神様の気遣いで転生したら聖女のペットに……。明日からは自立のため頑張って働こうと思う。

太陽クレハ

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三十五話 カワイイ。

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『ここがリナリーの部屋か……?』

『そうです』

 俺はリナリーの部屋に連れていかれた。

 ちなみに今、リナリーと二人で会話できているのはもちろんアリアからリナリーが【ハーネットの指輪】を借りたことにより実現していた。

 彼女の部屋は殺風景な部屋だった。

 部屋の中には机と椅子、ベッド、本棚があるだけだ。

 リナリーのことだから剣とか武器がいっぱい置いているかと思ったけど、どうやら違った。

『ここに座ってください』

『うん、あぁ。ありがとう』

 俺は座るように促されたベッドに座らされた。

 すると、リナリーはベッドに座ることはなく、ベッドに座る俺の前に正座する形で俺と視線の高さを合わせるように座った。

『……む』

『ど、どうしたんだ?』

 リナリーの顔が近づいてきて、俺の目の前にやってくる。

 そして、まっすぐに俺の目を見てニヤリと笑みを浮かべた。

 俺は何がどうなっているのか分からずに目を見開いて驚き、若干リナリーと距離を離した。

 だが、リナリーはそんな俺の戸惑いを気にすることなく抱きしめてきた。

『可愛い、可愛すぎます』

『ふぎゃ……』

 女性特有の甘い匂いをとか甘い妄想を浮かべる余裕は……残念ながら俺にはなかった。

 なんせ、強い腕力のリナリーに抱きしめられて俺の体の中身が飛び出そうなのである。

 むむむ……くるじい。息ができん。

 それでも十分ほど強い抱きしめに耐えていたんのだが、耐えられなくなってリナリーの肩をタップした。

『もう無理。リナリーギブギブ』

『おわ! わ、私としたことが』

 我に返ったと言った様子のリナリーがガバッと体を離して、俺からすこし距離をとってくれた。

『ふはぁ……空気! はぁはぁ死ぬかと思ったぁ~』

『すみません! 私としたことがノヴァのあまりに可愛かったんで』

『リナリー、何を……言っているんだ?』

『自覚がないかもしれませんが、今のノヴァはすごく可愛いですよ』

『それはさっき姿見で見たし、わかっているんだが』

『思わず抱きしめたくなってしまいました……って何かノヴァの体から白い煙が漏れ出ているようですが?』

『ん? おわわわわ……な、なんだ? この煙は?』

 俺は自分の体に視線を下すと、白い煙が全身から漏れ出している。

 それも徐々に漏れ出ている白い煙も増えていっているように見えた。

『だ、大丈夫なんですか? 私の所為で?』

『いやいや……わわわからない! 初めてことだし!』

 白い煙が出始めて三十秒……右腕に違和感があって動かしてみると、砂のお城が崩れるように俺の右腕はもろく崩れ落ちた。

 そして、崩れ落ちた右腕は白い煙となって消えてしまった。

 その自分の腕が消えていくさまは俺にとってかなりショッキングな光景で、思わず表情をゆがめる。

 なんだ? 何だこれ?

 何とか、白い煙の出どころを左手で抑えようとしたんだが、白い煙が漏れ出すのは止めることはできなかった。

 今度は全身が崩れはじめて、白い煙になり消えていった。

 一分くらいして、人間の体は白い煙が完全に消え去って、最後に残ったのは猫の姿の俺だった。

『『……はぁ』』

 猫の姿に戻った俺とリナリーは、顔を見合わせて大きく息を吐いた。

『はぁ……焦った』

『まぁ何にせよ。何か致命的な問題でないようでよかったです。ちゃんと元の姿に戻っているんですよね?』

 リナリーは俺の脇を抱えて体をグイッと持ち上げて、ベッドに座り、俺を膝の上に乗せて確かめるように体を触ってきた。

 俺も体を動かしてみて問題ないか確認していく。

『うむ……問題ないかな? この現象はおそらく【変身】の効果が切れたことによるものだな』

『なるほど、【変身】が……』

『うん。腕が崩れた時はどうなることかと……心臓に悪いな』

 俺がげんなりとした表情になると、リナリーが小さく笑って俺の頭を撫でた。

『ふふ……わわわからない! っと言って取り乱していましたからね』

『……忘れてくれ』

『ふふ、仕方ありませんね』

『うむ、よろしく。それにしても、なんで【変身】の効果が切れたんだろうか? なんかしらの制限でもあるのだろうか? スキルってこういうもんなのか?』

『はい。スキルにはそれぞれ制限があると言われていますね。時間制限でもあったのでしょうか?』

『時間制限……だとすると三~四時間くらいか? あ……それか、リナリーが苦しいほどに抱きしめてきたからか?』

『う……それはすみませんでした』

『次は気を付けてくれ、リナリーの腕力は強すぎて潰れて中身が飛び出してしまうから』

『は、はい。気をつけます』

 うむ……【変身】の【クラウンズスキル】については制限を含めていろいろ検証がいるかも知れないな。

 俺が黙り考えていると、リナリーは俺のもふ毛をワシャワシャと撫でながら小さく笑った。

『……』

『そういえば、私達が二人でちゃんと話すと言うのは初めてですね』

『そうだな』

『前から聞きたいことがあったんです』

『ん? 何だ?』

『最初……私と最初に戦った時……アリア様が倒れたことを見て……怒りのままに私がノヴァに剣を振るいました』

『あぁ……アレはやばかったな。ほんと死ぬかと思ったもん』

『はい。後でアリア様から事情を聞けばノヴァは何も悪くなかったんですよね?』

『まぁ……そうなるな』

『ノヴァ、貴方はあの時謝る私に対してなんであんな簡単に許してくれたんですか?』

 リナリーの問いかけを聞いて、俺は首を傾げた。

『ん? んん? え? 何で簡単に許したか? うんなもん、謝られたし』

『だけど、一方的に殺されそうになったんですよ?』

『殺されそうだったから恨む? んー? 殺されそうになったら恨むのか?』

『いや、私が聞いているんですが……普通はそうですね。どう考えても理不尽だったです』

『んー? 普通そうなのか? いや、確かに死に直面して……死にたくないって強く思ったし……正直怖いとも思ったが……恨む? あ……そもそも、あの時俺は弱者だったとは言え、別に無抵抗ではなかったちゃんと矛を持って戦っていたろ? だからじゃないか?』

『……弱者を言い訳にしないという訳ですか』

『あーん? なんかカッコいい言葉になったな。まぁそれでいいや』

 リナリーは小さくため息を吐いた。

『貴方はどんな環境で生きてきたか気になりますね。ただ、わかりました。許してくれて、ありがとうございます』

『話はそれでいいのか? じゃ今度は俺の番な。リナリーには聞いてみたかったことが、いくつかあるんだけどな』

『そうですか? いいでしょう。なんでも答えてあげますよ』

『そ、そうか、ありがとう。冒険者で活動していた時の話をいろいろ聞きたいな』

『冒険者の時の話ですか? それほど面白い話ではないと思うのですが……まぁいいでしょう。あ……そうだ。横になって話しましょう』

 え? なんで? と思うのと同時にリナリーにベッドへと押し倒された。

 そのままリナリーに俺は抱きしめられる形で横になった。今度は加減してくれているのか苦しくはない。

 俺は多少の疑問を抱きながらも、眠たくなるまでリナリーの冒険者時代の話を聞いていたのだった。


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