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四十四話 鬼畜設定。

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 ブライアは両手に持っていた短剣に風が集まって渦巻く。

 その短剣を振りかぶり、ゴーレムの首の部分の部分にあった鎧の隙間へ突き刺した。


『おお。やるな。もしかしてこれで終いか?』

 俺はブライアの攻めに目を見開いて驚き、言葉を漏らす。すると、リナリーが小さく笑う。

『ふふ、それはどうでしょう? 対策していると思いますが』

 実際にリナリーが言った通り、ブライアが短剣を突き刺すとガキッと固い物同士がぶつかり合うような音が鳴った。

 そして、短剣の動きが止まって……ブライアは何とか短剣を抜こうとしたが抜けずに眉を潜める。

『……く、なんで』

 ごごごごご……。

 ブライアが短剣を抜くのに手間取っていると、今度はゴーレムの拳が自身に迫る。

 そのことを察したブライアは抜けなくなった短剣二本を諦めて、ゴーレムから飛び降りて距離をとった。

 ただ、ブライアが距離をとったところで……ガコンっと音が鳴ってゴーレムの口元が開いた。

 何が起こるのか? っと俺はゴーレムの動きに注視する。

 ゴーレムの口にノズルのようなものが出てきた。

 そのノズルの先から高圧力の水弾が放たれた。

 ゴーレムの放った水弾はブライアを追尾するように放たれる。ただ、ブライアもなんとか舞台の上を素早く駆けて躱していく。

 戦いは三分ほど膠着状態になった。

 しかし、結局ゴーレムを破壊する決め手がなかったブライアの方が力尽きてしまい、水弾によって舞台の外に打ち出されてしまった。

『救護員! ブライアの救護を!』

 倒れてしまったブライアを抱きかかえたワンダが険しい声を上げて、救護員に指示を出した。

 救護員と思われる白服の女性達がすぐに出てきて、ブライアをタンカに乗せて連れて行く。

『鬼設定過ぎんだろ……馬鹿学長のやつ』

 ワンダはブライアを見送りながら、彼女の掠れるようなつぶやきがマイクに拾われて小さく聞こえてきた。

 ただ、すぐにワンダは表情をあらためて、ニコリと笑って見せた。

『さてさて……ブライアは残念でしたねー。しかし、彼女の健闘を祝して盛大な拍手で送りましょう!』

 ワンダの声掛けにより、観客達が立ち上がっての盛大な拍手でブライアは舞台からはけていった。

『さてと、続いては! リック・ファン・ブルック! 出ておいでー』

「「「おおおおおおおおお!」」」

 ワンダの呼びかけで、リックが登場する。

 そのリックの登場で再び歓声で沸き上がった。

 ゴーレムとリックとの戦いは……炎属性の魔法を得意としていたリックにはゴーレムが放つ圧縮された水弾は分が悪かった。

 それでも、リックは無属性の魔法である【シールド】を使い、水弾を受けて、戦いを続けていた。

 しかし、彼もブライアと同様に決め手となる魔法がなく。そのまま時間制限である十分を使い切ってしまったのだった。

 観客達は貴族の中でも優秀な魔法使いを排出している家の出であるリックですら、ゴーレムにほとんど傷を負わすことができなかったところを目の当たりにして動揺が走っているようだった。

 実際に俺の周囲でもざわざわと声が聞こえてくる。

「おいおい、今年は全員負けるんじゃ」

「%#%%#、そりゃーねーよ。俺はアリアちゃんに賭けているんだ!」

「俺はリックとアリアちゃんに賭けていたんだがなぁ。%#%#$%が!」

「あぁ、リックククゥなんで負けたんだー生活費がー母ちゃんごめんよー」

「ぎゃははは……生活費は駄目だってワンダちゃんが駄目だって言ってくれていただろうに$%$#$#$#$だぜ」

「ふっ俺は全員負けるに生活費を賭けてんだぜ。あのゴーレムはクソ強いから安心してるぜ」

 まぁ……賭け事をしている人は不安だよね。てか、生活費は駄目でしょうに。

『うむ……なかなか強固に作られたゴーレムだなぁ』

『そうですね。そして、あの水圧弾は面倒ですね』

『リナリーなら……あのゴーレムをどう倒す?』

『私ですか? 私はあんな鎧切り裂けますよ』

『……あ、はい。あぁ……なるほど、そうですか』

 リナリーさんは真正面から行くかー。

 さすがに参考にはならんな。

 俺ならどうするか……動力源がありそうだから、そこを狙うのもいいだろうが鎧で隠れているようだし。

 どのみち鎧を破壊しないといけないのかな。

『さてと、準備が整ったようだね! ラスト! アリア・ファン・ローベル! 出ておいでーあとはお前に掛かっている!』

「おおおおおおおおお!」

「あとはお前に掛かっている!」

「全負けはやばい!」

「頼むぞー!」

 俺が考え事をしているとワンダから声が上がった。

 すると、観客達も動揺を振り払うように声援を上げていた。

 アリアはやっぱり少し恥ずかしそうに姿を現した。

『本当に頼むぞ! 今な、馬鹿な学長の鬼畜ゴーレムの所為で盛り下がって仕方ないんだ!』

『いたた……あ』

 ワンダは近づいてきたアリアの肩をバンバンと叩く。

 アリアは叩かれた肩を痛そうにしながらも視線は舞台の上に配置されていたゴーレムに向けていた。

 そして、ゴーレムの前にまで進み出た。

『さぁ……アリア! 頼んだよ! そろそろ始めようか!』

『……大丈夫です』

『では制限時間は十分……この砂時計の砂がすべて下に落ちるまでだからね! それではー始め!』

 ワンダは号令とともにワンダの隣にあった巨大な砂時計を反転させた。

 そして、ワンダの号令とともにアリアはバッと手を広げた。

『……【スターリー・スカイ】!』

 アリアが水属性の魔法【スターリー・スカイ】を呟く。

 アリアの周囲に百個ほどのピンポン玉サイズの水球が表れて、彼女を中心に周囲を回り始めたのだった。

 アリアが魔法を唱えたのと、ほぼ同時にごごごごご……と地鳴りのような音ともにゴーレムが動き出した。

 ゴーレムは前進し、アリアまでの距離を詰めてると、右腕を真横に振り抜いた。

 対するアリアは躱しつつ、離れるように下がる。

 そして、パチンと指を鳴らした。

 すると、アリアの周囲で回転していた水球が七つほど鋭い千本という針状の武器のように変位し、スパーンっとゴーレムの左肩の付け根の辺りを集中して打ち抜いた。

 アリアの攻撃はゴーレムの左肩を破壊するまでには至らなかったが、小さなくぼみをいくつも付けた。

『なるほど……まずはゴーレムの攻撃手段を奪うところから始めるのか』

 アリアの攻防を見ていた俺は感心して呟く。

 すると、リナリーが付け加えるようにゴーレムとの戦いに関する解説してくれる。

『まぁ、そうでしょうね。先ほどのブライアという子も短剣の予備を複数準備しておき、その短剣をゴーレムの関節にいっぱい突き刺しておけば……動きを制限できて勝機もあったかも知れないですね』

『あ、そうか。そうだな』

『ゴーレムはどうしても関節部が弱点になりますから』

 関節部を攻撃されたことで動きを鈍らせたゴーレムは、圧縮された水弾を放ってきた。

 しかし、その水球も同時に放たれたアリアの【スターリー・スカイ】による攻撃で、勢いが殺されて無効化してしまう。

『あーすげえな。勝ちそうじゃん』

『そうですね。あとは……止めですね』

 ゴーレムの攻撃を完全に攻略したアリアはゴーレムの頭部……特に圧縮された水弾を放つ口元の部分を【スターリー・スカイ】で発生させた水球で狙い打った。

 すると、ゴーレムの頭部が破壊されてしまう。

 頭部が破壊された時点でゴーレムは完全停止し、ズドンっと地に響く音を鳴らして真後ろに倒れたのだった。

『はぁ……はぁ……何とか』

 アリアはゴーレムを倒すに至ったが、肩で息を吐きながら、その場にパタンと座り込んでしまった。

 アリアとゴーレムの攻防を見ていた観客からは今までにまして大きな……熱狂的な歓声が上がった。

「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」

『おおおおおお! すっごいなぁ! アリア! 先生驚いちゃったぞ!』

『……わぁ!』

 ワンダもマイクを振り回しながら、アリアの元に駆け寄ってガバッと抱き付いた。

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