神様の気遣いで転生したら聖女のペットに……。明日からは自立のため頑張って働こうと思う。

太陽クレハ

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二十九話 戦う。

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 リナリーと戦い始めて三時間が経っている。

 すごく疲れた。本当に……。

 そして今、何回目か分からないが……リナリーが木刀を俺の首元に突き付けた。

『うぐ……』

『もう一回』

 リナリーは木刀を引くとすぐに距離をとって、木刀を構えなおす。

 もう完全に俺の動きはリナリーに見極められてしまっていた。

 ずっと負けっぱなしである。

 負けるのはやはり悔しい。例え……例え、俺とリナリーに実力差があることが分かっていても。

 どうにか、俺もスキルを……。

 できることならば【肉体強化】をやれるようになれば、今のリナリーになら追い付ける……筈である。

『ふう……』

 俺は大きく息を吐いて、集中しようとする。

 しかし、リナリーは俺が何かしようとしているのを鋭く察して、余裕を与えてくれることはなかった。

 木刀を構えて、間合いを詰めてくる。

 戦いながら、マナを出すの難しい……。

 くっ! このままだと普通にまた負ける。

『ふふ、どうしたんですか?』

『く!』

 リナリーが余裕ある笑みを浮かべながら木刀を振るってくる。

 何を言っているのか分からないが、悔しい。

 木刀をぎりぎり躱すと、躱した勢いそのままに床を転がって距離を取ろうとした。

 やはり余裕を与えまいと、スキルの【斬撃】を放ってきて躱……さなかった。

 斬撃をわざと受けて後方へ弾き飛ばされることで、俺はリナリーとの距離を大きく開ける。

 おそらく牽制のために放った斬撃を俺がわざと受けて後方へ逃れるとはリナリーも予想していなかった。

 リナリーは大きく開いてしまった俺との距離を詰めるために、床を強く蹴る。

 ふぅ……。

 リナリーが近づいてくる刹那の間、俺は大きく息を吐いた。

 昨日ほど多くのマナを感じることはできないが……なんとか。

 えっと、【肉体強化】は全身にマナを纏わせることで常人ならざる身体能力を得るスキルだったな。

 全身にマナを……纏わせる……リナリーはこんな感じで肉体を……。

 あっ……きた。これだ。

『【肉体強化】……』

 俺は……【肉体強化】のスキルが発動して自身の肉体が大きく盛り上がるのを感じた。

 リナリーは俺が【肉体強化】のスキルを使ったことを感じ取ったのか、目を見開く。

 そして、俺との間合いを詰める動きをやめて、逆に距離を開ける。

 ただ距離を開けても攻撃の手を緩めることなく斬撃を放ってくる。

 ダーン!!

 俺はリナリーの斬撃を躱すために床を蹴った。

 すると、床が軋むほどに大きな音を辺りに響かせ……躱そうと床を蹴った方向に勢いよく吹き飛んだ。

 そのまま、二十メートルくらい吹き飛んで、建物の壁に叩きつけられたのだった。

 ズドォォォォォン!

『……っぐえ!』

『だ、大丈夫ですか?』

 リナリーは少し慌てた様子で、俺に駆け寄ってくる。そして、俺に異常はないか確認するためか、俺の身体をペタペタ触る。

 うう……全身が痛くて動けん。

【肉体強化】の加減を間違えたと言うことなのだろうか?

『【肉体強化】はマナの調節が難しいですから……ふふ、それにしても三時間ちょっとの稽古で一応使うことが出来ましたね。これは育てがいがありそうですね』

『……ぐ』

 俺の後ろ脚に触れたリナリーは、小さく笑った。

 ただ、その笑みは肉食動物が獲物を見つけた時のような笑みで、俺は背筋を寒くしたが……全身の痛みに耐えきれずに意識を手放した。

 その日から、スキルの訓練と言いつつリナリーと戦うという苦難の日々が始まるのだが、この時の俺はまだ知らなかった。



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