神様の気遣いで転生したら聖女のペットに……。明日からは自立のため頑張って働こうと思う。

太陽クレハ

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三十八話 プラム。

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 プラムは結局五分ほど俺のもふ毛に顔を埋めるて頬ずりしていた。

 ガバッと顔を突然上げて、アリアに向けて口を開いた。

「アリア! この子、僕にくれないかな?」

「ぜ、絶対にダメです!」

 プラムの申し出にアリアは即答で拒否した。

 すると、プラムは少しひるんだ様子で俺の体をキュッと抱きしめた。

「う……じゃじゃじゃじゃあ、この子の子供がくれる?」

「え? ……えっと、それは……どうなんでしょう?」

 アリアは困ったように俺と目を合わせる。

 子供? どうなんだろうか?

 俺も考えていなかった。

 今の俺は猫だし……猫は一歳くらいには子供を作る期間があったはずだよなぁ。

 俺の場合どうなんだろうか? 発情したりするのだろうか?

 それは……それで、自分がどんな感じになるのか気になる。

 俺が首を傾げて考えていると、アリアも考えあぐねた結果首を横に振って答えた。

「んーわかりません。だから、$##$#%難しいです」

「えーそんな! アリアと僕の仲じゃないか!」

「プラムは友達だけど。こればかりはノヴァの問題なので」

「……そう、そうだね。ご、ごめんよ。自分を見失っていた」

 アリアの答えを聞くと、プラムは冷静さを少し取り戻して申し訳なさそうに謝りだした。

「おほんおほん」

 アリアの後ろで控えていたリナリーから咳ばらいが聞こえてきた。

 アリアとプラムが後ろに視線を向けるとリナリーが口を開いた。

「アリア様、プラム様、会話の邪魔をして申し訳ないのですが……。周りが騒ぎになっていますのでここを離れましょうか?」

 リナリーの言葉で、我に返った二人が周りを見ると百を超える人だかりができていたのだ。

 それから俺達は人だかりをかき分けて、その場を離れるのだった。





「お二人とも有名人なのですから」

「うぐ……」

 リナリーが苦言を呈すると、リナリーに抱えられたアリアは表情を曇らせた。

「あんなところで立ち止まっていたら人だかりできてしまいますので……さすがに警備の兵士の方に迷惑かと」

「そうでした。気を付けるようにします」

 へぇー聖女であるアリアが有名人というのは理解できるのだけど、プラムも有名人なんだな。

 彼女も聖女なのだろうか?

 俺はリナリーとアリアの会話を聞きながらそんなことを考えていた。

 ちなみに俺の状況は……。

「ふふ、ノヴァは何か食べたい物はあるかな?」

 リナリーの苦言を我関せずと言った風に、笑みを浮かべたプラムに抱えられて屋台が並んでいる道を進んでいた。

 前を歩くリナリーの肩口の辺りからアリアがひょっこりと顔を出した。

「あのプラム、そろそろ……ノヴァを私に返していただいていいですか?」

「えーアリアはいつもノヴァと一緒に居られるんでしょ? 今は少し僕に貸してくれてもいいじゃない」

「うう……私も実技部門に出る前にノヴァ#%#%を補給しなくてはいけないのです。でなければ力が出せません」

 屋台で何を食べるか考えていた俺はしょんぼりした様子のアリアの声を聞いてむくっと顔を上げた。

「……っ」

 俺は居ても立っても居られなくなって猫の軟体を生かしプラムの腕の中からスルりと抜け出す。

 そして、リナリーの肩にストンと飛び乗ってアリアの腕の中に滑り込んだ。

「ああ、ノ、ノヴァ」

「ノヴァ、来てくれたんですね! ふふ、ワシャワシャ」

 プラムは俺が離れたことで、すごく残念そうな表情になっていた。

 対して、しょんぼりとしていたアリアは俺が現れてすぐに笑顔になって、俺の体に抱き付いてもふ毛をワシャワシャと撫でだした。

『何か食べたい物がありますか? ふふ、ニンニクが入っている物は駄目ですよ?』

【ハーネットの指輪】の意志疎通する効果が持続していたのか、リナリーの声が俺の頭の中に聞こえてきた。

『むむ、わかっている……ニンニクはそうだな』

 ニンニクは何度かチャレンジしてるんだが、毎回お腹が痛くなって下痢が止まらなかった。

 うむ……何度も食べているうちに慣れて食べるようにならないかと甘い期待していたのだが、結局慣れることはなかった。

 挑戦する度にリナリーには呆れられるのだが、それだけ俺にとってニンニクが食べられないのは残念なことなのだ。

 今はニンニクのことはいいとして、どうしようかな?

 んーできたら食べたことのない且つ美味しそうなやつがいいな。

『あ……えっと、あの……三日月型のパンみたいなやつは何だ?』

『あぁ、アレはエンパナーダですね。美味しいですよ』

『じゃあ食べてみたい』

『わかりました』

 一度頷いたリナリーはいまだに俺のもふ毛をワシャワシャと撫でまわしているアリアに視線を向けて、口を開いた。

「アリア様」

「ノヴァ……もふもふ」

 リナリーの呼ぶ声が聞こえないのか、アリアは俺をワシャワシャと夢中で撫でまわしている。

「……あのアリア様?」

「……は! はい、なんでしょう?」

「はい。ノヴァがアレを食べてみたいそうですが。アリア様はどうされますか?」

 我に返ったアリアに、リナリーがエンパナーダの屋台を指さしながら問いかける。

「そうですね……プラムも……アレ?」

 アリアがプラムの居た方向に視線を向けるとプラムは居なくなっていた。そして、その場にいた俺達が視線を巡らしていると……。

「店員さん! そのエンパナーダを十個ほど包んでくれるかい?」

 聞こえてきた声の先にプラムが居て、彼女は屋台でエンパナーダを買っていた。




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