38 / 57
三十八話 プラム。
しおりを挟むプラムは結局五分ほど俺のもふ毛に顔を埋めるて頬ずりしていた。
ガバッと顔を突然上げて、アリアに向けて口を開いた。
「アリア! この子、僕にくれないかな?」
「ぜ、絶対にダメです!」
プラムの申し出にアリアは即答で拒否した。
すると、プラムは少しひるんだ様子で俺の体をキュッと抱きしめた。
「う……じゃじゃじゃじゃあ、この子の子供がくれる?」
「え? ……えっと、それは……どうなんでしょう?」
アリアは困ったように俺と目を合わせる。
子供? どうなんだろうか?
俺も考えていなかった。
今の俺は猫だし……猫は一歳くらいには子供を作る期間があったはずだよなぁ。
俺の場合どうなんだろうか? 発情したりするのだろうか?
それは……それで、自分がどんな感じになるのか気になる。
俺が首を傾げて考えていると、アリアも考えあぐねた結果首を横に振って答えた。
「んーわかりません。だから、$##$#%難しいです」
「えーそんな! アリアと僕の仲じゃないか!」
「プラムは友達だけど。こればかりはノヴァの問題なので」
「……そう、そうだね。ご、ごめんよ。自分を見失っていた」
アリアの答えを聞くと、プラムは冷静さを少し取り戻して申し訳なさそうに謝りだした。
「おほんおほん」
アリアの後ろで控えていたリナリーから咳ばらいが聞こえてきた。
アリアとプラムが後ろに視線を向けるとリナリーが口を開いた。
「アリア様、プラム様、会話の邪魔をして申し訳ないのですが……。周りが騒ぎになっていますのでここを離れましょうか?」
リナリーの言葉で、我に返った二人が周りを見ると百を超える人だかりができていたのだ。
それから俺達は人だかりをかき分けて、その場を離れるのだった。
「お二人とも有名人なのですから」
「うぐ……」
リナリーが苦言を呈すると、リナリーに抱えられたアリアは表情を曇らせた。
「あんなところで立ち止まっていたら人だかりできてしまいますので……さすがに警備の兵士の方に迷惑かと」
「そうでした。気を付けるようにします」
へぇー聖女であるアリアが有名人というのは理解できるのだけど、プラムも有名人なんだな。
彼女も聖女なのだろうか?
俺はリナリーとアリアの会話を聞きながらそんなことを考えていた。
ちなみに俺の状況は……。
「ふふ、ノヴァは何か食べたい物はあるかな?」
リナリーの苦言を我関せずと言った風に、笑みを浮かべたプラムに抱えられて屋台が並んでいる道を進んでいた。
前を歩くリナリーの肩口の辺りからアリアがひょっこりと顔を出した。
「あのプラム、そろそろ……ノヴァを私に返していただいていいですか?」
「えーアリアはいつもノヴァと一緒に居られるんでしょ? 今は少し僕に貸してくれてもいいじゃない」
「うう……私も実技部門に出る前にノヴァ#%#%を補給しなくてはいけないのです。でなければ力が出せません」
屋台で何を食べるか考えていた俺はしょんぼりした様子のアリアの声を聞いてむくっと顔を上げた。
「……っ」
俺は居ても立っても居られなくなって猫の軟体を生かしプラムの腕の中からスルりと抜け出す。
そして、リナリーの肩にストンと飛び乗ってアリアの腕の中に滑り込んだ。
「ああ、ノ、ノヴァ」
「ノヴァ、来てくれたんですね! ふふ、ワシャワシャ」
プラムは俺が離れたことで、すごく残念そうな表情になっていた。
対して、しょんぼりとしていたアリアは俺が現れてすぐに笑顔になって、俺の体に抱き付いてもふ毛をワシャワシャと撫でだした。
『何か食べたい物がありますか? ふふ、ニンニクが入っている物は駄目ですよ?』
【ハーネットの指輪】の意志疎通する効果が持続していたのか、リナリーの声が俺の頭の中に聞こえてきた。
『むむ、わかっている……ニンニクはそうだな』
ニンニクは何度かチャレンジしてるんだが、毎回お腹が痛くなって下痢が止まらなかった。
うむ……何度も食べているうちに慣れて食べるようにならないかと甘い期待していたのだが、結局慣れることはなかった。
挑戦する度にリナリーには呆れられるのだが、それだけ俺にとってニンニクが食べられないのは残念なことなのだ。
今はニンニクのことはいいとして、どうしようかな?
んーできたら食べたことのない且つ美味しそうなやつがいいな。
『あ……えっと、あの……三日月型のパンみたいなやつは何だ?』
『あぁ、アレはエンパナーダですね。美味しいですよ』
『じゃあ食べてみたい』
『わかりました』
一度頷いたリナリーはいまだに俺のもふ毛をワシャワシャと撫でまわしているアリアに視線を向けて、口を開いた。
「アリア様」
「ノヴァ……もふもふ」
リナリーの呼ぶ声が聞こえないのか、アリアは俺をワシャワシャと夢中で撫でまわしている。
「……あのアリア様?」
「……は! はい、なんでしょう?」
「はい。ノヴァがアレを食べてみたいそうですが。アリア様はどうされますか?」
我に返ったアリアに、リナリーがエンパナーダの屋台を指さしながら問いかける。
「そうですね……プラムも……アレ?」
アリアがプラムの居た方向に視線を向けるとプラムは居なくなっていた。そして、その場にいた俺達が視線を巡らしていると……。
「店員さん! そのエンパナーダを十個ほど包んでくれるかい?」
聞こえてきた声の先にプラムが居て、彼女は屋台でエンパナーダを買っていた。
0
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
神によって転移すると思ったら異世界人に召喚されたので好きに生きます。
SaToo
ファンタジー
仕事帰りの満員電車に揺られていたサト。気がつくと一面が真っ白な空間に。そこで神に異世界に行く話を聞く。異世界に行く準備をしている最中突然体が光だした。そしてサトは異世界へと召喚された。神ではなく、異世界人によって。しかも召喚されたのは2人。面食いの国王はとっととサトを城から追い出した。いや、自ら望んで出て行った。そうして神から授かったチート能力を存分に発揮し、異世界では自分の好きなように暮らしていく。
サトの一言「異世界のイケメン比率高っ。」
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる