただ、あそこまで効果があるとは思っていませんでしたけど』

【バーハネルの歌】の説明してくれているアリアの横顔はどこか寂しげに見えた。

 ……アリアの母親は、アリアが十歳の頃に遠出した際に馬車の事故で死んでしまったそうだ。

 もしかしたら、その歌が母親を強く思い起こさせてしまったのか……。

『へーアリアのお母様とはすごかったんだな。じゃ……そのお母様がアリアの目標なんだな? アレ、フランダル様だったか?』

『ふふ、両人ともに目標ですよ。いっぱい勉強しなくてはなりません』

『欲張り過ぎだ。今日はゆっくり休んだらどうだ?』

『むう……私は欲張りなんです。さぁ魔法学園に行く準備をしなくてはいけません』

 アリアは起き上がって、魔法学園に行く支度を始めるのだった。

 対してアリアが着替えを始めるのを察した俺はベッドから起き上がって一旦アリアの部屋からでた。

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