神様の気遣いで転生したら聖女のペットに……。明日からは自立のため頑張って働こうと思う。

太陽クレハ

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三十二話 変身。

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 ノヴァサイドに戻る。



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 アリアの屋敷に住むようになって一カ月が経っていた。

 俺はアリアの部屋の一人掛けソファでクデーっと突っ伏している。

 はぁーもうリナリーに負けっぱなしである。

 うぅ……悔しい……。

 あと、動けん。

 ちなみに、動けんのは負けたことが悔しすぎて動けんのではなく、単純に体が痛いのだが。

 理由はいまだに【肉体強化】の加減を掴むことができず、壁に突っ込んで全身を打ち付けているから、体が悲鳴を上げても無理ないだろう。

 あ、それから【斬撃】も一応できた。

 しかし、このスキルに関しても【肉体強化】と同様に加減出来ずに習練場の壁を切り裂いてしまい、リナリーに普段の使用を禁止されてしまった。

 それで、しっぽを操る訓練も日常的にやっている……なぜかアリアが手伝ってくれるから。

 ただ、戦闘に使用できるほど使いこなせていないが。

 んー全体的にうまく行っていないんだよなぁー。

 これは当分の間はリナリーに対して負けが続くかも知れんなぁー。

 ぐぬぬぬ。

 はぁ……ここで悔しがっても仕方ないか。

 仕方ないから、あの新たに追加された訓練でもやるか。

 俺はまだ痛む体をのっそりと起き上がらせた。

 そして、俺の首にかかっていた巾着からビー玉くらいのサイズの紫色の結晶をいくつか取り出した。

 この紫色の結晶は魔晶石という代物である。

 魔晶石は魔物の核となっている魔石を加工して、半永久的にマナの出し入れができるというものらしい。

 それで、これから魔晶石を使った訓練を始める訳だが、その訓練内容としては単純に魔晶石へマナを込めると言うものである。

 まぁ……言うだけなら簡単に聞こえるかもしれないけど。

 これがマナの制御がうまくできない俺にとってはすごく難しいのだ。

 つまり、この訓練の目的はマナの制御の精度を上げるためのものであった。

 さてさて……やりますか。

 俺は両手で魔晶石を持つ。

 そして、体の内側にあるマナを両手に集める。

 最初に比べてマナを集めたりするのはずいぶん早くできるようになっていた。

 気を抜くな……ここから……ここからが重要なんだ。

「ふすぅー……」

 俺は大きく息を吐く。

 手の平にあったマナを意図的に動かす。

 そして、マナが少しずつ魔晶石に吸い込ませていく。

 少しずつ……少しずつ……慎重に……慎重……っ!

 魔晶石はマナを取り込むごとに紫色だった色が色濃い光を帯びていった。

 しかし、次の瞬間だった。

 気を抜いたと言う訳ではないと思うのだが……。

 魔晶石へ大量のマナを一気に流入させてしまい、魔晶石の光が強くなったと思ったら、ピキピキっと言う音と共に魔晶石の色が金色に変色してしまった。

 この魔晶石が金色になる現象は過剰すぎるマナが流入した時に起こるもので、ヒーライトや光石なんかと呼ばれている。

 つまり、これは訓練失敗である。

 はぁ……うまくいかんなー。

 俺は金化した魔晶石を眺めながら、ため息交じりの息を吐いた。

 まぁ……ただ、訓練としては失敗であるが、ヒーライトは高価で取引されているので……。

 仮に金化することで魔晶石として使えなくなったとしても問題はなかった。

 むしろ、逆にリナリーから魔晶石の金額と手数料を差し引いたヒーライトの買い取り額を貰うことできるほどに……。

 これは、いつか旅するための金策になっているのはいいのだが、今は違うのだ。

 繰り返すが、訓練は失敗。

 このままではいつまであってもリナリーに勝てんのじゃー。

 俺はカーペットの上であお向けになって、天井を見上げる。

 んー難しいんだよなーやっぱ。

 気を抜いたつもりなく、慎重にやっているつもりなんだけど。

 この難しさを例えるなら、三十リットル入る業務用バケツに満杯まで水が注がれていて、そのバケツから二百ミリリットル入る牛乳瓶へ直接水が零れないよう精確に注いでくださいと言われている感じである。

 んー俺の無駄にあるマナ量に対して、スキルや魔晶石で使用するのに必要なマナ量が少なすぎる?

