神様の気遣いで転生したら聖女のペットに……。明日からは自立のため頑張って働こうと思う。

太陽クレハ

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四十八話 狂気。

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 ディレークがその場から居なくなって、追う手段にない俺達の視線は短剣が突き刺さるマチルダへと必然的に向かった。

「があぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁ……」

 口元が塞がれて籠らせているが、マチルダから……うめき声が聞こえてくる。

 そして、よく見ると短剣で刺されたところを中心に肌の色が黒く変色していっているようだった。

 彼女はどう見ても苦しんでいるんだが……あのディレークが切り札と言っていたこともあり、俺は対処に迷う。

 それは、ワンダも同じようでマチルダの方に手を伸ばしたまま固まって、躊躇している。

 俺とワンダが躊躇する中、アリアが一番にマチルダの方に駈け出した。

「マチルダ様! だ、大丈夫ですか!」

「ま……アリア」

 ワンダから引き止めるようなアリアへ声が掛けられた。

 しかし、アリアは止らず、マチルダの元へと駆け寄った。

「あのマチルダ様……その短剣……【ヒール】を掛けながら抜きますので……横になってもらえますか?」

「ううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅっぅうぅぅぅぅうぅぅぅ」

 ただ、アリアの呼びかけに、マチルダが答えることはなかった。

 苦しげにうめき声を上げるマチルダは暴れようとしているのか、拘束している器具がギシギシと軋み、今にも壊れてしまいそうである。

 短剣が刺されたところからの体を黒く染めていく浸食が広がり、綺麗だった金色の髪が赤く染まってしまう。

 更には……。

「きゃ……あ、つい」

 近寄っていたアリアを、マチルダの体から突然に発せられた炎が襲った。

 小さくやけどした手の平をさすりながら、アリアは後ずさりする。

 あの短剣だ。

 マチルダを変えてしまっている元凶……短剣を何とかマチルダから取り除くことができれば……。

『アリア、離れていろ。俺が短剣をとる』

『お願いします……きゃ……【シールド】』

 アリアに言葉を掛けると、俺は走りだした。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 その時、うめき声を大きくしたマチルダからは無差別のバスケットボールサイズの火の玉が飛んできた。

 アリアはその火の玉を【シールド】とかいう魔法で透明な板を作り火の玉を防いでいる。

 そのアリアの横を通り過ぎて、俺はその火の玉を躱しつつマチルダに近づいていく。

 拘束具が壊れない内にどうにかしたい……。

 マチルダがジタバタと暴れまわって壊れてしまいそうな拘束具に俺は視線を向ける。

 そして、炎を躱しつつであったので遠回りになってしまったのだが、マチルダの元にたどり着く。

「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 俺がマチルダの元にたどり着いた時には、彼女の体は完全に黒く染まって……。

 目隠しが外れ、赤く染まった瞳がぎょろぎょろとへんな方向を見ている。

 ……いよいよ、やばくなってきた。

 てか、アリアの治癒魔法で助かるのか?

 俺は飛び上がり……マチルダの肩に飛び乗る。

 後ろ足で肩にしがみ付いて、胸元に刺さる短剣の柄に両前足を伸ばした。

 短剣の柄に両前足が触れると……刺すような痛みに襲われる。

 そして、俺の両前足から何か嫌なものが流入してくるような不快な感覚に囚われる。

 視線を落として前足を見ると黒く浸食されているようだった。

 そして……。

『大嫌い』『憎憎しい』『死ねばいいのに』『忌まわしい』『厭やらしい』『苛々しい』『胸糞が悪い』『お前さえ生まれなかったら』『死んでよ』『なんで、お前が居るから』『死んで』『死んで』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』『死』……。

「……っぐぐぐ」

 俺の頭の中に凄まじい悪意が流れ込んできた。

 短剣から手を放して、マチルダから離れる。

 そして、まだ安全地帯とは言えない場所で伏せた状態で動けなくなってしまった。

 なんだ? 俺の前足が……黒く。

 なんだ? なんだ? 何がどうなって?

 ……気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 うわあぁぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁあ!

 心臓を掴まれたような恐怖から錯乱状態になって……気を失った。

 そんな俺を誰かが抱きかかえて、その場から離れた。


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