 ということは、俺の今のマナ量を使い切るほどの【クラウンズスキル】ないだろうか?

 今まで【肉体強化】と【斬撃】のスキルに力点を置いていたから考えなかったが試してみる価値があるよな?

 あ……いやいや、待てよ?

【クラウンズスキル】の【火炎龍】は試行錯誤していく途中で大量のマナを込めて炎を出せないか試してみてみたことがあったわ。

 その時、炎は出なかったなぁ……。

 一応、他の【クラウンズスキル】も試してみるか?

 一つが駄目だったからと言って、すべて駄目とは限らないよな。

 そうだな、いったん【火炎龍】以外の【クラウンズスキル】も試してみよう。

 それで、俺が持っている【クラウンズスキル】は……【定変者(さだめをかえるもの)】、【火炎龍】、【変身】、【巨大化】、【食育】の五つである。

 まずは何を試してみるか。

 とりあえず、【火炎龍】は前やってできなかったから外すとして。

 アリアやリナリー曰く、スキルを使用する際はスキルを使った時に自分をイメージすることが重要だと言っていた。

 その点で【定変者(さだめをかえるもの)】と【食育】は名前どんな効果なのかイメージするのは難しい。

 となると残るのは【変身】、【巨大化】の二つだろう。

 名前からどのような効果なのか理解できる【クラウンズスキル】である。

 ただ、どういう仕組みで……変身したり、巨大化するのか分からないのが問題なんだけど。

 まぁ……仕組みは分からんが、今回は無駄にあるマナ量を使ってとりあえずやってみるか。

 それで【変身】と【巨大化】だが、普通に考えて【変身】の方かな?

【巨大化】はこの部屋でやるのは危険かなぁ……。

 もしもここで本当に巨大化してしまったら困るだろうし。

 では、【変身】を試してみよう。

 えっと、まずはどんな姿に変身するのか対象は考えないといけないだろう。

 変身するとして、それはやっぱり人間だろうな。

 今の体は……本当の猫で言うと二歳くらいの大きさである。

 ただ、今の体の大きさを、人間の大きさに変換すると赤ちゃんと変わらない。

 できることなら、赤ちゃんになるのは勘弁したいから、一応俺の子供の頃……五歳の時くらいの姿をイメージにしよう。

 ……目つきが悪くなってしまうが仕方ない。

 前世の姿は鏡で見飽きるほど見たから、一番イメージし易い姿なのだ。

 さてと、イメージする姿はとりあえず決まった……。

 俺はカーペットの上で起き上がって座りなおすと、ゆっくり目を瞑った。

 そして、深く……深く息を吐いた。

「ふすゅー」

 集中し、体内部にあるマナをありったけ体に纏わせる。すると、全身が湯気のような輝くマナに包まれた。

 今の体を変身させて……作り変える。

 そして、イメージは前世で五歳だった時の自分の姿へ。

【変身】。

 俺は心の中で【クラウンズスキル】の【変身】を使用できるように念じた、その瞬間だった。

 すぐに異変を感じ取って目を開くと、俺の全身を取り巻くマナがブワッと白く染まって……まるでホイップクリームのようにもこもこっと膨張を始めていた。

 な、なんだ? 何が起こって……。

 白いホイップクリームのような……これは何だ? 俺のマナなのか? うっぷ!

 その白いホイップクリームのような何かは膨張を続けて、俺の視界が塞がれて何も見えなくなってしまう。




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